軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第113話 初来客とスナックのママ

テーブルの上に置いた新品のスマホが、ブルッと震えた。

甲高い着信音が秘密基地に響き渡る。

《……はい、かみはら修理店です》

俺は固唾を呑んで横から画面を見守る。

次の瞬間、スピーカー越しに妙に艶っぽい声が響いてきた。

『あらぁ、繋がったのね。あたし、スナック月光のママをしてる玲子っていうの。小鳥遊くんから聞いたのよ』

……声、低めで色っぽい。

なんか妙に押しが強い。

《ご用件をどうぞ》

『ちょっとね、お祓いの仕事もしてて。お客さんの紹介とかで除霊なんかやるのよ。で、その仕事道具にしてる数珠が切れちゃって……直せないかしら?』

数珠。ガチの仕事道具じゃねぇか。

(おいおい、初依頼がいきなりそんな代物かよ)

《修理品は原則、郵送での受付となります》

『いやぁねぇ、それは困るのよ。これは命綱みたいなものだし、郵送じゃ心配で。だから自分で持っていきたいの』

《……原則としては――》

『ほんとにお願いよぉ♡ 小鳥遊くんが“大丈夫だ”って太鼓判押してたんだから』

ぐいぐい来る。

スピーカー越しにすら距離感が近い。

《……承知しました。直接お持ち込みください。住所をお伝えします》

通話が切れたあと、俺は両手で顔を覆った。

「……今の人、絶対キャラ濃いよな」

《到着は一時間後とのことです。準備を整えてください》

俺は仕方なく立ち上がる。

外観は既に「少しボロい社宅」に偽装済み。受け渡しは作業場に作ったカウンターで問題ないだろう。

《太郎さんご自身も偽装をお願いします。顔バレ防止のために》

「……そうだな」

鏡を前に立ち、深呼吸。

魔力を巡らせ、顔と髪型をイメージする。

――現れたのは、短い白髪で渋みを帯びた50代。無口そうなナイスミドル。

「……おお。なんか修理屋歴40年みたいな雰囲気出てるな」

ぎこちない表情筋に苦笑しながら、何度か顔を動かして練習した。

魔力濃度も榊が頑張ってくれてるから大丈夫だな。

まぁ、これならなんとかなるだろう。

《来ました。玄関へどうぞ》

インターホンの音と共に、外へ出る。

そこに立っていたのは、シックな黒のワンピースに、艶やかな黒髪ロングの女性……かと思いきや。

よく見ると、肩や腕のラインが妙に引き締まっている。

体幹の通った細マッチョ。

でも雰囲気は完全に“夜のママ”。

《骨格・筋肉のつき方から推定して、男性です》

(……やっぱりか!! いや、まぁ声で薄々気づいてたけどさ)

「あらぁ、いい男じゃない♡ あなたが噂の修理屋さん?」

「……そうだ」

低めの声で抑えめに答える。

内心は「予想外すぎる!」で頭がいっぱいだが、表には出さない。

「あらやだ♡ 白髪の感じが渋くて素敵! 昔の刑事ドラマに出てきそうだわ!」

(……やめろ、その褒め方は表情筋が耐えられない……!)

無表情を必死に保ち、顔が引きつるのを全力でこらえた。

「ふふ、建物も外観と中のギャップがあって雰囲気あるじゃない。さすが修理屋って感じね」

《偽装はバレていないようです》

(……ほんとに大丈夫か、これ)

ママは懐から年季の入った数珠を取り出した。

玉は揃っているが艶が抜け、紐が途中でぷっつり切れている。

「これはね、あたしの大事な仕事道具。切れたままじゃお祓いができなくて困ってるの」

俺は手に取って軽く魔力を流し込む。

確かに淡い反応がある。リクの念話がすぐに飛んできた。

《魔力反応は安定しています。磨き直しと紐の通し替えで十分でしょう。房も交換が必要か確認してください》

「……玉の数は欠けてないな。磨けばまだまだ使える。紐は通し直すとして――色はどうする? 房も換えるか?」

「ええ、お願いできる? 房は紫で。紐は黒がいいわ。宗派に合わせてるから、変えちゃうと落ち着かないのよ」

「了解。磨きは光沢仕上げでいいか? マットだと落ち着きすぎる」

「そうね、光沢でお願い♡ 夜のお店はライト当たるから、ピカッと映えたほうが縁起もいいのよ」

「了解。磨き直して艶を戻して、紐は黒、房は紫で交換。それで仕上げる」

「助かるわぁ♡ もちろん代金はちゃんと払うわよ。……それより今度飲みに来ない?」

「……仕事があるからな」

「ツレないわねぇ♡ でも言っとくけど、スナック月光は夜八時からやってるの。初回はサービスしてあげるわよ?」

《宣伝が入りました》

玲子ママは楽しそうに笑い、軽い足取りで帰っていった。

残された俺はぐったり腰を下ろす。

新品のスマホをちらりと見やり、一息。

「……まぁ、とりあえず偽装が見抜かれてないってわかっただけでも収穫か」

《はい。これで来客対応の基盤は整いました》

「……なんか方向性はおかしいけどな」

それでも少しだけ肩の力が抜けた。

これなら“修理屋”としては、まだやっていけそうだ。