軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

スタンピード《2》

「おっと、そうだ。ネル、ちょっと聖剣見せてみろ」

「え? うん、わかった」

ユキの言葉に、ネルは特に疑問を挟むことなく頷き、聖剣『デュランダル』を渡す。

ユキはエンを持っていない方の手でデュランダルを受け取ると、何やらじぃっと刀身に視線を下ろし――。

「……ねぇ、おにーさん。それどうなってるの? 何か、刀身がカタカタしてるんだけど……」

しかも、聖剣が常時発する淡い光が何故かどんどんと強くなっていき、夜の闇を強烈な光で照らしている。

見ていて少し、眩しいぐらいだ。

「……よし、こんなものか。――ネル、お前の聖剣に今、しこたま魔力を流し込んどいたから」

「えっ」

「ほれ、返すぞ。敵が来たら、まず一発、内部の魔力を遠くに飛ばすイメージでぶっ込んでみろ。多分、一撃でかなり魔物どもの数を削れるぞ。――じゃ、もしヤバくなったら、そん時は余計なことを何にも考えずにすぐ俺を呼べよ?」

「あ、う、うん……わかった。手に負えないってわかったら、迷わず合図しておにーさんを呼ぶよ」

差し出されるがままに聖剣を受け取り、そう返事をするネルに、ユキはヒラヒラと手を振る。

そのまま彼は、何の魔法なのかまるで闇に溶けるようにして、エンを肩に担いだままその場を消えて行った。

「……魔力をしこたま流し込んだって……どうしたらこんなことになるのかな」

ユキが消えて行った方を見てから、カタカタと揺れ強烈に発光する聖剣を見下ろし、ネルは思わずそう呟く。

『グルォォォォッ!!』

その獣のような咆哮に、ネルはハッと顔を上げ、前方へと顔を向ける。

彼女の視界に映るのは――地面を揺らし、迫り来る魔物の大群。

忘れていた訳ではないのだが……いつの間にかかなり近くまで距離を詰められており、もう五分もせずにここまで辿り着くことだろう。

「……何だかよくわからないけど……」

だが、まあ、彼がネルにやらせようとしていることはわかる。

つまりは、『魔刃』を撃たせたいのだろう。

以前、ネルも剣を教わったことのある、人間界では英雄として扱われている老執事―― 先代勇者(・・・・) が得意としていた技だ。

剣に魔力を乗せ、それを剣先から先飛ばし、射線状に存在するものを 斬らずに(・・・・) 斬るのだ(・・・・) 。

ネルはあまり、魔刃は得意ではなく、やろうとするといつも魔力の収縮が甘くなり、攻撃範囲がムダに広くなってしまうのだが……。

――おにーさんのことは……気にしなくても大丈夫か。

彼は自分よりも強い上に、彼自身が「やれ」と言ったことであるので、ここでネルが暴発気味の魔刃を放っても、恐らく勝手に避けてくれるだろう。

余計な考えを頭の中から追いやり、両手に握る聖剣を大きく上段に構える。

「……フゥ」

息を、深く吐き出す。

周囲の音が遠退いて行き、自身の意識全てが剣に流れ込んで行くような感覚。

――すごい力だ。

今にも暴れ出しそうな魔力の全てを、無理やり刃の形へと整えていき、そして聖剣の刀身に沿って完成した魔力の刃を鋭利に研ぎ澄ましていく。

意識の大半を剣に費やしたまま、彼女は眼前を見据える。

人間の姿を確認して滾っているのか、各々が武器を振り上げ、雄叫びを上げる魔物の軍勢。

今ではもう、魔物一体一体の輪郭、そしてその瞳に満ちた興奮の色まで見て取ることが出来、その中でウルフ系の魔物に乗ったゴブリンや猪に乗ったオークなどが集団より突出して迫り来ている。

この距離なら――届く。

「――ハッ!!」

ネルは魔物の軍勢目掛け、上段に構えた聖剣を勢いよく振り抜き――。

爆発した。

強烈な炸裂音と、轟雷のような閃光。

発生した突風がネルの衣服を激しくはためかせ、周囲の木々と草々を根から抜けてしまいそうな勢いで揺らす。

――魔刃は、振り抜いた一直線上にあるもの、そしてその近くに存在するもの全てを吹き飛ばし、まるで地割れでも起きたかと錯覚するような亀裂を大地に刻み込み、どこまでもどこまでも斬り裂いていったところで、ようやく消滅した。

後に残るのは、死屍累々とした魔物の死体群に、大きく抉られた大地と、爆心地のような惨状の森。

「な、何だ今のは!?」

「す、すごい、何て威力だ!!」

「さっきの剣の輝き……も、もしかして聖剣か!?」

「聖剣!?つまり、あの少女は勇者様か!!」

「な、なるほど、確かに勇者様なら、あんな物凄い威力の攻撃も……!!」

背後の外壁の方から聞こえて来る、勇者を連呼する熱狂の声。

前方では、勢いづいていた魔物達が慌てて足を止め、何が起こったのかわからないといった様子で、呆然とネルの方と魔刃の通った跡に視線を行き来させている。

「…………」

そして、ネルもまた何が起きたのか全くわからず、思わず顔を引きつらせながら自身の斬った先を眺める。

――おにーさん、どれだけ魔力を込めたのさ!!

声にこそ出さなかったが、しかし胸中でネルは、力の限りでそう叫んでいた。