作品タイトル不明
幕が下りる
処刑は国の主催で、公開で行われることとなった。隣国と仲介国の大使館にも連絡を取り、貴賓席を用意した。
意外だったのは隣国の王弟が出席したことだ。表向きは見届ける役目だが、実際は姪を害そうとした結果を直視しろということだろう。
青ざめて逃げようとする王弟の肩を、護衛が押さえつけていたそうだ。暗躍していた王弟は、国の代表として晴れの舞台に立つことができた。だが、心は折れたかもしれない。
私は処刑を見に行かなかった。
処刑の数日前に、知らない人から「最期のお別れに行かないなんて、ひどいと思います」と詰られた。文官棟の廊下でいきなり。
驚いて返事もできずにいたら、顔見知りの掃除夫が庇ってくれた。
「知人が死ぬ瞬間を見送りたい人も、見ていられない人もいる。そう言うなら、あんたが見送りに行ってやればいい」
「な……そういうことじゃないでしょう?」
では、どういうことなのだろう? よくわからない。彼女はそれを解説してくれずに、早足で立ち去ってしまった。
「あの男のことを格好いいと、もてはやしていたお嬢さんの一人だ。相手にされなかった僻みだろうから、気にしないでいい」
掃除夫も不思議なことを言う。まるで、彼が私を好きだったかのように……ああ、そういえば手紙に好きだったと書いてあったんだっけ。本当かどうかわからないけれど。
当日は、あまり頭を使わないでいい仕事をする日にした。
処刑の会場に手伝いに行く人たちは、どこか浮き足立っている。血なまぐさい現場に行ったことがない文官は、卒倒してしまうかもしれない。
人が少なくなった執務室で、祭典用の書類を片付けることにした。保存用に数冊確保して、残りを箱に入れていく。普通にゴミとして出せるものと、部外秘の記載がある物を分別していく。
急ぎではない。そのため、誰かがやらなければ数年間放置されることもある。それ以上経つと、事情がわからなくなる。面倒くさがって、保存用や部外秘を気にせず、全て廃棄する人がいるかもしれない。そういう油断から、情報が漏れることもある。
つまらない、地味な仕事だ。評価もされない。
けれど、私は華々しい活躍をしようとは思わない。
先日、廊下で文句を言ってきた女性は、おしゃれに気を使っていた。見るからに、わたしとは違う世界の人だ。きっと話も合わないだろう。
無視してくれて構わないのに、赤いバラを贈られたことで目立ってしまったのだ。
集中できていなかったせいか、紙で指先を切ってしまった。
ヒリヒリするが、幸い血は出ていない。このまま作業を続けてもいいかと迷っているうちに、じわりと赤いものが滲んできた。
……今日は、こんな傷とは比べものにならないことが行われているのだ。そんなことが頭をよぎる。目を閉じて、頭を振った。
最期まで、彼は私に災厄を運んできた。
私は空を見上げて、「これで打ち止めになりますように」と密かに願うのだった。