作品タイトル不明
ヴェルモア大森林遺跡《3》
刃ワイバーンをぶっ殺した後も、しばらく周囲を飛んで、今出来る限りの安全対策を行っておく。
研究基地の近場で、一定以上の強さを持つ魔物と限定はしていたのだが、それでも結構な量を狩ることになり、すると俺が暴れていることを狩らなかった魔物どもも感じ取ったようで、一帯から生物の気配が消え去っていた。
今日からここの生態系の頂点は、俺だ。
この地はこの魔王の支配下、貴様ら全員、俺の言うこと聞くように。別にダンジョン領域化はしてないけど。
羊角の一族もいるし、何よりウチの息子も連れて来ちゃったからな。出来る限りのことはしておかないと、後で怒られてしまう。
「お帰りなさい、お二人ともー。結構飛んでいたようですが、何かありましたかー?」
「あぁ、この森の生態系の頂点に立ってきた」
「……ん。ここの王は、もう主。これで安全」
「あら、そうでしたかー。お疲れ様ですー」
戻った研究基地にて、サクヤをあやしながら、ニコニコと俺達を出迎えてくれるレイラ。
と、一緒にいたエルドガリア女史とエミューの二人が、ちょっと呆れたような顔をする。
「……あの、お姉様、生態系の頂点に立つって、そう簡単なことじゃないと思うですよ?」
「……まあ、この魔王の力なら、それも難しくないんだろうが。そうかい、森の安全を確保してくれていたのかい。ありがとよ」
「気にしないでくれ、こっちの事情も大きいからな。サクヤまで連れて来ちゃった以上、俺が出来る限りのことはしておかないと、後で妻軍団に怒られるんだ」
「レフィもリューも、以前とは比べものにならないくらい、今はしっかりしていますからねー。サボっていたら、それはもう怒られるでしょうねー」
「おう、そうなんだわ。いやもうレイラ、助けてくれよ。夫として肩身が狭いぜ」
「フフ、残念ですが、私も妻軍団の一員ですのでー。二人が怒った時は、きっと私もそっち側にいると思いますねー」
「なんてことだ、俺に味方はいないのか」
「……とりあえず、アンタら家族の仲が良いようで、何よりだよ」
生温かいような表情で苦笑するエルドガリア女史。
俺は肩を竦め、それから問い掛けた。
「こっちの様子はどうだ? 何か進展はあったか?」
「あぁ、おかげさまでね。あの先だが――『別空間』があった」
「別空間……?」
通路でも部屋でもなく、別空間。
その言い方だと、もしかして……。
彼女の言葉に疑問を覚えていると、レイラがそれに答えてくれる。
「はい、ユキさんの想像通りですー。――以前、エルレーン協商連合の首都で遭遇したものと、同質の空間がありましたー」
◇ ◇ ◇
「……なるほど、これか」
戻ってきた、遺跡内部。
サクヤが見つけた壁の異変の場所に、一見すると変化は無く。
数多の計器や魔道具が据えられた、無機質な石の壁があるのみである。
だが、今、そこに触れてみると……手が すり抜けた(・・・・・) 。
足を踏み入れてみると、身体が石の中に入っていき――その先に、通路が現れる。
「これは……」
「……別世界みたい」
外は、風化していた。
だが中は、 風化して(・・・・) いなかった(・・・・・) 。
壁に立て掛けられている、謎に明るい青い光を放っている松明群。
一切色褪せていない、綺麗な通路。
下り階段があり、先はよく見えない。
そして、ダンジョンの『マップ』機能を確認すると、空白地帯が埋まっている。
「この先は見たのか?」
「いや、まださ。計測した限りでは、魔力の高まり方が異常な数値を示していた。何かあるのは確定だが……ま、鬼が出るか、蛇が出るか、といったところさね」
「つまり、俺とエンの出番か」
「あぁ、頼むよ」
サクヤは……今更か。
ここまで連れて来た以上は、連れて行こう。
何より――サクヤ自身が今、先へと行きたがっている。
シィから聞いたように、全身でこの先を行こう行こうとしているのだ。
ここで連れて行かなかったら、それはもう派手に泣くことだろう。
「よし……行くか。レイラ、俺より前に出るなよ。お師匠さんとエミュー達も、後ろにいてくれ。――エン」
「……ん」
エンが大太刀へと戻ったのを確認した後、俺は先頭で先へと進み始めた。
◇ ◇ ◇
ここは、本当に神代の遺跡なのだろう。
何か部屋に出た訳ではなく、今はただ通路のようなところを進んでいるのみだが……こう、今の時代と隔絶したものを感じるのだ。
原始的でありながら、どこかSF味を感じさせる、ファンタジーな建築。
矛盾しているようで、調和が取れている、全てが混在したような空間が広がっているのである。
「し、師匠、見てください、これ。他の遺跡でも確認されている象形文字です!」
「こちらは、時代が違うものだと考えられていましたが、ここにあるという以上は本来同時代に存在していた技術なのですねー……!」
「あぁ、こっちもそうだ。それぞれ別の地域のもののはずの文明が、同じもののように存在している。恐らくここが、文化の最初の発信点だったんだ。これはすごい発見だよ……!」
三人の他にも、同行している調査隊の面々が、非常に興奮した様子で議論を交わし始める。
レイラが好奇心で目を輝かせている時と同じような表情を皆が浮かべており、どうやらここは、普段は理性的な彼女らが興奮を抑えられないような場所であるらしい。
