作品タイトル不明
第132話 準備とゴミ捨て魔法
沖縄に行くと決めてから三十分。
とりあえず、最初にやるべきことは――
「……飛行機の空き状況、確認してみるか」
《検索中です。三日後の便に空席があります。最短で向かうならそこですね》
「三日後か……けっこうすぐだな。飛行魔法で行くのは?」
《可能ですが、距離的に沖縄までは十数時間かかります。途中で海に落ちる可能性もあります》
「うん、やめとこう。あと経費も計上しないとまずいし、飛行機で行くよ。ホテルの予約も必要だな」
《了解しました。先方には“三日後到着予定”で連絡を入れておきます。ホテル候補もピックアップしますね》
「助かる。……そうと決まれば準備だけど、間に合うのか?」
《準備が間に合うかどうかではありません。間に合わせるのです》
「こええよ、その社畜ワード」
《ちなみに現在、受付中の修理依頼はありませんので、ネット販売しているブランド品の出品を一時販売停止にしておきます。それと、“出張のため受注および発送を一時停止しております”の注意書きも掲載しておきました》
「さすがリク。これで店のほうは大丈夫だな。あとは持ち物か。全部ゴミ捨て魔法に収納できるけど、カモフラージュ用にバッグも買わないと。旅行の日用品もいるし」
《今後のことも考慮して、新しく購入しておきますか?》
「そうだな。時間に余裕もあるし、これからはいろんな所に旅行とかも行ってみたいし、ちゃんと揃えておくか」
《それなら、収納魔法があるので“旅行用”ではなく、“日常でも使える品質”のものを揃えましょう》
「確かに! 旅行用シャンプーとか使い切りのつもりだったけど、ゴミ捨て魔法あるなら気にしなくていいんだな。ストックしておけば便利だし」
《はい。ただし、中に入れた物の“分別”や“再構築”は太郎さんのイメージに依存します。食品などを雑に収納すると、 小鳥遊(たかなし) 様の冷蔵庫で処理された菌が混ざって最悪の結果を生む可能性もあります》
「それ怖すぎるだろ……。一回中身全部出して整理しよう」
庭に出て、ゴミ捨て魔法の内部から“菌の可能性があるもの”を取り出す。
肉眼では見えないが、スキャン魔法で確認すれば、微細な反応がちらほら見える。
プチファイアで焼却。小さな青白い炎が空気を舐めるように揺れた。
「これで、やばいのは消えたな」
さらにゴミをすべて出してみると、庭に小さなゴミの山ができあがった。
スキャンで調べても異常はなし。ついでに、前に処理した“アスベストを固めた黒い石”を少しだけ榊の根元に埋めておく。
榊の枝葉が、風もないのにゆらりと揺れた。
「……喜んでるのか? しばらく家を空けるから、この石の魔力を吸収してもいいけど、これ以上大きくなったら切るからな。地下に水を溜めとくから、それで我慢してくれよ」
枝葉は、まるで返事のようにふわりと震えた。
ゴミの山を見て、リクと“ゴミ捨て魔法”のイメージを再検討する。
「最近っていうか、前からだけど……容量がまったくいっぱいにならないんだよな。大丈夫なのか?」
《正確には測れませんが、異世界アーカイブの情報によれば、“満杯の感覚がない”なら問題ないとのことです》
「なら気にしなくていいか……ゴミはゴミでまとめる。食料品や日用品は全く別の空間に収納したいな」
《それなら、“食料品などは別の魔法”として別空間に収納をイメージした方が効率的です。基本的に時間停止。物によっては時間設定も可能。各収納物のパッキングもイメージすれば、衛生面も保たれます》
「いいな。じゃあ名前は、無難に“アイテムBOX”でいいか。ゴミ捨て魔法は今のままで使いやすいし」
《はい。“ゴミ捨て魔法”と“アイテムBOX”なら、間違って収納することはないでしょう》
庭に積まれたゴミの小山を、ゴミ捨て魔法で一気に吸い込む。
空気がひゅうっと鳴って、跡形もなく消えた。
部屋に戻り、冷蔵庫からストックしていた酒を取り出す。
それをアイテムBOXへ。
「……おお、入った。ちゃんと時間停止になってるな。冷えたままで保存できてるはずだ。たぶん」
《“たぶん”で済ませないでください。温度維持はイメージの精度によります》
「大丈夫だって、飲み物だけは真剣に想像してるから」
《信頼できませんね》
ため息まじりの声が聞こえた気がしたが、気にしないことにした。
「よし、アイテムBOX作ったなら、ついでに食料品とか日用品も買い溜めしておこう。いつ何があるかわからんしな。リク、日用品のリストアップ頼む」
《了解しました。最低一週間の生活ができる物資でリストアップを開始します》
「ま、まぁいいか。どうせ使うし……」
スマホの画面に、容赦なく“防災準備リスト”みたいなのが表示される。
《トイレットペーパー、洗剤、レトルト食品、食器、簡易工具、予備の衣類、バスタオル、毛布、ソーラー充電式モバイルバッテリー……》
「なんか、サバイバル始まりそうな雰囲気だな……」
《太郎さんの旅先は“神域絡み”です。非常時に備えるのは当然です》
「まぁ、そうだな。リクの言う通りか」
財布とスマホをポケットに入れて、玄関の戸を引く。
心なしか、家の榊の葉が「いってらっしゃい」とでも言うように、さらりと揺れた。
「じゃ、ホームセンター行くか。ついでにチューハイでも買っとくか」
《飲酒運転は法律で禁止されています》
「飲まねぇよ!夜用だ!」
そんな掛け合いをしながら、俺はホームセンターへと向かった。