作品タイトル不明
バレる
次の日は、体が重くて起き上がれなかった。
始業時間の間際になり、寝間着に薄手のコートを羽織って、一階にある通信魔導具のところまでなんとか歩いて行った。持ってきた魔石を受け皿に乗せ、職場の番号を押す。
呼び出し音が聞こえて、昨日来てくれた同僚が出た。
「はい、こちら資材管理課でございます」
「おはよう。あの、昨日はありがとう」
「なんだ、仕事用の声を出しちゃった。今日は休むってことね?」
当然のように言ってくれる。
「うん。申し訳ないけど、休ませてもらっていい?」
「こういうのはお互い様だから。昨日聞いた内容に追加はある?」
「ないと思う。他の人にも申し訳ないとお伝えください」
最後は少し改まって、お願いした。
「じゃあ、ゆっくり休んでね」
「そうさせてもらうわ。ありがとう」
そんな言葉を交わして通信は切れた。
これから階段を上らなければいけない。軽く息を吐き、手すりを握る。一歩ずつ、重たい体を持ち上げた。
これでは買い出しに行くのは無理だろう。昨日、食べ物を差し入れてもらえて、本当によかった。
すっきり眠れるわけではないが、体を横にして気がつくと寝ていたりする。果実水が胃を刺激するので、薄めることにした。これで水分と糖分が取れる。ほんの少し塩を舐め、これで今日一日は凌げるだろうと考えた。
何もせずに時間が過ぎていく。怠惰な時間。役立たずな私――
夕方、扉の向こうで話し声がする。
「本当に弟さんか、確かめさせてもらいます」
ここは女性専用の賃貸なので、誰かが男性を呼んで管理人に見つかったのだろうか。
そんなことを考えていたら、扉がノックされた。
え、私? 弟が来たの?
慌てて扉を開けると、本当に弟がいた。
管理人に弟だと証言する。
「お手数をおかけして、すみません」
「いえいえ、本当に身内ならいいんですよ。じゃあ、来客者カードを渡しておきます。帰るときに返してください」
そう言って、管理人は戻っていった。
「どうしたの?」
弟を部屋に招き入れ、椅子を勧める。
「体調崩したって聞いたから、来たんだよ」
弟も食料の差し入れをくれた。
「剥かないで食べられる果物と、火を通さなくても食べられそうなやつ」
「えー、嬉しい。ありがとう」
私が差し入れをテーブルに並べている間、弟は部屋の中を見回していたらしい。
「姉貴ってこういうのが好きなんだ」
と言われて、ハッとした。
古地図風のタペストリー。聖剣のレプリカ。ドラゴンのペーパーウェイト。
まるで少年のような品揃えだ。
「俺の昔の部屋みたい」
そう言われて、顔が赤くなった。昔から、兄や弟が羨ましかったのだ。
淡い初恋を描いた小説よりも、冒険譚が好きだった。彼らの会話には興味のないふりをしていたが、しっかりと耳を傾けていた。
実家の私の部屋は母の趣味で、フリルと花柄で飾られている。
「素敵でしょう?」
という問いかけを否定するのは、とても難しかった。