軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

キルサスの提案

「キルサス……さん」

僕の口が半開きになる。

「キルサスさんもいたんですね」

「ああ。気づかなかったみたいだね」

キルサスは白い歯を見せて、僕に近づいてきた。

「君がゼルディアを倒すところ見てたよ。本当に素晴らしい」

パチパチと拍手をして、キルサスは言葉を続ける。

「しかし、驚いたな。前は十枚程度の紙しか出せなかったのに、どうしたんだい?」

「……基礎魔力が増えるスキルが復活したんです」

僕はキルサスの質問に答えた。

「それでいろんなタイプの紙を大量に具現化できるようになって」

「なるほど。それでゼルディアを倒せたのか」

「はい。でも、僕だけの力じゃありません。僕が止めを刺す前にアスロムさんたちがダメージを与えてくれてたから」

「……あぁ。それはあるだろう。紙の攻撃だけでは六魔星は倒せないからな」

キルサスは目を細くして僕を見つめる。

「だが、君がゼルディアに止めを刺したのも事実だ。だから、僕も考えを変えようと思う」

「考えを変える?」

「ああ。君の限界はDランクだと思っていた。しかし、今の君はCランクレベルといってもいいだろう。だから、君の追放を撤回するよ」

「追放を撤回……」

「そうだ。今まで通りの給料を払うし、将来の幹部候補として、君を育ててあげよう。この僕が直接ね」

キルサスは笑顔で僕の肩に触れた。

「しかし、君が聖剣の団の幹部になった時に、追放された過去があるというのはよくないな。どうだろう? ここは追放などなかったことにしないか?」

「えっ? どういうことですか?」

「君を追放していないことにしようって提案だよ。君だって、追放された冒険者だと笑われるのはイヤだろ?」

「それは無理だと思います」

「無理? どうしてだ?」

「前にアルベルが冒険者ギルドで、僕が追放されたことをみんなに話してたんです。その時、職員の人も聞いてたから」

僕の説明を聞いて、キルサスの眉がぴくりと動いた。

「……そうか。だが、それはアルベルの勘違いということにすればなんとかなるだろう」

「勘違い……ですか?」

「ああ。追放の正式な書類があるわけでもないしな」

「必死ですね」

無言だったアルミーネが口を開いた。

「んっ? 必死?」

キルサスの視線がアルミーネに向く。

「君は誰だ?」

「私は錬金術師のアルミーネ。ヤクモくんのパーティーのリーダーです」

「ヤクモの……」

キルサスの目が針のように細くなった。

「必死とはどういう意味かな?」

「六魔星を倒したヤクモくんが聖剣の団の団員ってことにしたいんでしょ?」

アルミーネはダークブルーの瞳でキルサスを見つめる。

「ヤクモくんはゼルディアに止めを刺したから、報奨金の分配が高くなる。そして、ヤクモくんが聖剣の団の団員なら、そのお金は団に支払われることになります」

「もちろん、金はヤクモにボーナスとして半分を渡すよ」

「それでも半分手に入るのは美味しいですよね?」

「それは……」

キルサスの頬がぴくぴくと痙攣する。

「でも、無理ですよ。私が冒険者ギルドに書類を提出してますから」

「書類?」

「はい。ヤクモくんが私のパーティーのメンバーだと書いた書類です。そこに他の団との関わりがないことも明記してあります」

淡々とした口調でアルミーネは言葉を続ける。

「ヤクモくんのサインもしてあるし、冒険者ギルドも認めないと思います」

「そっ、そうか。ならば仕方がない。タンサの町に戻った後で、聖剣の団の団員に戻る手続きをしよう」

「いえ、僕は聖剣の団に戻りません!」

僕はきっぱりと言った。

「アルミーネのパーティーのメンバーでいたいから」

「いや、待て! パーティーより団に入ったほうがいいだろう。団なら大人数だし、割のいい仕事も入りやすい。それに固定給もあって安全でもある」

キルサスは僕に顔を近づける。

「しかも、聖剣の団はタンサの町で五本の指に入る実力があるんだぞ」

「そんなことは関係ないんです。アルミーネたちは信頼できる仲間で、ずっといっしょにいたいと思ってるから」

「それは間違った考えだ!」

キルサスが僕の両肩を掴んだ。

「冒険者は命にかかわる仕事だ。いっしょにいたいなんて考えで仲間を選ぶのは間違っている。だから、君は聖剣の団に戻るべきなんだ。聖剣の団なら、より安全に金を稼ぐことができるんだから」

「違いますよ」

アルミーネが言った。

「もし、安全にお金を稼ぐことが最優先なら、ヤクモくんは聖剣の団を選びません」

「んっ? 自分たちのパーティーのほうが安全だと言いたいのか?」

キルサスはアルミーネをにらみつける。

「君のパーティーにはAランクのキナコがいるようだが、僕はSランクだし、他にもAランクの冒険者が四人もいる。団員の数も五十人以上いるんだぞ」

「いいえ。私たちと比べているんじゃありません」

アルミーネは少し離れた場所にいるシルフィールとアスロムを指さした。

「キルサスさんがここに来る前に、十二英雄の二人がヤクモくんを団に誘ってました」

「……え?」

キルサスがぽかんと口を開けた。

「神樹の団と月光の団が?」

「はい。どっちも好待遇でヤクモくんを団員にしたいそうです。アスロムさんはSランクの冒険者と同じ給料をヤクモくんに払うみたいですよ」

「……いっ、いや、しかし。ヤクモは聖剣の団の団員だったんだ」

「でも、安全にお金を稼ぐことが重要なら、聖剣の団より、月光の団か神樹の団に入るほうがいいですよね? リーダーは十二英雄だし、実績も聖剣の団より上だから」

「それは……」

キルサスは反論できずに唇を噛む。

「ヤクモくんを勧誘するのはいいですけど、もっと、いい条件にしたほうがいいですよ」

「……くっ」

キルサスは短く舌打ちをして、僕たちから離れていった。

アルミーネが大きなため息をつく。

「あんな人が聖剣の団のリーダーなんだ。あんまり尊敬できないね」

「……キルサスさんはSランクの冒険者で戦闘スキルを五つも持ってるんだ。前に戦ってるところを見たけど、すごく強かった」

僕は去って行くキルサスの後ろ姿を見つめる。

「正直、その強さに憧れていたこともあったよ」

「でも、聖剣の団には戻らないんだよね?」

「うん。僕はアルミーネたちといっしょにいたいから」

「ヤクモーっ!」

ピルンが僕に抱きついてきた。

「やっぱり、ヤクモはピルンを選んでくれたのだ。お礼にちゅーしてあげるのだ」

「いや。キスはいいよ」

僕は笑いながら頭をかく。

ピルンは変な言動も多いけど、いっしょにいると心が安らぐんだよな。

「ところで、ヤクモくん」

アルミーネが僕の肩に触れた。

「シルフィールさんと何かあったの?」

「んっ? 何かって?」

「さっき、敬語を使ってなかったから」

アルミーネは僕に顔を近づける。

「前は敬語で話してたよね? どうして?」

「シルフィールが普通に話してって言ったんだよ。名前もさんづけにしなくていいって」

「……ふーん。そう……なんだ」

アルミーネはちらりとシルフィールを見る。

「もしかして、シルフィールさん……」

「シルフィールがどうかしたの?」

「なっ、何でもないからっ!」

アルミーネはぷっと頬を膨らませて、僕から顔をそらした。