軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

237.聞き取り調査

「説明の前に、まずは一度お試しを――実地で同じことを体験して頂く方が結果的にわかりやすいかと存じます」

「そうなんだ、うん、分かった」

それじゃあどうする? と、改めてノワールに聞く。

「この屋敷のメイド――そうですね、例えばローラの本日の一日の行動を、本人以外から聞き取りをしていただけますでしょうか」

「うん、わかった」

正直何も分からない。

ノワールが何を思って俺にそうさせようとしているのかがまったく分からない。

が、そもそも俺が知らない、思いつかなかった事を教えてくれようとしているんだ。だったら分からないのは当然のこと。

そしてノワールは「まずはお試し」とも言った。

ならばあれこれ聞くよりもまずは一回やってみようと思った。

「ノワールが一緒がいい? それとも僕一人で?」

「ご一緒させて頂きますが、わたくしはあくまで傍観させて頂きます」

「わかった」

俺は頷き、立ち上がった。

膝にのっているエクリプスを抱きかかえて部屋をでた。

部屋にでて、とにかく片っ端からメイド達を捕まえては、今日のローラの行動をきいた。

メイド本人を呼ぶんじゃなくて、今日一日の行動を聞く。

まるで何か事件が起きたときのアリバイ確認のような行動だったから、メイド達が嫌気をさしたり困ったりするかもしれないと思ったが。

意外や意外、全員が快く教えてくれた。

「ご主人様の人徳があればこそです」

「そうなのかな」

俺の困惑がにじみ出ていたのか、それを読み取ったノワールがニコニコ顔でそう話す。

それもまた困惑の一因となった。

そうして、ざっくり十人くらいのメイドにきくと、ローラの一日の行動がある程度詳細に把握出来た。

そこでいったん、ノワールと一緒にまた部屋に戻ってきた。

「聞いてきたけど、これをどうするの?」

「こちらをご覧下さい」

エクリプスを再び膝の上に載せて、ソファーに座る俺。

俺の前にあるローテーブルに、ノワールが一枚の紙をすぅ、と差しだしてきた。

それをとって、目を通す。

「これは……今聞いた来た話?」

「はい。書き留めさせていただきました」

「いつの間に?」

「執事のたしなみでございます」

すごいな、と素直におもった。

聞き込みをしている間も、ノワールはずっとついてきていて、俺の視界にちらちら入っている。

姿が見えていたけど、メモをしているようにはみえなかった。

が、今までのノワールの執事っぷりを見ていたら、主にくっついてこっそりとメモをとることなんて普通にやってのけるだろうなと驚きはなかった。

素直に感心だけした。

俺はメモに目を通す。

「ミーナ談、朝自分よりも早く起きて先に部屋にでた、昼過ぎに遅めの昼食をとっているところをみた。シィル談、早朝に新人メイドの指導をしていた。リン談、10時に応接間の掃除をしてた、30分後に書斎の掃除をしてた、更に30分後くらいに寝室の掃除をしてた、その一時間後に書庫の整理をしてた、その30分後に昼食にといったん別れた――」

メモを読みあげる。

全部見覚えがあるもの、メイド達から聞き出したものばかりだ。

聞いた人によっては知っていることのばらつきがあったり、重複したりしている。

それを十人も繰り返したもんだから、ローラの今日の行動が大体わかった。

「二人が言ってるから、今はお風呂の掃除を指揮してるみたいね」

「はいれす」

ふと、エクリプスが口を開く。

「エクリプス?」

「そのメイロなら、掃除をさぼって鏡れ二の 腕(うれ) のお肉をきにしてたれす」

「しってたの?」

「来る途中に 窓(まろ) れみえれたれす」

「そうなんだ」

へえ、と思った。

同時に掃除の最中、たぶん鏡でちょっとだけ自分の体が気になったというローラの姿が目に浮かんでちょっとおかしくて、クスッとなってしまった。

「さすがエクリプス様」

「ノワール?」

「今の一言はまさに画竜点睛の一言となりました」

「どういうことなの?」

「ご主人様がこうして十名のメイドから聞き取りをしていただきました」

「うん」

「他人の証言でも、数をこなせば、それが重なればどんどん詳細が詳しくなっていくものでございます」

「そうだね」

「そしてこれまた数をこなせばでございますが、思いがけない所から思いがけないような、鮮明な情景を想起させるような証言が得られます」

「そうだね」

俺は頷きつつ、エクリプスを撫でてあげた。

エクリプスは素直によろこんだ。

「もちろん、中には勘違いのものもありますが、これもやはり、数を増やせば明らかにこれは勘違いや見違いだというものもあります」

「うん」

「証言を集めれば集めるほど、 昔の話(、、、) の詳細を得られるものです」

「ナナとカナのもそうすればいいって?」

「はい」

「でも……古い話だし、当時そこにいた人が遠くに行っちゃったこともあるよ」

「ご主人様には他の誰も真似できない、大量の人間から知識が記憶を得るすべを持っておられます」

「……ルイザン教の祈り!」

ハッとした俺にノワールが静かにうなずく。

確かにそれなら――と思った。