軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヴェルモア大森林遺跡《4》

しばらく周囲の光景に魅入っていた俺達はその後、羊角の一族の皆は非常に先が気になったような顔をしていたが、ここまでに結構な時間が経っていたため、一旦本日の調査を終了。

物凄い眼力の彼女らに、「明日、早い時間から調査、どうですか?」と笑顔で言われまくり、俺は苦笑しながら「なるべく早くは参加するよ。ただ、サクヤの機嫌次第なところはあるから、その点は勘弁してくれ」とだけ言って、テントへと帰った。

レイラの興奮具合も凄まじく、全然感動が冷めやらぬ様子でギュッと俺の腕を掴んできたり、何だかソワソワしたような様子を見せたりしており、大分和んだ。

そんな様子であっても、サクヤの世話は完璧に熟すところがレイラのレイラたる所以なのだが。

「ユキさん、あの遺跡は、本当に物凄い大発見ですよー! あの遺跡を発見する手助けをしたという事実だけで、歴史にサクヤの名が残るレベルですー!」

俺の腕にその豊満な胸を押し当て、抱き着いてくるレイラ。

最高の気分である。

「はは、そうか。良かったな、サクヤ。お前の名前はもう、この世に刻まれるようだぜ?」

「……ん、流石サクヤ。レーダービンビンだった」

そう言って、すでに眠りに就いたサクヤをよしよしと撫でてやるエン。

「いや本当にな。マジでこんなしっかり反応するとは流石に予想外だった」

何かしらの反応はあるだろうと思っていたから、こんなところまで連れて来た訳だが、ここまでとは、というのが正直な感想である。

これに最初に遭遇したシィも、さぞ驚いたことだろう。

「サクヤ、お母さんは、とっても嬉しいですよー。あなたのおかげで、お母さん達の一族は、もうみんな幸せの絶頂ですー」

俺に引っ付いていたレイラは、次にサクヤのベッドの前に膝を突き、我が息子の額に軽くキスをする。

うむ、やっぱり興奮が冷めやらないようだ。あんな風なことをするレイラはマジでレアだからな。

レイラでこうなのだ、他のテントでも今、どこも大興奮で記録を纏めたりしているのだろう。

なお、興奮して発見に乾杯、とかではなく、興奮してまず記録を取らねば! となるのが羊角の一族クオリティである。

ま、彼女らの役に立てたのなら、俺も嬉しいというものだ。

妻の実家だ、出来ることなら仲良くしておきたいね。

◇ ◇ ◇

翌日。

早朝から準備をし、サクヤの目が覚め元気いっぱいになったタイミングで、再び遺跡へと入る。

昨日と同じ道を辿り、地底世界までやって来た後、まずは見えていたあの城へと向かって歩き出す。

ただ、その歩みは、ここまでの調査以上に遅いものだった。

この遺跡がまだ稼働しているのならば、 警報装置(・・・・) の類もまた稼働していると考えるべきで、特にこの規模ならば、確実にあって然るべきだという結論が羊角の一族達の話し合いで出てたからだ。

そして俺は、警報装置と言われて思い浮かぶものがある。

魔境の森の、神代遺跡を守護していた、腕がたくさんあってビーム撃ってきた敵――『エンシェントゴーレム』。

あるいは阿修羅ゴーレム。侵入者絶対ぶっ殺ゴーレムでも可だ。

あれに近しいものが、ここにないとは言い切れないだろう。

あれはヤバい、あれが一体でも出現したらこの調査隊が壊滅する可能性は非常に高くなる。あの時は俺達でも討伐を諦め、どうにか躱す方向で作戦を立てたしな。

……こうなってくると、リルがいないのが少々怖い。

アイツがいれば、野生の勘で俺以上に危機を察知してくれるので、多少は安全が増すだろう。

何より、俺の安心感が段違いだ。

エンが俺の武器ならば、リルは俺の相棒。俺の戦闘は、その二つが揃った時こそが真骨頂なのである。

……出し惜しみはしていられない、か。

「……エン、悪い。ここは油断出来ねぇ」

『……むぅ。仕方ない。命の方が大事』

彼女に許可を取ってから、俺がアイテムボックスから取り出したのは―― 神槍ルィン(・・・・・) 。

俺の切り札であり、だが滅多に使わない武器。

エンがいるのもあるが、神シリーズの武器は出来ることなら死蔵するのが良いという考えから、例の大戦以来武器として扱うことはしていなかったが……ここは、そんなことを言っていられる場所ではない。

