軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

238.信者のルール

次の日、俺はヘカテーを訪ねた。

何度も来ているヘカテーの屋敷、その中庭。

ヘカテーが作ってくれた海神の水間ワープ用の噴水の所に飛んだ。

噴水のすぐ側に一人の男がひかえていた。

40代くらいの中年男で、それまで物静かに立っていたのが、俺の姿を見るなりビシッ! と背筋を伸ばして、こっちに向かってきた。

俺の目の前にやってくると、こっちが声をかけようと思ったのとほぼ同じタイミングで、男は俺に流れるような淀みない動きで跪いた。

「どうした? あなたはだれ?」

「お初にお目にかかります。大聖女様に下級使徒として取り立てていただきました、フューリー・レイジングと申します」

「あ、そうなんだ」

下級使徒というのは、有り体に言えば使徒のしもべみたいな感じの存在だ。

ヘカテー達は神の力をもつ俺が名前をつけて、その過程で力を得たりして俺の使徒になった。

使徒になった者達は、俺がやったのと同じようなこと、しかしちょっと規模が小さいというか劣化版というか、そういうことをやって下級使徒を作る事ができる。

下級使徒は使徒ほどじゃないが、それなりの超人的な力を与えられている。

元がルイザン教の大聖女であるヘカテーが信徒の中から下級使徒を作っているのはずっと聞いてたけど、実際に彼――フューリーとあうのは初めてだ。

「こんな所で何をしてたの?」

「大聖女様に命じられ、神の降臨を待っておりました」

「え? 僕が来るって分かっていたの?」

「はい、そうではありません」

「え?」

「いつご降臨されてもいいように、専属でここにつく光栄に浴しております」

「え? あ、そうなんだ」

つまり俺がいつ来るか分からないけど、いつ来ても良いように日夜ここに誰かを配置している、という訳か。

実にヘカテーらしいやり方だと、同時にちょっとやりすぎなんじゃ無いかと、そんな風に感じて俺はちょっとだけ微苦笑した。

「その仕事を任されてつらくない? それをしないで済むように僕からヘカテーに言ってあげようか?」

「はい、神。そのような事はございません」

「ん?」

さっきと同じように、俺はまたしても引っかかりを覚えた。

その引っかかりを少し考えて、理由を理解した。

そして答えてもらう途中だったけどフューリーに手の平をかざして言葉をとめた。

「ごめんなさい、ちょっと聞いていい?」

「なんなりと」

「さっきから返事するときに『はい』からはじめてない? 普通『いいえ』っていうような内容なのに……何かあるの?」

「はい、神。そうではありません」

聞いた側からまた同じような返事をされた。

普通は「いいえ~否定」の所を、フューリーは「はい~否定」のいい方をしている。

それには何があるのか? と不思議におもった。

俺の質問を、フューリーは真面目すぎるくらいの真顔で答える。

「神はお間違えにならない、神のお言葉を否定するなどもってのほか。同時に神の質問にはお答えしなければと思った次第でございます」

「えっと……」

ちょっと困った、あまりの言い分に困った。

つまり俺は神で、ルイザン教で大聖女ヘカテーから下級使徒に取り立てられるフューリーはかなり信仰心が強く、神の言葉は絶対に否定できない。

だから「はい」か「いいえ」がつくような返事は全部「はい」で答えてからその後に返事をする。

…………って、ことか?

今までに遭遇したことのないことだったから、その解釈が正しいのかもまったく分からない。

しかしまあ、それで何か不都合が起きるとも考えにくいから、スルーした方がいいと思った。

「それよりも、ヘカテーは屋敷にいる?」

「はい。ご案内いたしますか? それとも大聖女様を直接ここに?」

「じゃあ……案内をお願い」

「かしこまりました」

フューリーは深々と一礼して、足は前に、しかし体はひねって俺の方に向けて案内をする。

こっちは分かる。

ルイザン教の信者だけじゃなく、大きく「使用人」とくくられる人々達がよくやること。

前を歩いているが、体はこっちを向いているので「前にはいない」とするためのやり方だ。

俺はちょっと安心した。

さっきの「はい~」も本当の意味ではまだ理解し切れていないけど、きっとこれと同じような事なんだなと安心した。

そのままフューリーに案内されて、ヘカテーの書斎にやってきた。

ここでも俺は驚かされた。

なんと、フューリーはノックをする事なく、ドアを開けて中に入った。

ノックしなくてもいいのか!? と驚く俺をよそに、フューリーは体をずらしてあいたドアの入り口を開けた。

戸惑いつつも中に入ると、執務机に積み上げられた書類の中、小柄なヘカテーが埋もれているように何かを処理していた。

俺が中に入ると、その気配を察したのかヘカテーが口を開きつつ顔をあげる。

「失礼よ――」

顔を上げて、俺を見た瞬間ヘカテーはビクッとした、言葉を飲み込んだ。

そして俺の背後にいるフューリーに視線を向けて、小さく頷いた。

フューリーはそのまま退出して、ヘカテーは机をぐるっと半周しておれの前に進み出た。

「出迎えが遅くなり、誠に申し訳ありませんでした」

「えっと、うん」

ノックの事はまったくのなかったことにされた。

これってやっぱり、俺が神だからノックしなくてもいい……ってこと?

たまに来ると、俺を神と崇めるルイザン教では色々と、普段ないことを経験して――知識的ないみでとても興味深かった。