軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

龍の里へ《4》

親切な軍人が教えてくれた、豪華な造りのホテル。

そのホテルのレストランにて、俺達は晩飯を食っていた。

「中々良いホテルだな。飯も豪勢だし綺麗だし。あの軍人のおっさん、いいところを紹介してくれたもんだ」

「うむ、色々手続きもしてくれたしの。細かな面倒も省けた。――っと、エン、肉汁が垂れておるぞ」

「……む?」

「ほれ、こちらを向け。拭いてやる」

どこに垂らしたかわかっておらず自身の服を見下ろすエンに、やれやれといった様子でお手拭きの布を手に取るレフィ。

その光景に、俺は何だか少し嬉しくなり、小さく笑みを浮かべた。

――まあ、別にただの親切でここまでやってくれた訳じゃないことは、わかっている。

見れば、そこかしこにいる間諜みたいなヤツがこちらの様子をそれとなく窺っているし、というかホテル側の人間からしてどうも軍籍のヤツが結構いるようだし、元々ここはこの国の軍と深い関係にあるホテルなのだと思われる。

あの俺達に話し掛けてきたちょっと偉い立場っぽい軍人のおっさん、分析スキルを持っていたのでレフィが誰だかはわかっていただろうし、核弾頭みたいなヤツが国内に入り込んだとわかった以上、何が起きても対応出来るよう、こちらの行動を把握しておきたいのだろう。

あ、唐突にエンをアイテムボックスから出し、擬人化させた際、こちらを監視していたヤツらが目を丸くして固まっていた様子がとても面白かったです。

以前はアイテムボックスを嫌がっていたエンだが、流石にもう慣れたようで、今では特に寂しそうな念を伝えてくることはなくなった。

と言っても、そっちに入れっぱなしでは退屈なのは間違いないので、昼休憩の時や夜泊まる時とかはこうやって外に出すのだが。

エン曰く、アイテムボックスの中は『夜のお布団』みたいな場所であるらしい。

その『夜』の部分が以前はちょっと怖かったそうなのだが、『お布団』の部分を感じられるようになってからは、むしろ居心地が良くなって、別に嫌じゃなくなったそうだ。

何でも、アイテムボックスの中だと、俺の魔力がよく感じられるとか何とか。

正直、よくわからなかったのだが……とりあえず彼女に嫌なことを強要している訳じゃないとわかって、すんごいホッとした。

いっつも手で持ち運べればいいんだが、非常に重いエンの本体を持ったままで長旅は、流石にちょい辛いものがある。

もっと成長しないとなぁ。

「それにしても、お前とこうして外泊するのも久しぶりだな」

「確かにの。何だかんだ言うて、儂はお主のダンジョンに残ることが多かったでの」

俺が遠出した時に、一緒に出掛けるのが多いのは……やはり外に仕事場のあるネルか。

考えてみると、レフィと外出ってのは意外と少ないかもしれない。

ただ、彼女がウチにいてくれるおかげで、何も心配せずに外に出られているっていう面があることは、間違いないだろう。

「いつもいつも、おかげで安心して遠出が出来て、とっても助かってますよ」

「カカ、ま、気にせんでよい。家を守るのは、 番(つがい) として至極当たり前のことじゃろう」

そう言って、男前に笑ってみせる我が嫁さん。

……あのね、とてもカッコいいんだけれどね、実は今、あなたもさっきのエンみたく肉汁零してるんですよ。

自信満々な顔してね、盛大に垂れちゃってるんですよ。

あなたそういうところ、あんまり決まらないわよねぇ……。

「……お姉ちゃん、零れてる。拭いてあげる」

「えっ、あ、う、うむ……」

先程とは逆に、今度はエンがレフィの服を一生懸命拭き始める。

……顔を赤くして、恥ずかしそうに口をもにょもにょさせるレフィに、不覚にも和んだ。

――それからしばし晩飯を楽しみ、運ばれてくる料理が一段落したところで、俺はレフィに向かって口を開いた。

「なぁ、レフィ。この先もこんな感じで国の上を飛んでくのか? 今日みたいになったらちょっと面倒だから、出来る限り人里は離れて飛んで、んで夜だけ宿がありそうな街とか村とかに行くか、無理そうなら野宿か、で考えてるんだけど……」

俺の言葉に、レフィは少し悩んだ様子を見せる。

「どうじゃったかのう……この辺りを飛ぶのは百年ぶりくらいじゃから、以前と比べ相当に様変わりしておってな、あまり記憶がアテにならんのじゃ。ヒト種、特に人間の発展速度は驚く程に早い。百年前には、この辺りにこのような街はなかったんじゃぞ?」

あー、そうか。

確かに百年もすれば、土地の様子も様変わりするか。

「覚えてる限りじゃと、龍の里までの間にもう一つくらい国があったような気もするが……そうじゃな、また絡まれても面倒じゃ。わかる範囲で人里は避けて行くことにしようかの」

「頼むぜ。一々今日みたいに、軍隊出動されたら敵わないからさ。今回は分析スキル持ちの理性的な軍人がいたからこうしてゆったり出来てるけど、こっちのことがわからないヤツがいたら、普通に攻撃されるかもしれないし」

「その時はその時で、相手を滅ぼすだけじゃが」

「……ん。エンも戦う」

やる気満々の二人に、俺は苦笑を溢す。

「い、いや、確かにそうするんだけどさ。けど、なるべくならそういうことしたくないだろ? ただの楽しい旅行で終わらせたいし」

「ま、それは同感じゃの。わかったわかった、なるべく人のおらん方へ行こう。少し遠回りになるかもしれぬが」

「いいさ、ゆっくりのんびり楽しもう。な、エン。のんびりしたいよな」

「……二人と一緒なら、何でもいい」

「ハハ、そうか。一緒なら何でもいいか」

俺は、可愛いことを言うエンの頭を、笑って撫でた。

* * *

「――お客さん方の様子は?」

「家族団らんって感じで普通に飯食って、仲良く部屋に向かって行きましたよ。……隊長、あれが本当に、伝説の覇龍なので?」

怪訝そうな部下に、ゼリムは何とも言えなさそうな顔で答える。

「あぁ、それに関しちゃ間違いねぇ。間違いねぇが……噂に聞いていた覇龍像とは大分違ったことも確かだな」

そもそも、何故龍族がヒト種の少女の姿を取っているのか、というところからして謎である。

その身に感じられる圧倒的な存在感から、彼女の正体を疑うことはないが、部下が疑念を抱くのもよくわかる。

何かそういう魔法でも使っているのか、現在は少女の方も男の方も翼や角などの部位が無くなっており、今では外見に関してはただの人間にしか見えないことも、その疑念を強くする一因だろう。

「……あと、一つ聞いておきたいんだが、さっき二人と一緒にいたお嬢ちゃんは誰だ? 俺が案内した時は、あの子いなかったよな?」

「あの民族衣装の子ですか? あれは剣から出て来た子ですね」

「……剣から出て来た?」

「剣から出て来ました」

真顔で答える部下に、ゼリムはしばし押し黙ってから、ポツリと呟く。

「…………もう、何が何だかわかんねぇな」

「それは俺もっすよ。というかもう、イチャイチャしているところを見せつけられて、監視していて物悲しくなってきたんですが……」

「気持ちはわからなくないが、もうちょい頼むぜ。一応、この国建国以来の最大の危機ってのは間違いないんだからよ」

些か気が抜ける最大の危機だが、と続けるゼリムに、部下は苦笑する。

「……ま、命令である以上、しっかりやりますけどね」

「軍人ってのは、こういう時辛いもんだな」

「全くですよ」