軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

情勢

「――よぉ、久しぶり、ネル」

予め洞窟の前で待ち構えていた俺は、向こうの森から一つの人影が現れたのを見て、軽く片手を上げてそう言葉を投げかけた。

「……何で僕が来たことをわかったのかはもう聞かないけど……あれだね、このおっかない森を抜けて来て、おにーさんの顔を見て思わず安心しちゃったのが、なんかムカつく」

そんなこと言われましても。

「いやー、惜しかったな、お前。あと三日早く来てればバーベキューで美味いもん食えたのによ」

「……いや、別にいいけどさ。というか、バーベキューって」

現れた人影――勇者の少女、ネルは呆れた顔でそう言葉を溢す。

「それで、どうする?疲れてるだろうし、先に温泉入ってくか?」

「……そうしたいのは山々なんだけど、実はあんまり時間がないんだ。また今度にさせてもらうよ」

少し険しそうな表情で、勇者はそう言った。

「……わかった。まあ、とりあえず中行こうか」

彼女を促して俺は、洞窟の中へと入って行く。

ひんやりと身体を包み込む冷気。

足音を反響させながらその中を進んで行き、やがて重厚な見た目の扉の前へと辿り着く。

俺は躊躇せず扉を開き、中へと入って行ったその先にあったのは――魔王城の裏手にある、温泉の出る例の旅館。

「……え、あ、あれ?あの扉の先って、お城が正面に見えるはずじゃ……」

「それじゃ不便だから、さっき行き先変えといた。あ、靴脱げよ」

「あ、う、うん、わかった」

ガララと旅館の扉を開けた俺は、何だか釈然としない様子の勇者を伴い、以前にも通したことのある部屋へと連れて行く。

部屋の端っこに積まれていた座布団を二つ取り出し、その片方に腰を下ろして胡坐を掻いた俺は、対面に置いた座布団に恐る恐ると腰を下ろした勇者へと切り出した。

「――さて、それじゃあ、話を聞かせてもらおうか」

* * *

「―― 時間稼ぎ(・・・・) だったみたいだね。僕達を襲って来た魔剣の暴漢のような、街で起こっていた事件は全部領主様の目を街中に向けるためのもので、あのアンデッド騒ぎもアルフィーロの街の兵士さん達を街に釘付けにするための策だったみたい。ただ、おにーさんが早くに騒ぎを解決しちゃったから、すぐに王都へ街の様子を報告するために馬を走らせることが出来て、そのおかげで王都の現状を知れたのは 僥倖(ぎょうこう) だったって」

「……なる、ほど」

途中でレイラが持って来た熱い茶をズズ、と吸ってから俺は、そう相槌を打つ。

彼女が今日ここに来たのは、以前街に行った際に俺達が遭遇した騒ぎの顛末を伝えるためだ。

まあ、前にそう約束していたしな。マップが突然侵入者を報せて来て、その侵入者の正体がネルだって時点で「あぁ、伝えに来てくれたのか」とすでに察していた。

そして、その伝えに来てくれた情報というのが―― 国で政変が(・・・・・) 起こったというもの(・・・・・・・・・) 。

どうやら例のクソ王子、切羽詰まってとうとう謀反を起こしてしまったらしい。

一度目は利を煽って有志を募り、派遣した軍の壊滅、二度目は大切な戦力である勇者を勝手に派遣し、そしてその勇者が生死不明――こうして普通に生きているが、しかしどうやらしばらく俺達に付き添っている間に生死不明ということになったそうで、ネルが教会に報告へ戻った後も、教会が王子を圧迫する口実にするため、そのまま生死不明ということになっているらしい。怖い世界だ――という大問題を起こしたために、完全に信用が失墜してもう後がなくなったクソ王子は、一か八かの賭けに出たようだ。

まあ、後が無いヤツの起こすことなんて二通りしかないからな。一発逆転を夢見て賭けに出るか――もしくは、他を巻き込んで盛大に自爆するか、だ。

今回クソ王子は、その選択肢の内の前者を選んだ、という訳である。

あの街で発生したゾンビ騒ぎは、例の俺が捉えた黒尽くめの男を尋問した結果、あそこの領主のおっさんの目を街中だけに向けさせておくためのものだったそうだ。

予め遠征反対派や国王の味方をするであろう勢力の動きを止めておき、同時期に王都で政変を起こして、他が手を出してくる前に迅速に制圧する。

他の反対派の街では特にそこまで露骨な足止めは無かったそうだが、しかしあの街は辺境に位置し、そしてここの森――魔境の森に接するという立地上他の地域よりも冒険者や兵の質が高いらしく、国王側の応援に駆け付けられた場合厄介だということで、万難を排する目的であのゾンビ騒ぎ、それ以外にも魔剣の騒ぎやそれと同じような事件を起こして街に兵力を釘付けにさせようとした訳だ。

その足止め戦略は見事成功し、今現在国王は生死不明、王都は王子の手駒によって完全な軍事統制が敷かれてしまい、それ以外の勢力が手を出せずにいるそうだ。

なかなか考えてやがる。特に国王の生死が不明って辺りがイヤらしいな。

生きているなら、国王救出を目的にして兵を挙げられるし、死んでいるなら、それはそれで国王の仇とか正統な政府ではないとかを理由にして反王子派が兵を挙げられるが、しかし生死が不明の場合、その判断が出せず迂闊に手を出すことが出来なくなる。

