軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

異世界観光がしたい

「――いやー、なかなかいい宿だったな」

「……儂は、我が家――城の方が良かったの」

「それを言ったらお前、俺だって同意見だけどよ」

レフィが魔王城を『我が家』と言ったことに内心で少しだけ嬉しく思いながら俺は、苦笑を溢す。

俺達が一泊した宿は、そこそこお高そうなところを選んだためか、初見の客である俺達が行ってもすぐに部屋を取ることができ、サービスも悪くなかった。晩飯も、俺があまり見たことのないこちらの世界独特のものが多く、なかなか美味しくて満足だった。

通された部屋も綺麗で、二人で泊まるには十分な広さがあったのだが……ただ、一つだけ誤算だったのは、ベッドがツインではなくダブルだったことか。

と言ってもまあ、元々一つ屋根の下で暮らしている仲だし、ぶっちゃけ俺が風呂に入っている間にレフィが乱入して来て頭を洗わせようとすることも往々にしてあることなので、今更感はあるがな。

弊害と言えば、従業員の俺を見る眼が微妙に痛かったことぐらいか。

そして、クソ王子のことに関しては……考えるのを、やめた。

面倒くさくなったとも言う。

だって、当初の目的だった敵の正体を知るってことは達成した訳だし、じゃあもう後は観光して楽しんだっていいだろう。

目一杯異世界を堪能してから、そのことはまた考えるとしよう。

頭の切り替えは大事。それが出来ないと、社会人は鬱になっちまうんだぜ。

という訳で今、俺とレフィは、観光の案内役である勇者を迎えに行くため昨日の領主館へと向かっていた。

「……お!いたいた。よぉ、ネル――と、あれ?おっさん?」

領主館の前で待っていたのは、勇者とこの街の領主の二人だった。

「どうしたんだ、おっさん。というか、二人とも眠そうな顔してるけど」

「……誰のせいだと……まあいいや、レイロー様が君に聞きたいことがあるんだってさ」

「おっさんが?」

「貴殿らが『呪い』付きの魔剣に遭遇したという話を聞いた。その時のことを、少しばかりお話し願いたい」

呪い付きってのは、あの魔剣の斧のことだな。レフィも『呪いに飲まれた様子も――』とか言っていたし。

なるほど、確かに言い得て妙だ。あれは『呪い』以外の何物でもないだろう。

「あぁ、これな」

そう言って俺は、アイテムボックスからすっかり従順になった例の斧を取り出して領主に見せる。

「なっ――」

俺が武器を取り出したことに、門の前で警戒していた警備員らしい兵士達が一斉に武器を構え、俺に向ける。

「やめろ!!武装を解け!!……部下が失礼した。だが、その……さ、触っていて、平気なのか?」

「おう。調教してあるから」

呆気らかんとそう言うと、領主は戦慄した様子で呟く。

「……の、呪い付きの魔剣を調教か……ま、まあ、わかった。それは仕舞っていただけるか。正直、私としては見ているだけで気分が悪くなってくる」

「え、そんなに強力なの、これ」

「うむ、貴殿がそうして平然としていられるのが不思議なぐらいだ」

そうか……勇者には冗談のつもりで「魔王はこういうの得意」って言ったんだが、本当に得意だったみたいだな。

いや……というか、あれか?単純にステータスの差が原因か?

勇者は武器の脅威を感じ取っていても気分悪そうにしている様子は無いし、レフィの方も、昨日触ってみたいと言い出したので渡してみたら、もうなんか武器の方がビビッて縮こまってしまい、普通の武器だと装っているつもりなのかシンと大人しくなって、何のアクションも起こさないようにとジッとしていた。

ちょっと、可愛いと思った。愛嬌のあるヤツだ。

まあ、レフィは何も起きないのがつまらなかったらしく、「おい、儂にも呪詛を流し込んでみたらどうだ?ん?」と逆に脅し始めたので、流石に可哀想になって止めたんだがな。

言われた通りに武器を仕舞うと、領主はホッと小さく安堵の息を吐き出す。

「……まあ、貴殿が少々おかしいのは今更なので置いておくとして、その武器を使っていたという男は、どんな様子であったか教えていただけないか」

「少々おかしいってアンタ……まあいいけど。そうだな、武器を握った時の身体能力は爆上げされてたけど、そうじゃない通常時の身体能力も、チンピラのくせに強ぇヤツだとは思ったな」

あれだけの強さがあったら、チンピラなんかやらなくても生計立てられるだろうからな。

恐らくあの強さは、武器を握って頭おかしくなった後に得たものなのだろう。

ただ、実際にあの斧を握って理解したことだが、恐らく魔剣を得てからまだそんなに時間は経っていないのではないだろうか。

もっと握っていた時間が長いのであれば、アイツにあそこまで理性的な思考は残っておらず、完全に頭イっちまって、暴れるだけのハタ迷惑な存在と化していたはずだ。

それだけのポテンシャルが、この武器にはあった。

だって、性能面だけを見ても、握っただけで大体全てのステータスの値が+200されるんだぜ。俺が握った時もそうだったし。

この世界は10もステータスが違えば大きく戦闘に差が出る世界であるのに、そんなぶっ壊れ性能をしていて、ちょっと頭おかしくなるだけ、というのはデメリットとして小さ過ぎる。

オンラインとかで出たら、即ナーフしろの嵐となるだろう。

そんな見解を領主に伝えると、おっさんは眉間にしわを寄せ、何か深刻そうな表情で思考に耽る。

「何か気になることでも?」

「……いや、貴殿らにはあまり関係のないことだ。気にせんでくれ。引き留めてしまって申し訳ない、私としてはこのまま森まで帰っていただきたいところだが……街に滞在することにはもう何も言わないから、出来るだけ問題を起こさずにいてくれ」

「おっさん、ハッキリ物を言うようになったな」

「貴殿にはその方が良かろうと思ってな」

まあ、その通りなんだけども。俺も、そこまではっきり物を言ってくれた方が心地良いわ。

「まあ、安心しろおっさん。今はもう観光しに来てるだけだからな。このままこの街を十分楽しんだら、大人しく帰るさ。な、レフィ」

「そうじゃな、ここは飯が美味いから、何かあってもこの街全てを滅ぼすということはせんでやろう」

「……今程この街の食事が美味いことに感謝した日はないな」

そうしみじみと呟いたおっさんに手を振って別れてから、俺達は勇者を連れて街へと繰り出したのだった。