軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勇者と領主

「……本当に何もしないで帰って行ったな」

「……あの魔王は、結構ヘンな人ですからね」

部屋の扉から外へと出て行った魔王を見送って、ネルはそう苦笑を溢した。

一瞬だけ発した魔王の重圧に、焦って武器を構えてしまったが、それを振るう必要がなくなって、彼女は内心安堵していた。

道中彼が戦闘を行っている様子を見たが、それはもう凄まじいものだった。

まさに、暴風。

魔剣で強化されているはずの相手の攻撃を物ともせず、むしろ力で押し返していた様子は、驚愕の一言だ。

最近は、稽古を付けてくれる騎士達と戦っても勝てることが多くなってきたのだが、しかしアレと戦って勝てるイメージは全く沸かない。傷は与えられても、最終的には力の差で押し切られてしまうのではないだろうか。

――それに……僕は、あの二人が何だかんだ言っても嫌いじゃない。

よくネルのことをからかってくるが、しかし一緒にいると騒がしくて、楽しくて、知らず知らずの内に自身の頬に笑みが浮かんでいることに彼女は気付いていた。

「……僕は、あの人が悪い魔王だとは、全然思えない。彼も、自身の守る者のために戦っているんだと思います」

そう言うと領主は重々しくこくりと頷き、そして周囲に人がいないことをチラリと確認してから、 徐(おもむろ) に口を開いた。

「……勇者殿には言ってもいいだろう。前回の軍の派遣と今回の勇者殿の派遣、魔境の森へと進出しようと手を出しているのは――この国の王子、リュート様だ」

「王子様が……?」

ネルも、教会の司祭様とともに一度だけこの国の王子には会ったことがあった。

真面目な印象の青年だったが、しかしどこかキツそうな性格をしていたのを覚えている。

「魔境の森は手付かずで長い間放置され、資源が豊富にあることが予想される。あそこを支配下に置ければ、多大な利益が確保出来ると考えたのだろう。そこに、他の貴族連中が手を貸したことで、巨大な勢力になりつつある」

「国王様は……」

「王はお優しく、素晴らしいお方だが……しかし、はっきり言って凡庸だ。このことは恐らく知らないだろうと思われる。私も、幾度か上奏しようと王宮を訪れたが、全て阻まれてしまった。ならばと、軍を動かそうとしている者達に直接警告に行ったが『あなたが、あまりにも相手を恐れ過ぎているだけでは?』と嘲笑され、全く相手にされなかった。クソッ、何故誰も今回の件が国を滅ぼしかねない危険なことであると気付かぬのだ……ッ!!」

ギリ、と歯を軋ませるレイロー。

「……僕も、教会まで戻ったら、このことを司祭様に相談してみようと思います。何が出来るかは、わからないけれど……」

「かたじけない。勇者殿がそう言ってくださるだけでも、大分私の気も晴れるというものだ。どうか、教会の方々にはこの国を滅亡させぬよう、ご英断を……」

* * *

「ふーん……なるほど。王子か」

俺は、手の平の上に帰って来た、耳の形をした羽根を持つ蝶のような形状のソレを、アイテムボックスに放り込みながら呟いた。

「聞きたいことは聞けたか?」

「あぁ、ばっちりだ」

これは『イービルイヤー』という、目の無生物魔物であった『イービルアイ』と対を為す、同じく無生物魔物――ゴーレムのダンジョンモンスターだ。

その効果は、名前から察せられる通り半径十メートル以内の音を拾い、俺に届けるというもの。

本来ならダンジョン領域内でないと使えないのが無生物魔物――ゴーレムであるが、しかしこれは通常の物よりグレードが一段階も二段階も上であるため、俺の魔力で充電することによりそこ以外の領域でも使用が可能となっている。

加えて、スキルになんと『隠密lvⅣ』と『魔力遮断lvⅢ』が付いているため、かなり高いレベルでのステルスを可能とする。相当に感覚が鋭い者でないと違和感にすら気付けないだろう。ヘビの親父もビックリである。

まあ、レフィには放った瞬間にすぐ気付かれたんだがな。

ただまあ、そんな高性能をしている故に、掛かるDPはメチャクチャ高い。これ一つで旅館が一軒建つくらいだ。

しかも、充電式であるために稼働時間は十分少々。それを忘れて帰還させるのが遅れれば、途中で電池切れとなって動かなくなり、スキルも解けて姿を現してしまう。

その充電に掛かる魔力もかなり大きく、十分動かすのに今の俺の総魔力の十分の一程を必要とする。

しかし、そんなデメリットを鑑みても、今回のような場合には非常に重宝する物であるのは確かだ。あの応接間を出る前に、俺の縄張りに手を出そうとしているクソ野郎に関する話を、勇者とこの後するんじゃないかと思い、一匹放っておいたのだ。

悪いな、おっさんに勇者。俺も、遊びでここまで来たんじゃねえんだ。観光はしてるけど。

「お主は本当に、ヘンなものばかり持っておるよな」

「フッ、俺には27の秘密道具があるのだよ」

「はいはい、良かったの」

呆れた様子でそう相槌を打つレフィと共に俺は、思考を続けながら街を歩く。

――それにしても、敵は、王子か。

手を出して来るのであれば、俺は日々の安寧のため徹底して潰しに行くつもりだが……王子が住んでいるであろうこの国の王宮まで殴り込みに行くのは、ちょっと気が引ける。

そういう強硬手段が取れるのは、こちらの力が圧倒的な時しか出来ないことだ。

王宮と言うぐらいだから、当然の如く警備は堅いだろうし、勇者級の強さのヤツが何人もいる可能性がある。一人二人ならともかく、そんなヤツら全員を正面から相手にして、勝てると思う程俺は自惚れていない。

それに、仮に王子を殺して、そしてそれが俺の仕業だとバレてしまえば、まず間違いなくこの国とは全面戦争になるだろう。

それは、よろしくない。

レフィがいれば負けることはないだろうが、しかし最初からコイツ頼みでいるのも嫌だし、コイツにそんな負担を掛けさせるのも嫌だ。

俺は――レフィにただ、ダンジョンでゴロゴロしていて欲しい。

……というか、レフィ、そしてダンジョンの皆と自分自身が日々をゴロゴロのんびり過ごすために、敵を潰しに来ているのだ。だというのに、レフィをそのぐーたらな日々から連れ出して、闘争のために力を使わせるなど、本末転倒もいいとこだ。

敵は、俺の力だけで潰すべきだ。 ただ俺のために(・・・・・・・) 。

「どうしたもんかなぁ……」

なかなか、上手く事が運ぶとは行かないもんだ。