軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

55.大聖女の図書館

「ほう、全ての権力を」

「はい。大聖女とは神の代行者。世界の全ては神の持ち物であるが、人間が知覚できる部分を管理・執行する代行者が大聖女です」

「なるほど、そこにある権力という訳じゃな」

得心顔をするじいさんに、頷くヘカテー。

「しかし、それでは意味がありません。神から預かった物を別の人間に譲渡するのはいいのですが、その相手が神では……」

「よいではないか」

「え?」

「マテオは神ではないからのう」

じいさんはニヤニヤ顔でいった。

誰がみても、額面通りの言葉ではないぞと分かる発言だ。

どういうことだ?

しばらくして、ヘカテーがハッとした。

「……神は今、文字通り二つの顔を持っている」

「そうじゃ。海神? とマテオの二つの顔」

うん、物理的に二つの顔を持ってるな。

「マテオの方はわしの孫じゃ、聡明怜悧才気煥発じゃが人間・貴族の孫じゃ。そのマテオに与えられるだけ与えればよい」

「たしかに!」

「老人はな、あの世に何も持ってはいけんのじゃ。一生涯かけて積み上げてきた物は多くあるだろうが、何も持っていけぬ。おぬしもわしも、財産、というくくりでは山ほどのものがあるじゃろ?」

「ええ」

「あの世に持って行けぬ、さりとて、この歳になれば物欲もかれて他に使い道もない」

「……だから、孫につかう」

「分かってきたではないか」

じいさんはにやりと笑った。

「まあ、老人同士、行き着く先は一緒じゃ。知識が無かろうとも本質は一緒じゃ」

「おっしゃるとおりですね」

二人は見つめあって、ふっと笑い合った。

やり取りからでも分かる。

俺を抜きにしても、老人同士通じ合うところがあったようだ。

不意に、ヘカテーは俺の方をむいた。

「マテオ」

彼女は「神」ではなく、「マテオ」と呼んだ。

「『マテオ』は、何か欲しい物はありますか?」

「それなら……本だね」

権力をもらっても困るから、俺は無難な所――しかし間違いなく俺がちゃんと欲しい物を口にした。

「本、ですか?」

「うん」

「そうじゃな、マテオは本が大好きじゃ。わしも皇帝のこわっぱも定期的にマテオに本を送っているぞ」

「なるほど……神と使徒のあの能力はそこから来ていましたね」

ヘカテーは納得した。

使徒として、 神(俺) に祈りを捧げれば知識を 献上(、、) する形になってることを知っている分、その事をすごく納得した。

俺が本当に本が欲しいことを納得した。

「わかりました。本をたくさん集めますね、ルイザン教の信徒達をつかって」

「それはよい考えじゃ。国中にいる信徒を使えばあらゆる本が集まるじゃろうな」

確かに。

「あっ、でも無理矢理徴収はダメだよ。本って高いんだから、その人にとっての財産なんだから」

「それを神に献上――いえ、マテオにでしたね」

ヘカテーは気持ちうつむき、思案顔をした。

「分かりました、いい方法があります」

「いい方法?」

「はい。『マテオ』が本をたくさん手に入れられて、信徒達も本を失わず、幸せになれる方法を」

ヘカテーは真顔で言った。

嘘とか、誇張とか、そういうのは一切無く。

自分が思いついた方法に強く自信を持っているという感じだ。

俺がたくさん本を手に入れられて、その上信徒達も本を失わずに幸せになれる方法?

そんな一石三鳥的な、夢のような方法なんてありえるのか?

一週間後、俺は街の教会に来た。

ルイザン教の教会はあらゆる街にあって、以前は気にしていなかったが、俺の屋敷のある街にもそれが存在する。

それを、エヴァンジェリンと一緒にやってきた。

「すごく賑わってるねパパ」

「人前でパパはやめて」

「えー、いいじゃん。パパはパパなんだから」

俺は苦笑いした。

見た目は十五、六歳の美少女であるエヴァ、角と翼は服装でうまく隠している。

そんな年頃の美少女が、六歳児の俺を「パパ」と呼ぶのは色々と注目を集めてしまう。

呼び方とか人前での接し方とか、ヘカテーは言えば納得してその通りにしてくれるが、実年齢が一歳未満のエヴァは、その稚気も相まって結構聞き分けがない。

可愛いから、しょうがないって思えちゃうんだけど。

その事は言ってもどうしようもないから、俺は諦めて、教会を見た。

エヴァの言うとおり、ものすごく賑わっている。

「何をやってるんだろうね」

「なんだろうね」

俺たちは不思議に思い首をかしげ合った。

ヘカテーから説明はない。

無いが、ルイザン教の教会がちょっと急に活気づいたから、間違いなくヘカテーが何かをしたと思った俺はそれを見に来た。

そこに一人の中年男がやってきて、教会に入っていこうとした。

胸元にものすごく大事そうに何かを抱えていて、顔は興奮気味だ。

「ちょっと待っておじさん」

俺はその男を呼び止めた。

男は立ち止まって、興奮冷めやらぬ感じで俺を見た。

「どうした坊や」

「ここ、どうしたの? 普段よりもずっと賑やかだよね」

「しらないのか?」

「うん」

「大聖女様が『献書令』を出したんだ」

「けんしょれい?」

「そう、神様が降臨したから、その神様の名前を冠する、ありとあらゆる書物を揃えた大図書館を作るって」

「それって、本を差し出せって事?」

「ふふん、それが違うんだな」

男は得意げに否定した。

ここで「得意げ」に「否定する」事に俺は首をかしげた。

「本をな、書き写して差し出すんだよ」

「書き写して?」

「そう。ただ持っている本を献上するだけなら誰でもできる、金さえ持っていればな。そうじゃなくて、持っている本を書き写して差し出すんだ。より正確に書き写せる信心が、神様に伝わるって訳だ」

「あっ……そうなんだ」

「さすが大聖女様、さすが神様だよな。貴族とか成金どもとかじゃなくて、俺達庶民の信心もみとめてもらえるチャンスを下さるんだから。本を書き写すための道具とか紙とか全部用意してくれるし、最高だぜ」

男はそう言って、得意げで興奮した表情のまま、教会の中に入っていった。

それを見送った俺は感心していた。

「すごいね姉さん、ナイスアイデアだよ」

「うん。すごいよね。さすが大聖女様だ」

俺もエヴァも納得し、感心した。

ヘカテーのそのお触れは、下手に本を差し出せという物よりも、遙かに多くの本が集まりそうだ。

人間は、自分の努力を認めてほしいものだ。

そして、その努力が「可能だと思える」ものならば、よりやる気が出せるというもの。

一冊の本を、一つのミスもなく完全に書き写す。

不可能じゃない、全身全霊を込めれば可能なレベルの話。

それが、この盛況に繋がっているんだ。

「この調子だと、ものすごく集まるね、パパ」

「うん」

一体何冊の本が集まるんだろうか、と。

俺は今から、ものすごくわくわくするのだった。