軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

中継の街《2》

「じゃ、じゃあ、領主様。僕達はこれで、お部屋に行かせてもらいますね」

「そ、それじゃあ、お先に」

「……うむ。明日も早い。十分に英気を養ってくれ」

そうして、若干互いに気まずい感じになりながらも、それぞれの部屋に向かうため俺とネルは領主一行とひとまず別れ――。

――だが、そのまま俺達が部屋に入ることはなかった。

ピク、と身体を反応させ、俺は唐突にその場に停止する。

「? おにーさん、どうしたの?」

「……はぁ、全く。もう休むところだったっつーのに。――ネル、 武器を(・・・) 用意しとけ(・・・・・) 」

「――!」

その俺の言葉に、彼女は特に疑問の言葉を挟むことなく、表情を鋭くさせて腰から外していた聖剣の鞘を再び腰に巻き付ける。

「……? どうした?」

俺達の様子の異変に気が付いた領主が、怪訝そうに廊下の向こうからこちらに問い掛けて来る。

「魔物の一団が、この街に向かって来ている。かなりの数だ」

「何ッ!?」

「……おにーさん、距離は?」

「かなり近い。三十分もせずに到着する」

そう彼女に答えながら、俺は『索敵』スキルで引っ掛かった反応を、マップを開いて確認する。

……やっぱりな。

確認した限りだと、俺達がやって来たのと同じ方向から、魔物が真っすぐこの街に向かって迫って来ている。

内訳としては、オークやオーガ、ゴブリンなど、人型ではあるが、『ヒト種』としては扱われていないヤツらの軍団だ。

珍しいところだと、ゴブリンやオークなどがウルフ系の魔物や猪系の魔物に乗った、いわゆる『ライダー』と呼ばれるヤツらも混じっている。

……ちょうど、俺達が街に着いたタイミングでこれか。

偶然なのか、それとも……。

――と、その時、カァンカァン、と警鐘が激しく打ち鳴らされ始め、街中に響き渡り始める。

その音を聞いて宿の他の客達がざわつき始め、係員が落ち着かせようと張り上げている声が、この廊下にまで聞こえて来る。

「……どうやら本当のことらしいな。何も見ずに、警戒に当たっている外の夜警よりも先に気が付くとは、流石は魔王、というべきか」

「あの森じゃあ、これぐらい鼻が利かないと、生き残れないんでな。――それよりおっさん、アンタお偉いさんだろ。どっか避難してろよ」

「そうは行かぬ。貴族とは、こういう時にこそ先頭に立たねばならん。ガムディア殿!」

「ハッ!」

傍らにずっと控えていた元指揮官のおっさんが、領主のおっさんの言葉にビシッと姿勢を改める。

「休ませていた護衛を全員集めろ。この街の領主館に向かうぞ。何か、手伝うことが出来るやもしれぬ」

「了解致しました。すぐに集結させます」

そう言い残すと彼は、軍人らしいキビキビとした動きで部下達を呼びに駆けて行った。

「……おにーさん、お願い。僕に……力を貸してくれないかな」

「お願いされるまでもないな。お前がそう望むなら、そうしよう」

ニヤリと笑みを浮かべ、肩を竦めた俺に、ネルもまた深刻そうな表情を少しだけ和らげ、笑みを浮かべる。

「……ユキ殿、ネル殿。私はこのまま、領主館に向かう。貴殿らはどうするつもりだ?」

「まあ……撃退しようか。このままじゃゆっくり休めなさそうだし、コイツにお願いされちまったからな。――実際にどう動くかは、とりあえず空から偵察して、その後に決めよう。ネル、お前はどうする?」

「僕は、街の外壁に向かうよ。おにーさん、魔物はどっちから来てるの?」

「俺達の来た方と同じ方向からだ。さっきまでは影も形もなかったはずなんだがな」

「わかった、じゃあ、街に入る時の大門に向かうことにする。おにーさん、様子を確認したら、どんな風になってるか教えてくれる?」

「あぁ、確認次第すぐそっちに行ってやるよ。――そういうことだ、領主のおっさん。こっちはこっちで勝手に動くぞ」

「了解した。では、そのようにこちらも想定しておこう。……いつもであれば、覚悟を決めておかねばならんような事態のはずだがな。貴殿らが動いてくれると聞いて、思わず安心してしまいそうだ」

「あぁ、のんびりと休んでいてくれてもいいんだぜ。な、ネル」

「……おにーさん、いつもみたいにヘンな油断をして、『しまった!』なんてことにならないようにね。おにーさん、そういうの多いから」

「お、おう。そうだな、油断しないで本気で、だな」

「ハハ、その様子を見る限り、本当に心配はいらなそうだ。だがまあ、精々気を付けてくれ。幸運を祈るぞ――」

* * *

「ニゲラ殿!」

アルフィーロの街領主、レイローは、まるで殴り込みをかけるような勢いで、この街『センギュリア』の領主館内部へと足を踏み入れた。

「レイロー殿!?何故ここに!?」

「偶然だ。王都に寄る途中だったのだが、緊急時のようだったのでな。出過ぎた真似かもしれぬが、何か力になれるかと、こちらに寄らせていただいた」

「そうか……それは貴殿にとっては、災難だったと言うべきか。いや、実際ありがたい。この事態に『戦神』と呼ばれた貴殿がいたのは、正直心強いばかりだ」

センギュリア領主、ニゲラの言葉に、レイローは思わず苦笑を浮かべて答える。

「昔の話だ。――それより、詳しい話が聞きたい。魔物が襲撃に来ているのだな?」

「……流石に耳が早いな。その通りだ。夜警の衛兵が、この街に迫る魔物の軍勢の姿を確認した。数百は下らん」

「……多いな」

「あぁ。加えて、敵の内訳はオークやオーガ、ゴブリンライダーなど、人災級の魔物も多く確認されている。……完全なスタンピードだ。その兆候は、なかったんだがな」

そう言って険しい表情を浮かべるニゲラに、同じく真剣な表情を浮かべているレイローは――しかし、口元に小さく笑みを携えた。

「……今回に限って言えば、不幸中の幸いだったかもしれぬな」

「何?」

「いや、不幸ですら、ないかもしれん。頼り切りになってしまうのは、不甲斐ないばかりだが……彼らが対処に動いてくれた以上、こちらは、その事後処理に頭を悩ませることになりそうだ」

ただ一人、そう溢すレイローに、ニゲラは怪訝そうに首を傾げた。