軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

龍の里へ《3》

「ここにおられましたか! 隊長、緊急出動の要請がグランダ砦から入っています! 正体不明の魔族が空から二人侵入、騎龍兵部隊が対処に動くも、何やら怪しげな魔法を使われワイバーンが言うことを聞かなくなっていると」

「あぁ? 俺、今日非番だってのに……」

隊長と呼ばれた男――ゼリムは、あからさまに嫌そうな顔を浮かべ、店で食べていた昼食の手を止める。

「申し訳ありません。しかし、相手が何をしているのか全くわからず、このままでは首都の方まで向かわれてしまう可能性があるため、隊長にその者達の正体だけでも確かめてほしいと」

「……撃墜された奴はいるのか?」

「いえ、魔族達自体は、こちらのワイバーンの動きを止めるだけで特に攻撃はしてきていないそうで、損害はゼロだと。ただ、その飛行スピードも恐ろしく速く、付いて行くのがやっとだとの話で」

「ふーん……となると、示威行動か何かのつもりか? まあいい、了解、すぐに向かう。ウチの隊の連中に準備させておけ」

「すでに隊の者は、全員集結しております」

言外に「早く準備しろ」という態度を示す部下に、わざとなのか、それとも気付いていないのか、ゼリムは飄々と言葉を返す。

「あ、そうなの。優秀な奴らで嬉しいねぇ。――おばちゃん、会計お願い!」

* * *

「お前が片っ端から威圧するから、すんごい大ごとになっちゃったじゃねぇか! ど、どうすんだよこれ!」

「フン、何も解決策の思いつかなかったお主より、まだ前に進めている分マシじゃろう! それに、どうもこうも、このまま突っ切ってしまえばいいじゃろうが」

「い、いや、けどこれ、完全に囲まれちまってるんだけど! 三個分隊ぐらいはいそうな感じなんだけど!」

ゼリムが現場に辿り着いた時、その男女の二人組は、何やら言い合いをしていた。

「おいおい……」

「グランダ砦の奴らは何をしてんだか……って、隊長?」

まるで痴話喧嘩のようなその光景に、彼の部隊の者達は思わず脱力し――だが、ゼリムだけは、戦慄に全身を強張らせていた。

――あれは、いったい何だ。

二人の内、少女の方。

見た目は、ただの可憐な少女だ。

だが、それは、彼女を表すのに相応しい言葉ではないだろう。

少女の身から感じられる、圧倒的な、強大な圧力。

自身の心臓が、直接鷲掴みにされたかのような、恐ろしい威圧感。

相手に、何かをされた?

いいや、違う。相手は何もしていない。

ただその格の違いに、この身体が震えているのだ。

ワイバーン達が動けなくなっているのも、これが理由か。

人間と比べ、魔物などの方が、本能的にその強さの差を感じ取ることが出来るというのは有名な話だ。

実際、自分の乗っている騎龍も、激しく怯えているのがわかる。

一応隊長である自分に合わせ、コイツも特別なものであり、亜龍種の中では最上位に属する『ユラン』という騎龍を与えられている。

そこらの魔物や、ただの魔族が相手ならば、簡単に蹴散らすことが出来るだけの力を有しているのだが……コイツは理解しているのだろう。

自らの方が、圧倒的に格下であるということを。

また、その圧力は、男の方からも感じることが出来る。

少女程ではないが……しかし、その少女と肩を並べて歩くことが出来ているのだ。

恐らく、その気になればあの男単体でも、ここにいる者達全員を蹴散らすことが可能だろう。

ゼリムは、恐怖からゴクリと生唾を飲み込みながらも、彼が隊長にまで任命された最大の理由である『分析』スキルを義務感から発動し――あぁ。

見えた少女の正体に、妙な納得すら感じて彼は、すぐに指示を開始した。

「全員、下がれ。絶対に手出しをするな。絶対に、だ。ここは俺が相手をする」

普段とは違う彼の切羽詰まった様子に、部下達は少々面食らった様子を見せながらも指示通り下がり、最初に包囲していた兵達もまた、彼がその場の中で最も位の高い兵士であったため、同じように包囲を解く。

