軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

スタンピード《1》

「さて、俺らの就寝を邪魔してくれたヤツらは……」

いつものように『隠密』スキルを発動し、背中に翼を生やして大空へと飛び上がった俺は、魔王の超視力で魔物どもが迫って来ている方向へと視線を送る。

「……実際に見ると、すげーなこりゃあ」

見ると、街の周囲に広がっている森の奥を埋め尽くさんばかりの魔物どもが、ズカズカと大地を耕しながら迫って来ている。

流石に、以前出くわしたアリの軍勢よりは数が少ないだろうが、圧倒される光景だ。

ただ、やはり単一種族の軍団ではないためか、というか単純に知能が低いのか、連係の概念など毛程も存在していないらしく、同じ方向に向かう他種族同士で諍いを起こしながら先を進んでいる。

ネルに言われた通り、俺は油断――というより単純に考え足らずで失敗することが多いので、あまり気を抜くことも出来ないが……まあ、しかしこの様子ならば、特に苦労せずとも殲滅可能だろう。

対多数戦闘は、結構やって来たから得意だしな。

うん、やっぱり一度自身の眼で見ておいてよかった。

「……問題は、こっちか」

俺は、外に向けていた視線を、今度は 街中へと向ける(・・・・・・・) 。

……まあ、こっちは後でいいか。

今は動き出しそうな様子もないし、恐らくアイツの仕事はすでに終わっていることだろう。

とりあえず先に、あの魔物どもをどうにかすることにしよう――。

* * *

ネルは街の外壁の上を行き来し、慌ただしく動き回る兵士達に混じって、矢の補充や大砲の玉の準備などを手伝っていた。

あまりにも唐突な襲撃だったがために、防衛の準備が整っていなかったのだろう。

ネル以外にも、町人なのか武装もしていないヤツらが外壁の内側を走り回り、兵士達の手伝いをしている様子が多々見られる。

ちゃんと協力するんだな、と思ったが、よくよく考えてみたら唐突な事態過ぎて避難もロクに出来ていない以上、生き残るためには協力の道以外ないのだろう。

俺は、物陰にひっそりと着地して翼を消すと、他の人間どもが見ていないタイミングを見計らって隠密を解除し、ネルの元へと向かう。

「ネル」

「おにーさん! ……おにーさん、またその仮面を付けてるの?」

「おう。勇者の隣に仮面の男在り、だ。その方が勇者の仲間っぽくて自然だろ?」

「……まあ、いいけどさ」

肩を竦めた俺に、苦笑気味に溢すネル。

そう、今の俺は、王都に来た時に被っていた仮面を再度被っている。

この後のことを(・・・・・・・) 考えると(・・・・) 、俺は正体を隠しておいた方が何かと動きやすくなるだろうし、何よりこれ、お気に入りなので。へへ。

俺もまた、ネルのやっていた装備の補充を手伝いながら、口を開く。

「それよりネル、見て来たぞ。内訳はゴブリンとかオークとか。ちょっと強いところでオーガか。やっぱり数が多いが……まあ、雑魚だ。俺とお前で確実に殲滅出来る相手だな」

「……本当なら、とても雑魚なんて言える相手じゃないんだけど……おにーさんとリル君達に付いて行って、あの魔境の森の魔物を見た後だと、『あ、それなら……』って思っちゃうのが、怖いところだね」

「実際、お前の言った通り油断しなきゃ、負けるこたないだろうな。ただ、俺はちょっと奥に行ったところで戦うから、あんまり手助けは出来んぞ。勇者より目立つ訳には行かないからな」

「別に、そこまで気にしなくてもいいんじゃないの?」

不思議そうにそう言うネルに、だが俺は首を左右に振った。

「いや、ダメだ。自分で言うのもアレだが、俺の魔法やら何やらは基本的にバ火力で派手だからな。お前より人目を引くだろうことは重々考えられるし、何よりお前の立場は今弱いんだ。『勇者がお供よりも弱い』なんて噂を流される訳にはいかないだろ」

「っ……そう、だったね」

沈痛な面持ちを浮かべるネルに――しかし俺は、意図して軽い口調で、彼女に言葉を続ける。

「けどな、ネル。今回のこれは、チャンスだとも言える。お前は他の人間と比べて圧倒的に強いことは間違いない。だから、ここで魔物どもを蹂躙して、ヤツらにお前の強さを見せつけてやろうぜ?」

「そ、そんな、チャンスだなんて……」

「チャンスだろ? 雑魚いカモがノコノコ、俺達に殺されにやって来てくれんだからよ」

その俺の言葉に、彼女はしばし口を閉じてから。

やがて、小さくコクリと頷いた。

「……うん。わかった。僕も、頑張ってみる」

「いいぞ。その心意気だ」

そう言って笑ってから俺は、ふと表情を真面目なものにすると、彼女の耳元に顔を寄せ、周囲に聞かれないようにこそっと耳打ちする。

「……それと、ネル。よく聞け。 街中に(・・・) 敵の反応がある(・・・・・・・) 。けど、街中に魔物はいない。――この意味、わかるな?」

「っ! ……そっちは、大丈夫なの? 僕達が戦っている間に、裏で……」

「いや、多分大丈夫だ。ずっと見張っておくつもりではあるが、恐らくソイツはすでに事を終えた後だ。今は放っといていい」

ソイツの下には、強化版イービル・アイを送り、常時隠し撮りさせている。

以前のものより一回りぐらいサイズが大きくなってしまったのだが、おかげで魔力の内蔵バッテリーが相当にパワーアップしており、二時間ぐらいであれば連続で駆動可能な仕様になっている。

