軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

70.道案内

ダガーの妹がびっくりしたまま俺達を見つめている。

さて、どう説明するべきかと頭を悩ませている、横からヘカテーが平然とした様子で、助け船をだしてくれた。

「具体的にはいえないのだけど、今、とあるやんごとなきお方が病に伏せておられます」

そう話すヘカテーは、意味深に深刻そうな表情で、かつ押し殺した声で言った。

「やんごとなきお方……はっ」

ダガーの妹は目を瞠った。

「も、もしかして……大聖女様が!?」

「ああいや、そうじゃなくて――」

「それを私達の口からは言えません」

俺の言葉を、ヘカテーが途中で遮った。

表情は意味深に深刻そうなままだ。

するとダガーの妹は更に勘違いした。

「そ、そうよね。大聖女様はそんなことになってるなんて言えないですよね」

「えっと……」

「……」

俺は困ってヘカテーを見た。

ヘカテーは平然と俺を見つめ返し、小さく頷いた。

その表情を見て、「そういうことにしておこう」――というのが分かった。

実際、それは効いた。

ダガーの妹の表情に、直前まで残っていたわずかな警戒の色が跡形もなく消えて無くなった。

「そのお方にはダガー先生のお力がいるの」

「う、うん。そうよね、お姉ちゃん以外いないよね」

「だから、先生の居場所を教えてくれないかしら」

「えっと……それが……」

警戒は跡形もなく消え去ったが、代わりに申し訳なさそうな表情を浮かべる彼女。

「どうしたの?」

「お姉ちゃん……どこにいるのか分からないんです」

「わからない?」

俺とヘカテーは互いの顔をみた。

「はい、いつものように病人を探す旅に出ているんです。そういう時はどこにいるのかまったくわからなくて」

「病人を探す旅?」

おうむ返しにしながら、ヘカテーを見る。

ダガーの事を教えてくれたのはヘカテーだから、「この話を知ってる?」的な目で彼女を見たが、彼女は小さく首を振った。

俺はダガーの妹に視線を戻す。

「どういうことなの? 病人を探す旅って」

「お姉ちゃんはよく言ってるんです、医者は経験だって」

「経験……」

経験という……言葉は、俺の胸を強く打った。

俺は知識を強く求めているけど、なんかそれと同じような匂いがする言葉だった。

「いろんな所で、いろんな病気の病人をさがして、治して。それで経験を積んでいって、どんな病気でも治せる医者になる――っていつも言ってます」

「それで病人をさがす旅なのね」

ヘカテーは小さく頷いて、得心顔をした。

普通とはやってる事がちがう医者だったが、言ってることは納得できる内容だった。

「じゃあ、今どこにいるのかもわからない?」

ダガーの妹に聞いた、彼女は申し訳なさそうに首を振った。

「はい……」

「いつ戻ってくるのかも?」

「お姉ちゃん、気まぐれだから……」

シュン、と小さくなってしまう彼女。

彼女の申し訳なさそうな顔を見て、俺もヘカテーも困り果ててしまった。

帰り道の馬車の中、ヘカテーとの二人っきり。

「参ったね」

「……わたくしにお任せ下さい」

馬車にのった時からずっと思案顔をしていたヘカテーがそんなことをいいだした。

「何か当てがあるのかい?」

「今の話が本当であれば、足跡がくっきりと残っているはずです」

「足跡」

俺はおうむ返しにヘカテーの言ったことを繰り返しつつ、彼女を見つめ返した。

「腕のいい流れの医者ということになります。よそ者がぶらりとやってきては治療をして去っていく……そんな事が噂にならないはずがございません」

「……確かに」

俺はダガーのやっていることを想像してみた。

行く先々で噂になったり、感謝されたり――がめつい医者なら毀誉褒貶相半ばだったり。

そういう感じになってるのが簡単に想像できる。

「ですので、各地の教会にそういった目撃例を報告させれば足取りを掴むのは容易かと思います」

「そっか、大聖女ならそれができるもんね」

「そういう事ですので、許可を頂ければ」

「うん、おねがい」

「はい」

ヘカテーは頷き、顔がやる気に満ちた。

身を乗り出して御者に何か一言二言ささやいた後、自分は馬車から飛び降りた。

「ヘカテー!?」

窓から顔をだして、ヘカテーを見る。

彼女は立ち止まって、俺と馬車を見送った。

「お先に失礼します」

そう言って、俺にぺこりと一礼して、身を翻して立ち去った。

「……ああ、一刻も惜しいってことか」

少し考えて、ヘカテーの行動を理解した。

このまま馬車にのってかえるまでの時間もおしくて、ダガーを探すために急いで動いてくれたってことだ。