だが、気持ちはわかる。
俺は羊角の一族のように、物を見たり壁の象形文字を見たりしても、それが何なのかはわからない。
だが、ここに太古のロマンがあるということは、俺にもわかるのだ。
『…………』
大太刀に戻っているエンからも、周囲に魅入るような、興奮しているような感情が無言ながらも伝わってくる。
いや、この子は羊角の一族の学校でしっかり学んでいるので、俺以上にはこの場所のことを理解していることだろう。
こういうもの、エンはかなり好きみたいだからな。
「お師匠様、ここは……もしかすると?」
「そうさね。恐らくここが――『 原点(・・) 』だ」
「原点……?」
俺の言葉に、彼女は答える。
「そうさ。世界の始まりの地。『始原の神』に、『地の女神』がおわしたとされる地。恐らくそれが……ここなんだろうね」
「――――!」
世界そのものである、『ドミヌス』。
そして、それを操ったとされる、『ガイア』。
その二つが存在した場所。
それが――『原点』か。
「まあ、まだわからない。もっとしっかり調査をしないことには確かなことは言えない。けど……この遺跡に、とんでもない秘密があることは確定さね。――よし、先に進もうアンタ達。ここをもっと見て、一から十まで記録を取りたいのはアタシも同感だが、恐らく先には、まだまだ未知があるだろうよ」
そう里の仲間達に言ってから、エルドガリア女史は俺へと言葉を掛ける。
「魔王、悪いね。進もうか」
「あぁ、わかった」
俺は、再び先頭で歩き出す。
進んでいくと、分かれ道なども存在し、その度にトラップの有無を確認したり、どちらへ進むかをサクヤレーダーで確認したりしていたので歩みは遅かったものの、着実に進んでいく。
いやなんか、当たり前のようにサクヤに道を聞いているが、本当にウチの子、分かれ道とかに行き当たると的確に片方の道へと行きたがるのだ。
シィに話を聞いた時も、サクヤの指示に従っていたら庭園に出ていたと言っていたし、この子には本当にある種のレーダーみたいな能力が備わっているのだと思われる。
――恐らくだがこの空間は、やはりもう別の場所なのだろう。
別の場所というか、 別次元(・・・) 。
広過ぎる(・・・・) のだ。
遺跡は、かなりの巨大さを誇っていた。
だがこの内部空間は、明らかにそれ以上に広い。
歩いている距離が、そろそろ遺跡の反対側に着いていてもおかしくないくらいなのだが、こうして先に通路が存在し、まだまだ続いている。
地下に降りたのもあるかもしれないが、それにしても広過ぎである。
ここはウチの草原エリアとかと同じように、本来の空間を拡張したような構造になっているのだろう。
そして――その予想は、どうやら当たりだったらしい。
やがて、俺達は通路の出口に辿り着き――。
「うおぉ……」
そこに広がっていたのは、楽園とでも言うべき、地底世界だった。
まず目に付くのは、 満天の星空(・・・・・) 。
だが、今の時刻は昼。
あれが実際の星空ではないことは間違いなく……よく見ると、洞窟の岩肌らしきものが見え、となるとあれは、星ではなく鉱石の輝きの色なのだろう。
常夜の世界。
ただ、地上部分はかなり明るく、石畳の道に沿って発光する植物や街路樹のようなものが綺麗に等間隔に植えられており、整えられた多くの緑が窺える。
見えるのは、巨大な池に、浮島や、鉱石の星空から落下してくる大滝。
そして、この場所を語るに当たって、最も欠かせないのが―― 城(・) だ。
まるで神殿のような、原始的であり、中世的であり、未来的な、不思議な建築様式の城。
巨大な……恐らくウチの魔王城よりデカいかもしれない、そんなとんでもない規模の城がでん、と奥に存在し、城壁と、さらに城の規模に相応しい広さの城下町らしきものが存在している。
とてつもなく美しい、雄大な地底世界。
唯一足りないものと言えば……ここに、全く生物の気配が感じられないという点だろう。
多分、虫や魚。そういうものの気配は、感じられる。
だが、それだけ。
人や獣、そういったものは一切存在していないことを、俺の五感が告げている。
ここはもう、とっくに滅んでしまった場所なのだ。
「……ここ造ったヤツ、俺友達になれそうだわ」
この場所には、本当に草原エリアと同じような空気感がある。
規模が全然違うし、コンセプトも勿論違う。
だが、あの城を中心にして、いったいどうしたらこの場所が美しくなれるかと試行錯誤しながら、周囲を整えていったかのような、そんな印象があるのだ。
何にも根拠は無く、あくまで俺の感覚的なものでしかないが……やはりここは、ダンジョンのような機能を用いて形成した場所なのだろう。
何より魔力の質が、多少差は感じられるものの、ダンジョンとかなり似通っているのだ。
昔ならば、同じものだと思っていたかもしれない。
そして、こうしてこの空間が維持出来ていることからもわかるように、人自体は滅んでしまっているが、遺跡の方はまだ生きている。
生きて、稼働している。
ということは、何か 動力源(・・・) がある、ということになる。
「これ……もしかして、神シリーズの武器があるか……?」
少なくとも、この規模の遺跡を現代まで維持し続けている、とんでもない出力の神代アイテム。
それが、この場所には眠っているのではないだろうか。