軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王都へ

勇者が来てから、翌日の早朝。

「――それじゃあ、行って来る。今回は一週間もせずに帰って来ると思うから」

洞窟の前に立ち、俺は対面に立つ我が家の住人にそう言葉を掛けた。

「いってらっしゃい、おにいちゃん!早く帰って来てね!」

「ハヤク、カエッテキテネ!」

彼女らの頭を軽く撫でてやっていると、今度はレフィがズイ、と一歩前に出る。

「――ユキ」

「おう。むぐっ――」

するとレフィは、突然下から両手を伸ばして、俺の両頬を掴んだ。

「今回、儂は付いて行かんが……わかっておるな?人間の女に 現(うつつ) を抜かして、帰って来るのが遅くなったりなど、せんように」

顔を彼女から逸らさないように固定され、そして凄みのある笑顔でそう言うレフィ。

「ふ、ふぇい」

両頬を掴まれたまま俺がこくこくと首を縦に振ると、レフィは満足そうに頷いて手を離した。

「うむ。わかっておるなら良い。お主の留守中は、この城は儂らがしっかり守っておこう」

「あぁ……レフィが守ってくれんなら、何も心配はいらないな。俺の家と心臓と、皆のこと。任せた」

「任された」

その後、残りのメイド二人とも言葉を交わしてから俺は、くるりと勇者に向き直った。

「――さて、お嬢様。今回は急ぎ、ということで、こちらの馬車をご用意いたしました」

「いや、何さその口調。というか、馬車って……このおっきい狼君のこと?」

「正解」

俺はぴょんとリルの上に飛び乗り、ポンポンとその首筋を叩く。

「リル、悪い、ちょっと遠いが王都ってところまで頼むぜ」

今回はレフィがダンジョンにいてくれるからな。リルもここにいる必要性はそこまでないだろう。

それに、俺達にはあまり悠長にしている時間は無い。超特急リル列車があるならそれに越したことはないだろう。

我が家の頼りになるペットが「お任せください」と言いたげに首を縦に振ったのを見てから俺は、こちらを見上げて固まっている勇者を促す。

「ほら、早く乗れよ」

「その……僕は徒歩のが、ってうわっ!?」

俺はニヤリと笑みを浮かべると、尻込みする勇者の腕を勝手に取り、グイ、とリルの上に持ち上げて乗せる。

「よし、リル、行け!!」

「えっ、ちょ、待っ――きゃああああああっっ!?」

予想以上に可愛らしい勇者の悲鳴が、尾を引いてどこまでも響いて行った。

* * *

月に照らされ、眼前に浮かび上がる防壁。

その上を武装した兵士が巡回し、周囲を睥睨している。見ているとわかるが、彼らはどうやら防壁の外のみならず、その内側も警戒しているようだ。

唯一の出入り口である門には、人っ子一人通さないとでも言いたげなガチガチに固められた防備が敷かれ、これまた険しい表情で警戒を続けている。

そして、その警戒の様子を少し離れた森の中から観察する目が、四つ。

「ウゥ……腰がガクガクする……」

「お前が言ってた馬を飛ばして二日よりは、早く着いたろ」

腰をトントンしながらそう言う少女――勇者に俺は、肩を竦めて言葉を返した。

途中幾度か休憩も挟み、リルが走り続けること数時間、俺達はすでに、この国の首都、『アルシル』に辿り着いていた。

本当ならとても一日で着くような距離ではないのだが、しかし俺達には伝説級の魔物であるリルがいる。

二人上に乗せていると言っても、勇者の体重など 高(たか) が知れている上に、俺はアイテムボックスがあるためほぼ着の身着のまま、勇者もまたゴリゴリに防備を固めて戦うタイプではないのでかなりの軽装であり、そんな条件であれば乗用車並みのスピードでリルは走り続けることが出来る。

この距離を一日で踏破することなど、無尽蔵のスタミナを持つリルにとっては朝飯前なのだ。

「そうだけど……というか、何でおにーさんは平気なのさ」

「そりゃお前、リルには乗り慣れてるからな」

あと絶叫厨なので。

ちなみにリルは、身体を普通の狼サイズまで小さくして、近くの森で呼ぶまで待機しているように言ってあるため、すでに俺達の傍にはいない。

流石に街中にまでは、連れて行けないからな。

「それよりネル、あれ、どうやって中に入るんだ?」

あの様子じゃ、「やあ、こんにちは」って挨拶に行っても、お茶を出してくれるどころかそのまま「怪しいヤツめ!!」って斬り殺されそうだぞ。

「……どうしよっか」

俺が防壁の方を指差すと、勇者はポツリとそう溢した。

「……お前、俺んところに来た後、元々王都に戻るつもりだったんだよな?」

ジト目でそう言うと彼女は、慌てて弁解を始める。

「い、いや、そうだけどさ、あんなガチガチに固められてるとは思ってなかったんだもん!そ、それに、ほら、あれ」

彼女が指差したのは――ありゃ、下水道か?背の高い草や木々で隠されていて見えにくいが、防壁の側面の一か所に鉄格子の嵌められた横道のようなものがあり、そしてそこを数人の兵士が警戒している。

「あそこ、本来なら魔導具で見えないようになってて、有事の際の出入り口になってるんだけど、あの様子だと通してもらえそうにないし……本当は、あそこで教会の騎士と落ち合うつもりだったんだ」

……なるほど、秘密の抜け道が、すでにバレていると。

「……まあ、わかった。入ってからの段取りは、もう決めてあるんだったよな?」

「う、うん。一応ね」

「よし、なら、とりあえず壁を超えるのは俺のやり方でやらせてもらうぜ。ちょいと失礼」

そう言うが早いが俺は、彼女の身体をヒョイと小脇に抱え上げる。

「ひゃっ!?ちょ、ちょっと――」

「いいから黙ってろ」

その状態で俺は、『隠密』スキルを発動させた。

『隠密』は、俺が触れているものには同様に隠密効果が働く。

まあ、そうじゃないと普通に考えて困るわな。俺だけが消えるようなら、着ている服だけが独り歩きしているホラーな絵面になっちまうし。

「声上げるなよ。バレるから」

しっかりと隠密が発動しているのを確認してから、今度は背中に二対の翼を出現させ――ヒュッと羽ばたき、一気に大空へと飛び上がった。

地面が数秒もせずに遠くなり、視界が一瞬にして 開(ひら) ける。

「ひぃぃぃぃぃぃ!?」

「あっ、オイ、声出すなって!」

「そ、そんなこと言われてもぉっ!!」

「何だ今の声は!?」

「上から聞こえたぞ!!明かりを持って来い!!」

「うわ、ほら、バレちまったじゃねえか」

俄かにガヤガヤと騒がしくなる、防壁の兵士達。

仕方ない、まあまだ俺達の姿までは見えてないだろうし、このまま行くか。

そうして俺は、小脇に勇者を抱えたまま、王都の中へと空からの侵入を果たした――。