それで稼げる時間はそんなに多くはないかもしれないが、しかしその間に体制を整えてしまえば、反王子派はもう手を出すことが出来なくなるだろう。

――ここで俺にとって関係するのは、王子がこのまま国王の座に収まってしまった場合だ。

今までもこっちにちょっかいを出して来たのだ。クソ王子が完全に軍を掌握した場合、本気の軍勢を差し向けて来るという可能性は重々考えられる。その場合、俺とダンジョンの力だけで撃破出来るかどうか微妙なラインだし、もしかしたらレフィに手を借りることになるかもしれない。

それは、嫌だ。

まあ、二度痛い目を見てもう手を出して来ないという可能性も考えられるが、最悪の事態は想定しておくべきだ。

考えてなかったから、なんて理由で、相手が手を出して来るのをやめる訳がないからな。

チッ……しまったな。悠長に過ぎたか。

クソ王子をどうするか、というのは、 実は俺も(・・・・) すでに考えていた(・・・・・・・・) 。

と言っても、そう難しいことではなく、もう脳死で暗殺してぶっ殺しちまおうという考えだ。

そのために使用するつもりだったのが、DPカタログに載っていた『現身の人形』というゴーレム――まあ、一言で言って遠隔操作ロボットだな。

このゴーレムは、俺と魔力のパスを繋げることで、俺の意識を無生物魔物、ゴーレムに乗り移らせて操ることができ、俺の本体は安全なところにいながら対象を攻撃することができる。

半径百メートル以内に使用者がいないと遠隔操作が切れてしまうため、近くまで行く必要はあるが、しかしこのゴーレムも他のゴーレムと同じようにスキルを覚えさせたカスタム状態でDPと交換することができ、暗殺仕様に仕上げることも可能であるため、今回のような事態に有効だろうと思ったのだ。

まあ、そんなまどるっこしいことをするより、俺が直接乗り込んだ方が早い気もするが、一国の首都にある城に、どんな防備があるかわかったもんじゃないからな。

別に俺は自殺願望者って訳じゃないし、その点ゴーレムだったら見つかって壊されても俺のなけなしのDPが吹っ飛ぶだけでそんな致命的な被害にはならないし。

故に最近は罪焔の具合を覚えるのと、このゴーレムをDPで交換するためリルと共に魔物狩りに励んでいたのだが……。

「……お前らは、王子に対してどういう対処を取るつもりなんだ?」

「教会は、王子が政権を握った場合を危惧しています。王子はかなり強硬派だから、あの方が政権を握った場合、教会にも大きな圧迫を加えられるんじゃないかって。だから、近い内に国王の救出作戦に踏み切るって」

「国王の生死は不明なんだろ?」

「うん。でも、救出作戦」

……なるほど、強硬手段に出る訳か。

上手くいったら……そうだな……そっちの方が俺にとって得か?

「――よし、わかった。なら、その救出作戦に 俺も手を貸そう(・・・・・・・) 」

「えっ……そりゃ、おにーさんが味方になってくれたらとっても心強いけど……」

怪訝な表情を浮かべ、言外に「どういうつもり?」と問い掛けてくる勇者。

「王子が政権を握った場合は、俺も困る。軍を完全に掌握されて今度は大部隊を送り込まれても嫌だからな。こちらの考えとしては、今まで魔境の森に進出しようとはしてこなかった現国王に政権を握ったままでいてほしい。国王が死んでいる場合でも、反王子派は元々魔境の森への遠征に反対なんだろ?だったら、そっちの方が俺にとって都合が良い」

まあ、そういう理由も勿論あるが、内心で考えていることはまた別だ。

このまま俺が王子を暗殺した場合、当然誰が手を下したのか、ということが問題となり、仮に何らかの俺の知らない手段を用いてその暗殺の犯人が俺であるとバレてしまてしまえば、例え現国王が復権したり反王子派が政権を握ったとしても、俺とは敵対する可能性が高い。

当然だ。一国の王子が殺されたんだからな。

その場合は、 前(さき) に述べたように、大部隊を送って来られる可能性が残り、完全な安寧を保てるとは限らない。

そうであるよりは、この反王子派の連中に手を貸して、表向き彼らが王子を打倒した、という風にしてくれた方が、今後において俺には確実にプラスとなるはずだ。

「……でも、流石に魔王のおにーさんが協力するって言っても、信用されないと思うよ?こう言っちゃあれだけど、おにーさんが魔王の中でも特別おかしな人だっていうのは僕もよくわかってるし」

おう、言うじゃねーか。

「流石に正体バラしたりはしねーよ。こう、旅先で知り合ったお前の従者、みたいな感じで。仮面でも被ろうか」

「いや、普通にバレちゃうと思うけど……鑑定の水晶とかもあるし……」

「大丈夫大丈夫。それにも考えがある。俺に任せとけ」

些か不安そうな表情を浮かべる勇者に、俺はニヤリと笑みを浮かべたのだった。