軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

龍の里へ《5》

「……ん……」

カーテンの隙間から差し込む朝日に、俺は目が覚める。

と、起きてまず最初に感じたのは、腕の痺れと、何かの重み。

俺は、そちらへと顔を向け――視界に映ったのは、俺の腕を枕に、穏やかな寝息を立てているレフィ。

間近に感じる彼女の甘い吐息と、サラサラとした髪の感触が心地良い。

あぁ……そう言えばここ、ダンジョンじゃなかったな。

用意されていたのがダブルベッドだったので、まあいいかと一緒に寝たんだった。

……それにしても、本当にコイツの顔は、神々しいまでに整っている。

もう何度見たかわからないくらい、それこそ毎日毎日見ている訳だが、それでも見飽きることなど一生ないだろうと思える程に、美しい。

面と向かったら、絶対そんなこと言わないけどな。

しばし、何をするでもなく彼女の寝顔に魅入っていると、ふと腹の辺りに何か熱を感じる。

何だ? と思い布団を捲ってみると……俺とレフィの間で、まるで子猫のように丸くなって眠っている、エン。

その可愛らしい姿に、俺は思わず頬を緩ませながら、彼女の髪を梳くようにして撫でる。

いつまでも二人とこうしていたい気分だったが……まあ、そういう訳にも行かないので、俺は彼女らの肩をトントンと叩いた。

「おはようございまーす、お二人とも、朝でございますよー」

「……む」

「……んぅ」

俺の声に、もぞもぞと動き出す二人。

まず、エンが目をくりくり擦りながら起き上がり……レフィは起き上がらない。

「おーい、レフィ、起きろ。朝だぞ」

「…………」

だがレフィは、それでも起きることなく――寝惚けているのか、唐突にギュッと俺の身体に抱き着いた。

彼女の柔らかい身体の感触に、俺は思わず一瞬ドキリとしてしまい――。

「……ハッ、危ねぇ、流されるところだった。おいレフィ、お前がもう起きてるのはわかってるんだぞ。俺の声に尻尾がピクって反応してやがったからな。それに、その程度で俺を誑かせると思ったら大間違いだ。そういうあざとい動作はな、幼女組とかがやるからこそ可愛いんだ」

