軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第115話 自己認識なしと高額収入

久々のショートスリープ。

効果が上がったのか、たった三十分で目が覚めてしまった。

「……いや、短すぎだろ」

眠気が残ってる気がするのに、体はやけに軽い。

ベッドに戻る気にもなれず、俺は作業台に置いた数珠を見やった。

切れていた紐も直り、房も艶やかに蘇っている。

どう見ても完成品だ。だが――

「さすがに出来上がりが早すぎるよな……」

《はい。通常、数珠の修理は一ヶ月程度かかるのが一般的です。二日で完成では、むしろ不自然と受け取られる可能性があります》

「でもさ、これは“仕事道具”だろ? 持ち主からすれば一日でも早く戻ってきた方が助かるに決まってる。それに……ここで預かってるのも正直怖いんだよな。万が一、変な反応でもしたら困るし」

《……確かに迅速対応は利点でもありますね。二日間、徹夜で仕上げたと言えば、不可能な時間設定ではありません》

「おい待て。なんで俺が徹夜前提なんだよ。……いや、待てよ? 俺ってそんなに徹夜感あるか?」

《太郎さんは社畜耐性が限界突破しているので、自覚が無いだけです》

「言い方ぁ!! ……まぁ、気にしたら負けか。玲子ママも、早すぎて苦情ってことはないだろ。むしろ喜ぶはずだ」

俺は肩をすくめ、ひと息ついた。

「とりあえず今日はいつもの修理やって、明日連絡するか」

決めてしまえば気は楽になる。

作業台のランプを点け、いつものブランド品修理に手をつけた。

翌日の昼時。

俺は新品のスマホを手に取り、深呼吸して発信ボタンを押した。

《通話開始。……かみはら修理店です。依頼の品が完成しました。受け取り方法はどうされますか?》

『えっ!? もぅ終わったの?! 今から取りに行くわぁ!』

電話越しの勢いに、俺は思わず肩をすくめる。

「……早っ」

《予想以上の反応速度です。到着まで一時間程度とのことですので、準備を》

一時間後。

インターホンが鳴り、俺は偽装した姿で玄関へ出た。

「いらっしゃい。これが完成品だから確認してくれ」

作業場のカウンターに置かれた数珠。

玲子ママが手を伸ばした瞬間――その細い指先から、ほんのり魔力が数珠に流れ込んでいくのが分かった。

「……すごいわね。やっぱり、貴方に依頼して正解だったわ」

「どういうことだ?」

「紐を通しただけじゃ、霊具としての力は戻らないのよ。これは、力の流れまで繋いである。だから――貴方、“見えてる”んでしょう?」

「ッ……!」

《動揺が表情に出ています。平静を装ってください》

内心冷や汗が垂れる。だがママはにやりと笑うだけだった。

「でも安心して。あたしとしては、他には無い修理屋さんを見つけて大喜びよ! それに、この業界には暗黙のルールがあるの。お互い、詮索はしない――それが一番の安全策だからね」

「……そうか」

肩の力が抜ける。

だが次の瞬間、別の冷や汗が背中を伝った。

「そういえば値段の話をしていなかったな。すまん」

「あら、そんなに畏まらないでぇ。でも、100万とか言われても払えないわよ?」

「ひゃ、100万!? 高すぎるだろ。……2万でどうだ?」

《安すぎます。太郎さん、自分の価値をもっと認識すべきです》

「……はっ? 2万ですって!? 安すぎるわよ!! 20万払うわ。霊具をここまで完璧に直せる人なんて他に居ないし、前より良くなるなんて聞いたことないもの。これでも安いぐらいよ!」

「そ、そんなに貰えるわけないだろ……」

《交渉決裂の危険性あり。強気に出るべきです》

「安売りしちゃダメよ! 価値のあるものは、ちゃんと適正価格を受け取ってほしいの」

「……それでも20万は高すぎる。じゃあ……5万でいい」

「どうしても受け取る気ないのねぇ。でも10万は受け取ってもらうわ。これで決まり!」

「……はぁ。引く気は無さそうだな。分かったよ、10万いただく」

《実質的に大勝利です。太郎さんは負けた気分でしょうが》

「そうそう、それでいいのよっ」

玲子ママは楽しそうに財布を取り出し、綺麗に折り目のついた札束を差し出してきた。

俺は受け取りながら、重さに再びため息をつく。

「……スナックの名刺、置いていってくれるか。いつか寄るかもしれん」

「ほんとっ!? 貴方なら大歓迎よ! いつでも来てねぇ♡」

艶っぽく笑って、ママは軽い足取りで帰っていった。

残された俺はカウンターに突っ伏す。

手元の札束を見つめながら呻いた。

「……俺、またとんでもない方向に広げちゃってるよな」

《ええ。ですが“偽装は見抜かれていない”ことが確認できました。来客対応の実績もできましたし、今後も大丈夫でしょう》

「……まぁ、それだけでも収穫か」

少しだけ安堵して、深く息を吐いた。