作品タイトル不明
男たちの動向
次の年に、弟が軍部に入ってきた。
弟は雑談の中で犯人捜しを始めたらしい。
「うちの姉貴に子どもの頃『好かれるはずがない』って言った男がいるらしいんだ。なんか聞いたことない?」
「ああ、事務の眼鏡の人?」
「女の子にわざわざそんなこと言うか?」
「もしかしたら、あれか。好きな子に意地悪しちゃうやつ」
「華やかな美人じゃないけど、『おかえりなさい』とか言ってほしいかも」
「それな。癒やされそう」
無責任な評価が積み重なっていく。
「でも、なんで今ごろ子どもの頃の話をしてるんだ?」
盛り上がる中でも、冷静な人が問いかける。
「や、なんかさ。それで自信なくして、結婚できないとか言っててさ」
「え~、そんな、昔のことだろ?」
「姉貴は繊細なんだよ。まあ、何か思い出すことがあったら教えてくれよ」
「そういえば、大会の時に笑ってたやつがいたかも。『すました顔が歪んで、泣きそうだった』とか」
「それ、いつのことだ?」
弟は勢い込んで問いただす。
「武芸大会だったかな。準決勝にも残れない奴らって、すぐ暇になるじゃん。
そういう奴らだから、いじめでもして憂さを晴らしてんのかなって……。
雑魚の顔なんか覚えてないけどさ」
「全然手がかりがなかったから、それだけでもありがたいよ。武芸大会に出てたなら、軍部に入った可能性があるよな」
「普通に学校関係って可能性もあるんじゃね?」
「まあな。そうなったらお手上げだ。俺の活動範囲とかぶらないもん」
弟も、真剣に探偵をするのは無理だとわかっていた。
「だったら、学校の友達にも訊けばいいじゃん」
「それがさ、姉貴は自分のことをあんまりしゃべらないから、交友関係がイマイチわからなくて」
「そんなことあるか?」
「うちはだいたいお袋がしゃべりまくって、兄貴と俺が話すくらいでさ。姉貴はひたすら相槌を打ってる感じ……あれ、なんか変だな」
「ああ、子どもの頃からそうなんだろ。だから、傷ついたことを家族に言えなかったんだ」
同僚の言葉に、弟は愕然とした。
姉の話を、誰も聞こうとしない家。就職してから、たまにしか帰らない娘――
そして、元凶である嘘告の男が現れる。
地方に配属された者たちが、祭典の警備のために王都に呼び寄せられたのだ。軍部の寮を割り当てられ、王都で数か月過ごすことになる。
嘘告の男は、手柄を立てて正式に王都に異動することを夢見ていた。それと同時に、「幼なじみの彼女」を口説いて結婚しようと考えていた。
地方勤務のままなら何もするつもりはなかったが、せっかく巡ってきたチャンスだ。彼女と縁づけば、義父の引き立てで出世できるかもしれない。義兄の交友関係に加えてもらえれば、自分はもっと飛躍できる。
そんな野心を抱いていた。
それから、予想外にモテる女になった彼女をものにするのは、気分がいいだろうとも……。