それはいいんだけど。

「俺だけが馬車にのっててもな……」

俺は馬車の中で微苦笑した。

必要ないのだ、俺には。

俺には「帰るための 足(、) 」というものは必要ない。

帰るということは「一回行ったことのあるところにまた行く」ということだから、水ワープでどうとでもなる。

ヘカテーも落ち着いて考えたらそれがすぐに分かったはずで。

それでも見落とした理由は「俺のため」ということだろうから。

その気持ちが、素直に嬉しかった。

「申し訳ございません……」

翌日、屋敷を訪ねてきたヘカテーは沈んだ様子で謝ってきた。

「見つからないの?」

「足取りがあまりにも少なすぎるのです」

「足取りがすくない?」

「はい。我々はそこそこの街には必ず教会を置いてます」

「うん」

俺は小さく頷いた。

ルイザン教の教会は本当にどこにでもある。

飯屋とか酒場とか、そういうのがない小さな村でも教会だけがある事が多い。

「それらにダガー先生の足取りを報告させたのですが、二件しか上がってきませんでした」

「二件しか?」

「はい、どちらもかなりの難病で……どうやら通常の病気やケガには目もくれず、難病の患者にだけ治療をしているそうです」

「そうなんだ」

「あまりにも数が少なすぎるため、足取りを掴むのは不可能でした」

俺は重々しく頷いた。

もともと俺とヘカテーが想像していたのは、ダガーがあっちこっちで病人を治して回っていたという光景だ。

噂で十や二十のケースがあれば、それを地図の上に並べていけばダガーが辿った 足跡(そくせき) が見えてくる――というものだ。

それが、ふたを開けてみれば難病人でたったの二例だった。

二例しかないのでは足跡も傾向もあったものじゃない。

「いずれも現地の医者が匙を投げたほどの難病であったようなので、腕は間違いないのですが……」

「名医なのは間違いないってことか……」

俺がつぶやき、ヘカテーは重々しく頷いた。

どんな名医だろうと見つからないんじゃしょうがないのだ。

「倒れたのが皇帝でさえなければ……」

「うん? どういう事なの?」

「例えばわたくしでしたら」

ヘカテーは居住まいを正し、まっすぐ俺を見つめてきながら答えた。

「ルイザン教の大聖女が病に倒れた、そういう噂を流せば向こうからやってくるでしょう」

「そっか、ダガー先生は難病を治療するという経験が欲しいんだ」

俺が察し、言葉にして言うと、ヘカテーは頷いたがますます難しい表情をした。

「しかし、皇帝が倒れたことは機密中の機密、噂で流しておびき寄せるという事はできません」

「そっか……」

どうすればいいのか。

人捜しなんて、今までやったことはほとんどないからなあ。

宝探しならあるけど――。

「……あっ」

「どうしたのですか神」

「もしかしたら……いけるかもしれない」

俺はヘカテーを庭に連れ出して、その場でオノドリムを呼び出した。

どこからともなく現われた若い女。

帝国の守護精霊、大地の精霊オノドリムだ。

オノドリムは、俺の召喚に応じてくれた形でやってきた。

「急にあたしのことを呼び出したりして、どうしたの?」

オノドリムは「大地の精霊」に似つかわしくない、まるで隣家の幼なじみのような気安さできいてきた。

「ちょっと聞きたいんだけど。オノドリムは前に埋蔵金の有りかを教えてくれたんだよね」

「うん。あっ、またお金が必要になった? 大丈夫まだまだあるから、ここから一番近くにあるのはね――」

「ううん、そうじゃないんだ」

俺は微苦笑した。

前回、オノドリムが教えてくれた「持ち主がいなくなった埋蔵金」はかなりの額だった。

そこそこの大商人でも稼ぐのに苦労する額だ。

それほどの額の話にもかかわらず、オノドリムは「まだあるよー」な、気安い感じで言ってきた。

「え? じゃあなに?」

「あれってものだよね。オノドリムは大地に埋まっているものは何でも分かるみたいな事をいってたよね」

「うん。なんでも分かるよ。大地にあるものなら」

「人って、わかる?」

「人?」

「――!?」

俺の横で、それまで黙って聞いていたヘカテーがハッと息を飲んだ。

俺は彼女の方をちらっと見て、「そういうこと」と微笑みを向けた。

そして再びオノドリムに向き直って、更に聞く。

「うん、探してる人がいるんだけど。それも分かるかなって」

「分かるよ」

「本当に!?」

「海の中に住んでるとかだったら無理だけど。ずっと陸の上にいる人間だったらどこからどこに行ったのかわかるよ」

「!!」

俺は瞠目して、ぱっとヘカテーを向いた。

「このような形で見つけられるとは」

ヘカテーの顔から、驚嘆の色がみえていた。