「…………」

しかし、それでもなおレフィは、起き上がろうとしない。

往生際悪く、寝たフリを続けている。

「ほーう、そうか。まだ狸寝入りするか。それならばこちらも策を一つ、講じさせてもらうとしようか」

チラリとエンに目配せすると、すぐに俺の意図を察知し、彼女はコクリと頷く。

「それはな――こうだ!! 奥義、『くすぐり大地獄』!!」

「へっ――わひゃ、わひゃひゃひゃっ! ちょっ、まっ、うひひひひっ!!」

示し合わせた俺とエンのくすぐり波状攻撃により、流石に寝たフリを続けられなくなったレフィが、必死に身体を捩らせ始める。

「フフフ、どうだ、この連携!! ここからお前は逃れられまい!!」

「……完璧なくすぐり大地獄。相手は笑い死ぬ」

「はひっ、ひひひひ、わ、わかった、わかっわひゃひゃっ!! 起きっ、起きりゅひひから!!」

「うーん? 起きりゅひひ? 何て言っているのかわからないなぁ! もっとしっかりとした言葉で喋ってくれたまえ!」

「おっ、鬼かお主!? あっ、まっ、ふひひひひっ!!」

その後しばらく、レフィの嬌声が部屋に響き渡った。

* * *

隣を飛ぶレフィが、唇を尖らせる。

「全く……お主らは鬼畜なんじゃ! 限度というものを知らん!」

「お前がムダな狸寝入りをするからだ。大人しく起きていればあのような悲劇、避けられたのだよ……」

『……避けられたのだよ』

「避けられたのだよ、じゃないわ阿呆! それに、可愛い嫁のすきんしっぷじゃぞ? もっとお主は、喜んでもいいはずじゃ」

フンと、可愛く拗ねるレフィ。

「ハハハ、そうだな、悪かった。次はめいっぱい喜んでやるから、もう一回やり直そうか!」

俺は笑って彼女に抱き着き、そのまま空中でクルクルと回る。

「わっ、ちょっ、こらっ、やめんか! 飛行が乱れる!」

「うーん、この我が嫁さんの抱き心地、最高だなぁ! 柔らかくて暖かくて、フワフワで!」

「あ、阿呆! 頬擦りすな! え、エンが見ておるじゃろう!」

「フハハハ、何を恥ずかしがっているんだい? いいじゃないか、我々がラブラブであるというところ、存分に見てもらおう!」

『……ん、仲が良いのはとてもいいこと』

「ほら、エンもこう言っているからな! 心ゆくまでスキンシップしようぜ!」

「い、いや、だからと言うてこんな空で……ハァ、お主はこういう時、ほとほと人の話を聞かんよな」

俺が抱き着くのをやめる気がないことを察し、呆れたようにため息を吐き出して、しかし振り解くことなく、子供でもあやすようにポンポンと俺の頭を撫でるレフィだった。

――現在俺達は、ホテルを後にし、再度空の旅の途中である。

いやぁ、出て行く時に、色々便宜を図ってくれた軍人のおっさんが見送りにというか、確認にというか、再度会ったのだが、彼すんげーホッとしてたな。

別に何にも悪いことはしていないのだが、お騒がせしてちょっと申し訳ない気分である。

今飛んでいるのは、予定通り人里から離れた、深い森の上空である。

やはり人が避けるような地域であるためか、この辺りは魔物が多いらしく、マップに敵性反応が多く映っていたので、念のためエンを装備して飛んでいる訳だ。

と言っても、魔物の強さは魔境の森のヤツらとは比べるべくもないがな。

その気になれば殴っただけでぶっ殺せるような相手だろう。エンで斬るより確実に汚れるからやらないけど。

そうしてエンを担ぎながらレフィと並んで飛んでいると、その時遠くの方に、何か大きなものが浮かんでいることに気が付く。

「あれは……おぉ、飛行船か!」

距離があるためサイズ感がわかりにくいが、背景の山脈の大きさから察するに、恐らく相当デカい飛行船だろう。

魔法も使っているのかもしれないが、気球部分も双胴だし、結構な人員が乗り込めるのではないだろうか。

すげぇ、こちらの世界だと、もう飛行船が存在しているのか。

……いや、けど、考えてみればそう不思議なことでもないのかもしれない。

道中で見た騎龍兵や、翼持ちの魔族なんかがいるこの世界では、すでに三次元戦闘の大切さが理解されているのだろう。

こういう技術が発達する一番の理由って、軍事的な必要性からだろうしな。

もう五十年もしたら、普通に戦闘機が空を飛んで、魔物対戦闘機の激熱ドッグファイトとか見られるようになるかもしれない。

俺、もう長命種なんだし、その技術の移り変わりの様子も見られるんじゃないか?

楽しみだなぁ……。

なんて、ちょっとワクワクしながら飛行船の方を見ていた俺だったが……そこでようやく、その飛行船の様子が少しおかしいことに気が付く。

「……なぁ、よく見たらあの飛行船、煙出てないか?」

「うむ、物凄く煙が昇っておるの」

『……ん、モクモク』

あれ、飛行船ってあんなに激しく煙出るものだったっけ。

あれ、飛行船って火を噴き出して飛ぶものだったっけ。

遠くてわからなかったが、あの気球部分の側面の、もしかして模様じゃなくて魔物……。

「のうユキ、儂の見間違いでなければ、あれは魔物に襲われて 墜落の最中(・・・・・) じゃと思うんじゃが、どう思うかの?」

「……私もそう思います」

――見えた飛行船は、墜落し掛けていた。

「どうする? 儂は別に、放置でも構わぬが」

「えー……俺もあんまり関わり合いになりたくないんだけどなぁ……」

けど、見ちゃった以上はなぁ……。

と、エンの念話が俺達の脳内に流れ込む。

『……知ってる。こういうのは、フラグって言うんだって』

「へ?」

『……それで、助けに行ったらお姫様がいて、悪い魔法使いがお姫様を攫おうとしてて、その悪い魔法使いをやっつけてお姫様に感謝されるの。……ね、主。お姫様、助けに行こう?』

きっと擬人化していたら、これ以上なく瞳を輝かせていたのだろうことが丸わかりの声色で、懇願するエン。

あの飛行船が墜落し掛けている理由は魔物に襲われてだろうから、悪い魔法使いはいないんじゃないか、とか、そもそもお姫様はこんな人里から離れた航路を飛ぶ船には乗らないんじゃないか、とか、色々反論の言葉は頭に思い浮かんだが……。

「……そうだな、助けに行くか」

俺は何故かテンションの上がっている彼女に否と言うことが出来ず、苦笑を浮かべてそう答えた。