軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第114話 数珠修理とカラス修行

修理に取りかかる前に、俺はスマホを取り出して、小鳥遊に電話をかけた。

「おい小鳥遊。この前の依頼人のことなんだけど……お前、“女性のお客さん”って言ってただろ?」

『え? ああ……玲子ママのことですか?』

「そう。実際に会ったら……なんか、俺の想像してたのとだいぶ違ったんだが」

『あー……そうですよね。あの人、見た目は完全に綺麗なお姉さんなんですけど、よく見ると肩とか腕とかゴツいんですよ』

「……それ、最初から言っとけよ」

『いやぁ、なんか説明すると余計ややこしいかなって思って……常連さんもみんな“ママ”って呼んでるんで、僕もつい“女性”って言っちゃったんです』

「お前な……俺が勘違いしたまま会っちまっただろうが」

《情報の齟齬はリスク要因です。次からは正確な表現を心がけていただきたいですね》

『す、すみません! でも悪い人じゃないんで! 本当に世話好きで、困ってる人を放っとかないタイプですから!』

「……まぁ確かに憎めない感じはあったけどな」

通話を切り、俺は深くため息をついた。

とりあえず、小鳥遊が悪気なく“女性”って言ったことはわかった。

確かに玲子ママは一見すると美人の姉御にしか見えなかったし、常連たちも揃って“ママ”って呼んでるんだろう。

「……まぁいい。問題は、預かったコイツだ」

机の上に置いたのは、年季の入った数珠。

玉は揃っているが艶が抜け、紐はぷっつりと切れている。

このままじゃ依頼通り“仕事道具”としては使い物にならない。

「……紐と房の色は今のまま変えられないって話だったな。なら、新しくつけ直さなくてもリペアで修復してやれば大丈夫だ」

その時、影が揺れ、カラスが姿を現した。

『それだけでは霊具としては直らんぞ』

「どういうことだ?」

『力の流れを繋いでやらんといかん』

「いやいや、数珠って仏の領分だろ? カラス、お前の管轄じゃないんじゃないのか?」

『力の元は同じよ。お主が“魔力”と呼んでおるだけのこと』

「あー、なるほど。そういう解釈なら分かりやすいな。神とか仏とか、あんまり区別しなくていいってことか」

『ただし元が同じでも、そこからどう変化しているかは違う。だから同調させることが大事になるんじゃ。さぁ修行じゃぞ』

「……なんで急にやる気満々なんだよ! まぁいい、とりあえず形を直すとこからだな。リク、念珠を通す順番をナビしてくれ」

《はい。一本目は主珠から通してください》

言われるままに糸を通そうとするが、中糸が切れているからなかなかうまくいかない。

『糸にお主の力を馴染ませて動かしてみい。酒に力を馴染ませた時と同じ感覚でやれ』

「酒は魔力が無かったから馴染ませやすかったけど……これは別の力が混じってて難しいな」

何度も試すうちに、少しずつ感覚が掴めてきた。

だが動かすとなると、指先だけじゃなく神経全体を酷使するような疲労感が襲う。

「……ふぅ。なんとか動かせるようになってきたな」

『ほぅ、できるようになってきたか。(相変わらず覚えの早さには驚かされるわ)』

「これ、めっちゃ神経使うな……。極めたら糸使いの達人とかになれるんじゃ? ははっ」

《念動で糸を固定すれば、魔力を通さなくても修復可能ですが》

「おいリク! それを先に言え!! カラス、無駄に難しいことさせるなよ!!」

『修行じゃ。気付かぬお主が悪い。カカカッ』

「はぁ……まぁ、できるようになって損はないけどな。よし、リク。これで順番合ってるか? 問題なければリペアで糸を繋ぐぞ」

《確認しました。糸の繊維を意識してリペアを発動してください》

机の上に置いた念珠へ、俺はゆっくりと手をかざす。

「リペア」

切れた糸がスッと繋がり、ほつれもなめらかに馴染んでいく。

続けて全体に「クリーン」を発動し、長年の汚れや埃を取り除く。

中糸と房にもう一度リペアをかけると、くすんでいた色が新品のように鮮やかに蘇った。

玉は――床の鏡面仕上げをイメージして、リペアを細かくかけていく。

小傷を消しながら磨き上げていくと、ひとつひとつの玉が内側から光を放つように艶を取り戻していった。

ただし集中力はかなり要る。指先から汗が滲む。

『これで形は完成したな。だが霊具としての要はここからじゃ』

「カラス……」

『先ほどやったように糸に力を通していけ。念珠の力と糸の力を順番に馴染ませ、最後に房の部分で端と端を繋げてやればよい』

「結局、糸に魔力を通す技術は必要だったってことか……」

呼吸を整え、ひと玉ずつ力を馴染ませていく。

最後の房まで繋がった瞬間――念珠全体に、すうっと透き通るような流れが走った。

《魔力の流れも滞りなく循環しています。修理完了です》

「……よし! カラスもリクもありがとな!!」

達成感に思わず笑みがこぼれる。

気づけば、ニワトリの気配を感知する時間になっていた。

俺はいつもの日課を済ませると、久々のショートスリープで意識を手放した。