フフフ、ダンジョンの成長と共に、我が秘密道具達もまた、どんどん便利に進化し続けているのである。

「――と、そろそろ魔物どもが来るな。そういうことだ、ネル。敵は弱い。殲滅するのはそこまで難しくない。けど、その後気を抜くなよ」

「わかった、肝に銘じておく」

「よし。――そんじゃ、ネル。準備はいいな?」

コクリと頷く彼女を見て俺は、外壁の一番外側に脚を掛けると――そこから一気に飛び降りた。

数瞬の滞空の後、足裏に走る重い衝撃。

無事着地に成功した俺は、後ろを振り返ると、チョイチョイと頭上のネルを手招きする。

「う……え、えい!」

ネルは一瞬躊躇った様子を見せてから、しかしすぐに決心した表情を浮かべ、俺のいるところ目掛け、一気に飛び降りた。

降って来た彼女の身体を、俺は両腕を伸ばして横薙ぎでキャッチする。

「うぅ……これ、やっぱり何度やっても怖いや」

「そう言えば、前にもこんなことをしたっけな」

「おにーさんがムダに暴れた魔界の酒場でね」

「……いや、やっぱ何も覚えてないわ。うん。これが初めてだな」

「…………」

腕の中でジト目を向けて来るネルから、俺は全力で眼を逸らしながら、彼女の身体を起こす。

「っ!!誰か二人落ちたぞ!!」

「なっ、こんな時にか!? くっ……急げ、門を開けろ!!――おいっ、下のヤツら、無事かぁっ!?」

と、外壁の上からこちらに向かって掛けられる、兵士達の焦りの声。

「あ、ヤバいネル、アイツら出て来ちまうぞ」

「ん、任せて」

そう言うと彼女は、片手を前に伸ばし――。

「『絶域の結界』」

――その手の平の先に、巨大な『壁』が出現する。

それは本当に巨大な壁で、街の外壁に沿って俺の視界の限りに広がっている。

「な、何だこれは!?」

「か、壁が……!?」

外壁の上から聞こえて来る、どよめきと驚きの声。

「……へぇ、これがお前の結界魔法か。初めて見たな」

「そう言えば、おにーさんには見せたことなかったっけ。うん、そうだよ。僕の固有スキル。これで、流れ弾とか余計な被害のことは気にしなくて大丈夫かも。……仮に内側で何かあっても、おにーさんならバレずに飛んで忍び込めるでしょ?」

「まあな」

試しにネルの出現させた結界を、コンコンと叩いてから、ガコンとちょっと強く殴ってみると、確かな固さが拳に返って来る。痛い。

なるほど、これなら確かに、この向こうの兵士諸君のことは気にせずに済みそうだな。

俺達は心置きなく、自由に暴れることが出来る訳だ。

「ネル、今ので半分程削れたろ。飲んどけ」

その言葉と共に、アイテムボックスから取り出した、俺が滅多に使わないMPポーションをポンと彼女に投げ渡す。

「ん、ありがと。……苦い」

ネルは素直にそれを受け取ると、顔を顰めさせながらクイと中身を呷る。

次に俺は、アイテムボックスからソレ――我が愛武器であるエンこと『罪焔』を、抜き身で取り出す。

「――エン」

『……んぅ。出番?』

「あ、悪い、寝てたか? ごめんな、急に起こして」

『……平気』

若干眠そうな様子で、エンからそんな意思が返って来る。

――そう、彼女もまた、俺とネルの旅路に付いて来ていた。

俺にとってエンは、もはや手放せない最愛の武器であるため、やはり連れて来ていたのだが、しかし彼女は俺とネルに遠慮して、ずっとアイテムボックスの中で大人しくしてくれていたのだ。

俺も、一息ついたら彼女を出してやろうと思っていたのだが、リルの上や狭い馬車の中など、しばらくそんな機会がなく、なので宿の部屋に入ったら出してやろうと思っていたら……まあ、この事態である。

本当に、我慢ばかりさせて申し訳ない限りだ。

ダンジョンに戻ったら、もう彼女がクッタクタになって眠ってしまうまで、一緒に遊ぶことにしよう。

「……おにーさん」

若干の緊張を感じさせるネルの声に、俺は手元のエンから前方へと視線を移す。

――闇の中を蠢く、無数の松明の火。

地面から伝わる無数の足音が重なり合い、一つの大きな地響きとなってどんどんと迫り来る。

俺は、肩にエンを担ぎ上げると、前に身体を向けたまま首だけネルの方へと向け。

仮面の奥でニヤリと笑みを浮かべ、口を開いた。

「じゃ――やるぞ」