作品タイトル不明
ヤクモの価値
最後のモンスターを倒すと、冒険者たちの歓喜の声が聞こえてきた。
「勝った、勝ったぞ!」
「ああ。俺たちは生き延びたんだ」
「おお、運命の神ダリスよ。感謝します」
喜んでいる冒険者たちを見ながら、僕は額の汗を手の甲でぬぐった。
「ヤクモくん!」
アルミーネが息を弾ませて近づいてきた。その隣にはピルンもいた。
「ゼルディアを倒すところを見てたよ。あんな技も使えたんだね」
「うん。でも、紙のストックがなくなったから、当分使えないかな」
僕は空になった魔法のポケットに触れる。
また、時間がある時に溜めておかないと。
アルミーネと話していると、キナコが近づいてきた。
「ヤクモ。あらためて礼を言わせてもらう」
キナコは僕に向かって頭を下げた。
「心から感謝するぞ」
「キナコがダメージを与えてくれたおかげだよ」
僕はキナコの肩に触れた。
「僕と戦っていた時には、ゼルディアの呼吸が荒くなってたからね。そのせいで魔法の発動も遅かったし」
「……そうか。まあ、俺の前にもアスロムが戦っていたからな。それにシルフィールも」
「じゃあ、みんなのおかげかな」
「ふっ、そうだな。これで死んだ両親の墓に報告に行くことができる」
キナコはふっとまぶたを閉じた。
「ヤクモ!」
シルフィールが駆け寄ってきた。
「何よ、あの技。魔法の壁を剣で斬れるの?」
「うん。大剣の刃に特別な紙を使ったから」
僕はシルフィールに戦神の大剣の技を説明する。
「……ふーん。私の神撃月虹で倒せなかったゼルディアをあなたは一撃で倒したってわけね」
「いっ、いや。それは違うから」
ぶんぶんと首を左右に振って、僕は言葉を続ける。
「シルフィールたちがゼルディアにダメージを与えてくれてたからだよ。さっきも、その話をキナコとしてたから」
「別にいいけどね。あなたの力は認めてるし」
シルフィールは肩をすくめた。
そこにアスロムがやってきた。
アスロムがじっと僕を見つめる。
「君がゼルディアを倒した少年だね。名前は?」
「あ、僕は……ヤクモです」
「ヤクモくんか」
アスロムは僕の手を握った。
「君のおかげで神樹の団は全滅をまぬがれたよ。僕は魔力切れでほとんど動けなかったからね。本当にありがとう」
「い、いえ。運がよかっただけで」
「運で六魔星は倒せないよ」
白い歯を見せて、アスロムが笑う。
「最後の大技の威力もとんでもなかったけど、空中での連続ジャンプ攻撃も見事だった。あれは避けるのが難しいね。君の能力なのかな?」
「はい。僕は紙を具現化する能力があって、極限まで薄くした透明の紙を足場にしてたんです」
「あぁ、なるほど。それでありえない連続ジャンプができたわけか……」
アスロムは顔を僕に近づける。
「いい能力だね。応用が利いて、攻めにも守りにも使える。しかも、君だけにしか使えない能力と言ってもいいだろう」
「ありがとうございます。十二英雄のあなたに僕のスキルが認めてもらえて、すごく嬉しいです」
僕の体が熱くなった。
まさか、十二英雄のアスロムから褒められるなんて。
「ところで、ヤクモくん」
アスロムが僕に顔を近づけた。
「君は神樹の団に興味はないかな」
「えっ? 神樹の団ですか?」
「ああ。僕たちの団はレステ国でもトップクラスの実績があって、王都に団員用の寮もある。食事つきのね」
「団員用に寮まで作ってるんですね」
「ああ。優秀な団員を集めるためには、このぐらいはやらないとね」
アスロムは白い歯を見せる。
「近くに冒険者用の店も多いし、君も気に入ると思うんだが」
「えーと、勧誘ってことでしょうか?」
「そうだよ。ちなみに君の給料はSランクの冒険者と同じ額にするつもりだ」
アスロムは僕に顔を近づけた。
「君のような強者が神樹の団に入ってくれたら、魔王ゼズズを倒せるかもしれない。人族の未来のためにも協力して欲しい」
「それはダメ!」
シルフィールが銀色の眉を吊り上げて、僕とアスロムの間に割って入った。
「ヤクモは月光の団に入るのが決まってるんだから!」
「い、いや、シルフィール。そんなことは決めてないって」
僕はぶんぶんと首を左右に振る。
「僕はアルミーネのパーティーのメンバーだし」
「だから、全員で月光の団に入ればいいでしょ。ゼルディアの広範囲魔法を打ち消したのも、アルミーネみたいだし」
「んっ? あの魔法を打ち消したのは君のパーティーの仲間だったのか?」
アスロムが視線をアルミーネに向ける。
「それなら、たしかにパーティーごと入ってもらってもいいな。魔族殺しのキナコもいるし」
「ダメっ! ヤクモたちは月光の団に入るのっ!」
「いや、それはヤクモくんが決めることだろう。条件では月光の団に負けるつもりはないよ。何なら、ボーナスを追加してもいい」
「私だって、ヤクモのために部屋を用意してるんだから!」
二人は言い争いを始めた。
「十二英雄のアスロムもお前を認めたか」
キナコがぼそりとつぶやいた。
「まあ、六魔星に止めを刺したんだから、当然とも言えるが」
「過大評価されてる気がするけど」
僕は頭をかく。
【魔力極大】のユニークスキルが復活して、僕は強くなった。でも、十二英雄の二人が取り合いするようなレベルじゃないと思う。
その時――。
「ヤクモ……」
聞き覚えのある声が背後から聞こえた。
振り返ると、そこには聖剣の団のリーダー、キルサスが立っていた。
キルサスの背後には、同じ聖剣の団のAランク冒険者エレナの姿もあった。