神代に対抗するならば、神代製の武器。それしかないだろう。

俺は、言った。

「『命を謳え、我が槍よ』」

その瞬間、骨を思わせる槍身が一気に変化し、それが俺の肉体にまで変化を及ぼしていく。

俺の腕を覆う、まるで鎧のような魔力と紋様。

ただ、エンも出したままだ。

右手にエンを持ち、左手にルィンを持つ。

今の俺ならば、この二つを同時に扱うだけの筋力はある。技量は……まあ、うん。武器が良いので。

「ま、魔王、それは……」

と、その俺の様子を見て、驚きの声を漏らすのは、エルドガリア女史。

その周りで、羊角の一族の者達も声も出ない様子でこちらを見ている。

「ん、あぁ、俺の切り札だ。悪いがこれに関しての質問は無しな。あ、レイラになら聞いてもいいぜ。もう根掘り葉掘り聞かれてるから」

それはもう、散々にな。

まあ、レイラはそう言う時のギャップが可愛いのだ。普段冷静沈着な彼女が、興奮した様子を見せるのがな。

準備を整えた俺は、皆に一旦待ってもらって、一人先行する。

背中に翼を出現させ、飛んで上空から先を確認する。

己が身を守るのみならば、色々やりようはあるので、まだ安全が保てるだろう。

――ここは、どうやら戦で滅んだ訳では無いようだ。

城下町の様子などを見る限り、そんな印象がある。

争いの跡が、一切無い。家など綺麗なままで、崩れている場所などが無い。

いや、経年劣化で崩壊したらしい場所は幾つもあるが、それだけだ。

ここは……恐らく緩やかに滅んだ。

劇的な何かがあって滅んだ訳ではないのだと思われる。

「エン、何があったと思う、ここ?」

『……ここは、役目を終えた場所、って感じ』

「役目……確かに。そんな感じはあるな」

思い出すのは、魔族の神ルィンとの会話。

始原の神ドミヌスは『混沌』を求めた。

混沌とはつまるところ、変化と繁栄。

この場所が『始まり』だとするのならば……ここだけにヒトが留まるのは、ドミヌスの望むところでは無いはずだ。

それで、ここは使われなくなったのか……?

そんなことを考えながら飛んでいた俺は、やがて城の近くまで辿り着く。

本当に、凄まじい規模の城だ。やっぱりウチの魔王城より一回りはデカいな。

ここを完全に探索し切ろうと思ったら、恐らく数年は掛かるだろう。

とりあえずここまでは問題が無さそうだったので、俺は皆を呼びに――行かなかった。

今まで、何度も俺を救ってきた、この肉体に備わった五感。

それが、告げている。

―― 今すぐ避けろ(・・・・・・) 、と。

己の感覚に従い、即座に滞空をやめて自由落下を開始。

その瞬間、空気を焼くかのような、シュンッ、という音と同時に、俺のすぐ上をビームが掠めて行った。

「危ねッ!?」

その後も連続して幾つかビームが飛んでくるが、不意打ちでなければ避けるのはそう難しくない。

回避軌道を描きながら、俺はビームの発射元へと視線を送る。

あれは――ドローンかッ!?

「ホントにSFじゃねぇかッ!?」

城の方からこちらに飛んでくるのは、金属の鈍色をしているが、些か生物的な動きと見た目、特にプテラノドンを思わせる形状をしている、三機のドローン。

いや、ドローンというか、あれもゴーレムの一種ではあるのだろう。

思った通り、分析スキルで見ると、あれもいつかの阿修羅ゴーレムと同じ『エンシェントゴーレム』であるらしい。

だが、もうここまで来るとファンタジーではなくSFだ。口からビーム出しやがったし。

このままではマズい。

俺一人であったならば、迷わず撤退を選んでいたが、今は後ろに皆がいる。

もう俺が捕捉されてしまっている以上、このまま撤退すれば彼女らも巻き込むことになる。

「やるしかないか……ッ!! エンッ、突っ込むぞッ!!」

『……んっ!』

その瞬間、俺は回避軌道をやめ、最短距離で一気に突っ込む。

ギュン、ギュン、と空中で身を翻して回避を続け、まず一機のSFプテラの近くまで辿り着くと、まず神槍を振り被る。

第三形態となっている神槍の威力は、SFプテラも一目で理解出来たらしく、即座に回避に動き――そうして動きを誘導した先で、エンを叩き込んだ。

ガンッ、と鋼鉄を殴るような感触が返ってくるが、しかし彼女の刃は、SFプテラの翼をしっかりと両断した。

制御を失い、ヒュルル、と墜落していき、そのまま城下町の民家の一軒へと激突。反応が消失する。

……貴重な研究資源をぶっ壊してしまったようだが、これは許してもらいたいところである。

――よし、エンでも斬れるな。

「ハッ、そうさッ、ウチの子は最強なんだッ!!」

エンは、いずれ神シリーズの武器にまで至ると言われている子だ。

お前らみたいな量産型程度、今のエンならぶっ殺せんだッ!!

あ、けど、阿修羅ゴーレムの投入はやめてくださいね。あれはホントに死ねるんで。

――そこから始まる、残り二機とのドッグファイト。

急旋回に急停止、ホバリングなど、生物だったら確実に不可能な軌道で動き回るSFプテラどもだったが、どうやら飛行性能自体は、まだ俺の方が上であるようだ。

苛烈な位置取り合戦を行っている内に、まず一機の後ろを取ることに成功。

急停止して俺を前へと追い抜かせようとするSFプテラだが、その動作は見えていたため、追い抜きざまに神槍で貫いて真っ二つにする。

その間に、残り一機が俺の背後を取ってビームを撃ってくるが、何も急旋回などが出来るのはヤツらだけではないのだ。

三対の翼を躍動させることで、グルンと回転して身体の向きを変える。

空を足場に、空中を蹴るようにして背後から迫り来るSFプテラへとこちらから距離を詰め、飛来するヤツのビームを避けながら――すれ違いざまに、エンで一刀両断にした。

数瞬後、ズズゥン、と下から聞こえてくる、落下の音。

追加のSFプテラは、無し。

空を飛んでいるのは、俺だけだった。