作品タイトル不明
第116話 スナック月光で聞いた“相場の裏事情”
玲子ママが帰った後、リビングのソファに沈み込んだ。
ふぅ……やれやれ。偽装のことばかり考えていて、値段を決めるのをすっかり忘れていたな。
「リク、仏具店での数珠の修理代ってどのくらいなんだ?」
《検索中……。念珠の補充がなく、中通し紐と房の交換のみなら五千円〜一万円程度が一般的です。素材を高級品にする場合は加算されます》
「やっぱりそんなもんか……。だったら二万くらいが妥当だろ?
なのに十万も貰っちまった。……どう考えても受け取りすぎじゃないか?」
《ですが、太郎さん。今回の修理には“魔力処理”が含まれています。普通の仏具修理と同列で考えるのは無理があるのでは?》
「……そうは言うけどなぁ。かみはら修理店が“ぼったくり”って噂されるのは嫌なんだよ」
《web検索を継続……。“霊具 魔法処理”で検索開始。──結果:『G◯美神 極楽大作戦!!』がヒットしました》
「おいぃ! そんなところでぶっ込んでくるなよ! 昔読んでたけどさ!!」
《該当する情報が乏しいため、現実の相場は不明です。ただし料金の大半が魔法処理の費用と推定され、修理者の能力値によって価格が大きく変動すると思われます》
「……だよな。結局は修理人の力量次第ってことか。
でも下手に安く請けすぎても市場を荒らして目をつけられるよな……」
《リスク回避のために、能力者関係からの依頼受付はお断りしますか? それとも玲子様からさらにお話を伺いますか?》
「悩むなぁ……。もう片足踏み込んじまった以上引くに引けないし、暗黙のルールがどこまで適用されるかも気になるし。
しかも十万も貰っちまったから、せめてボトルくらい入れに顔出した方がいい気もするんだよ」
《十万円は修理の報酬です。スナックで消費する必要はありません》
「いや、そうなんだけどさ……これは会社勤めの習慣かな?
“付き合いは大事にしとけ”って教わってきたからな」
《社畜耐性が発動しています》
「なんでだよ!!」
《社畜耐性が限界突破しました》
「だからなんでだよっ!!」
結局、俺は頭を抱えたまま、スナックに行くかどうか悩みながら修理作業を開始するのであった。
結局、次の日の夜にスナック月光へ行くことにした。
一応、開店間際の客が少ない時間を狙った。
ドアベルが軽やかに鳴る。
「いらっしゃーい。あらぁ、こんなすぐ来てくれるなんて嬉しいわぁ♡ こっちへどうぞー」
時間が早いこともあってか、玲子ママひとりで店に立っていた。
カウンターに案内され、飲み物を聞かれたので焼酎のボトルを入れる。
「もぅ気なんて使わなくていいのに。惚れちゃうわよぉ」
「ま、まぁ俺もある意味、初めてのお客さんだったしな。一人でやってるのか?」
「まだ時間が早いからよ。あと一時間もしたらバイトの子が来るわよ。やっぱり若い子のほうがいいのかしらぁ?」
「いや、そういうわけじゃない。……ちょうど聞きたいこともあったんだ」
「ってことは、そっちの仕事のことね。手取り足取り教えてあげるわっ♡」
「それだけはやめてくれ。……恥を忍んで聞きたいんだが、相場が全く分からないんだ」
「スリーサイズは上から……ヒミツよぉ。って冗談は置いといて、相場ねぇ。人によって全然違うのよ。あたしの場合なら、除霊が一律五万円。自分が対応できないやつは最初から断ってるわ」
「もっと高いのかと思ってたよ。でもその値段設定なら、数珠の修理代金で二十万出すって高くないのか?」
「安いぐらいよ。失敗したら全部自分に降りかかってくるのよ? 自分の身を守るためなら惜しまないわ。そもそも数珠なんかは、消耗品扱いする人も結構いるの。壊れたら買い替えて、また一から力を馴染ませていくわけ」
「それ、暗黙のルールに引っかからないのか?」
「これくらいなら大丈夫よ。ルールに引っかかるのは“どうやって力を使ってるか”って部分。そこは絶対に詮索しない」
《太郎さん、玲子様の言葉を信じるなら“修理の技術”は黙っていても問題なさそうです》
「……そうか」
「それとね、霊具の修理ができる所は聞いたことあるけど、評判は良くないわ。人によって力が違うから、調整が難しいの。みんな自分の道具は自分で修理するか、買い替えるほうが多いわね」
「なら、なんでうちに修理を依頼した?」
「紐通しと房の交換くらいなら、力が無くてもできるでしょう? でも一番の理由はやっぱり“招き猫”ね。見え方が全然違ってたからよ」
「……見え方、は聞かないほうがいいんだな。詮索は厳禁」
「そうそう。力に関しては詮索しない。――で、相場の話に戻るけど、正直こっちの世界の相場なんて、あってないようなもの。要は“言い値”なのよ。占いだって一時間三万円でも“よく当たるから納得して払う”みたいなものでしょう?」
「なるほど。それなら分かりやすい」
「でしょう。それで修理の話ね。貴方が修理してくれた数珠に力を流した時、“前より良くなってる”ように感じたのよ。だから二十万でも安いと思ったの」
《玲子様の評価により、太郎さんの修理は既に“特別”な位置づけになっています》
「……それは悪いことをしたな。でも今更、受け取るつもりはないぞ」
「分かってるわよぉ。そうねぇ、あたし達みたいな霊能者相手なら、単純に“普通の相場の十倍から二十倍”くらいにしておけばいいんじゃない? それを高いと思う人は、痛い目を見て学ぶのよ」
「結構過激なこと言うんだな。……参考にしてみるよ。ありがとう」
「きゃー、デレてくれたの? 嬉しい♡」
そこへドアベルがもう一度鳴った。
「おはよーございまーす。……ってママがこんな早くから連れ込んでるー!? はじめましてー!」
「萌ちゃん早いわねぇ。今日はもうちょっとゆっくりでよかったのにぃ」
(バイトの子は……普通に女の子なんだな)
その後は軽く飲んで、俺は帰路についた。