その場にいる面々が大人しく指示に従ってくれたことに、ゼリムは若干の安堵を覚えながら、次にこちらのことなど完全に眼中にない様子で言い合いを続けている二人へと声を掛けた。

「全く、お主は一々細かいんじゃ! 姑か!」

「あーら、失礼しちゃうわね! ワタクシ、あなたのためを思って言っているのよ! 細かいという言葉は、自らを省みてから言った方がいいのではないかしら!」

「その気持ち悪い口調をやめよ!! 鳥肌が立つわ!!」

「あの……お二人方、よろしいでしょうか? こちらは北方方面軍所属のゼリムと言います。本日はどのような理由で、こちらにいらしたのかお聞きしても?」

ゼリムの言葉に、そこでようやく周囲の状況を思い出したのか、ハッと我に返った様子で言い合いをやめる二人。

やり取りを見られていたのが恥ずかしかったのか、男の方がゴホンと一度咳払いしてから、口を開いた。

「別に、大した理由がある訳じゃない。あー……そうだな、里帰りみたいなもんだな。俺じゃないが。たまたま通り道だったからこっち来ただけだ」

「里帰り……」

男の言葉から察するに、つまり里帰りをするのは、少女の方。

龍族の里帰り……この国を抜けた先の、さらに先には、確か『龍の里』と呼ばれる秘境の地があったはずだ。

なるほど、彼らは今、そこに向かっているのか。

男の方は、分析スキルが通らないため種族もよくわからないのだが……龍族ではないのだろう。

獣人族や亜人族といった感じでもないので、部下達の予想通り恐らくは魔族か。

少女の付き添い、といったところだろうか。

いや、この際細かいところの事情はどうでもいい。

この国がただの通り道だと言うのならば、そのまま 通して(・・・) しまえばいい(・・・・・・) 。

「わかりました、では、こちらをお持ちください。この手形があれば、国内のどの場所でも自由に行き来出来るようになります。私の方からも、軍の者に話を通しておきましょう」

「なっ、隊長!?」

驚きの声をあげる部下に、ゼリムは黙ってろと目線で促す。

「おぉ、助かる。親切にどうも。この先もこの調子だったら、どうしようかと悩んでいたところだ。――と、そうだ、親切ついで一つ教えてもらえたら嬉しいんだが、この先にオススメの宿とかないか? そろそろ泊まるところを考えないといけない時間だからさ」

男の言葉に、さっさとどっか行ってほしいのが本音のゼリムは一瞬頬を引き攣らせるも、あくまでにこやかに笑顔を保ったまま答える。

「や、宿ですね……わかりました、ではここから十キロ程先に、我が国の街があります。そこに良いホテルがありますので、このままご案内させていただければと」

言っていることは、ほぼ「監視を付けさせてくれ」ということと同義なので、不快感を示されたらどうしようかと、冷や汗を流しながらそう提案してみるが……。

「お、そうか。じゃあお願いしようかな。レフィもいいな?」

「うむ、問題無い」

特に何も気にしていない様子で、あっさりと頷かれる。

ゼリムはホッと安堵の息を吐き出し――と、男の方が、気安い様子で話し掛けてくる。

「そんな、心配しなくていいぞ。 アンタは(・・・・) わかってる(・・・・・) んだろうが(・・・・・) 、別に何にもしないからさ。本当に、ただ通りたいだけだから。明日の朝になったら、大人しく出て行くよ」

まるで何もかもを見透かしているかのような男の言葉に、ゼリムは思わず固まってしまっていた。

――ったく、俺は今日、非番だってのによ!

彼の内心の叫びは、しかしその場にいる誰にも理解されることはなかった。