軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

231.無変換魔法

「ごめんなさいおばあ様、おじい様に呼ばれてるんだ」

「あら。そうね、早く行ってあげなさい、おやつはあとでもっていかせるわ」

「う、うん。そこそこでいいからね」

爺さんがもう一人増えたような、そんな感じがして俺は苦笑いした。

メリンダと別れて、爺さんが待っている応接間に向かって再び歩き出す。

今度は誰とも遭遇せずに、無事に爺さんが待つ応接間にはいった。

ノックして、中に入る。

「この気配! マテオー、よくきたのじゃー」

中からドタドタとせわしない足音が聞こえた直後に、爺さんがドアを開け放って現われた。

「おじい様。僕だって分かったの?」

「もちろんなのじゃ」

「……」

俺は唖然となった。

ノックをしただけなのに、爺さんはそれだけで俺だと確信したようだ。

「どうして分かったの?」

「気配でわかったのじゃ」

「気配なの?」

「うむ!」

爺さん……そんなに達人だったのか。

これも歴史が変わった影響か――。

「マテオの気配だからすぐにわかったのじゃ」

――というわけじゃなかったようだ。

俺だから分かる。

歴史は何も変わっていなかった、爺さんは爺さんのままだった。

「そ、それよりも。侯爵様がきてるんだよね。挨拶しなきゃ」

「おお、そうじゃったそうじゃった。うむ、さすがマテオ、あんなやつにも礼儀ただしく接する事ができるなんてえらいぞい」

「わしのアンナとレナもちゃんと挨拶できたじゃろうが」

部屋の中から抗議の言葉が飛んできた。

まるで目の前で言われたかのような大きくて「圧」を感じさせるこえだった。

「なにをーー」

「まあまあおじい様。挨拶をさせて、ね」

「う、うむ。そうじゃな」

反論をしようとした爺さんを押しとどめて、俺は応接間の中に入った。

部屋の中央、メインのテーブルでは一人の老人が座っていた。

以前にもあったことのある、爺さんの腐れ縁・悪友のウォルフ侯爵だ。

前にあったときから何一つ変わっていない矍鑠とした感じの老人だ。

俺は侯爵の前に立ち、作法に則って一礼した。

「こんにちは、侯爵様。お久しぶりです」

あまりやり過ぎるとまた褒められてしまうから、失礼にならない程度の作法を、年相応の言葉使いで挨拶した。

「うむ、久しぶりだな」

「侯爵様は相変わらずお元気そうですね」

「当然。先にくたばったらどこかのだれかがどや顔をするのが目に見えているからな。あいつにはじゃんけんでも負けてやらんわ」

「あはは」

俺は微苦笑した。

寿命や健康でも爺さんと張り合っているのがはっきりとわかった。

ここまで来ると本当に仲いいなあ――と、思ったけど言わない方がいいともおもった。

「あれ?」

ふと、視界に人影が入ってきた。

そっちを向くと、少し離れた所に設えた小さめのテーブルとソファーに一組の女の子たちが座っていた。

一組――そう一組だ。

見た目から判断するに12歳前後の女の子で、片方は白をベースにした黒フリルのドレス、もう片方は逆に黒をベースにした白フリルのドレスを着ている。

デザインも同じでまさしく双子コーデ――と思ったらちょっと驚いた。

双子コーデところじゃない、二人は顔がそっくりの、完全な双子の姉妹だった。

普通は双子といっても微妙にちょっと違ったりするもんだが、二人はこの距離でもまったく区別がつかないくらいよく似ている。

「紹介しよう、孫のナナとカナじゃ」

「あ、うん。はじめまして、ナナさん、それにカナさん。マテオっていいます」

みた感じ12歳くらいの女の子はつまり俺よりちょっと年上だという事だ。

俺はさらにもうちょっと砕けたもの、ぎりぎり敬語と呼べる程度の言葉使いで二人に挨拶して、自己紹介もした。

どっちがナナでどっちがカナなのかわからないが、二人はこっちに一瞥をくれたあと、微かにあごを引いただけで無言のままだ。

敵意は……なさそう。ただ無関心って感じだ。

にしても……これは「違う」な。

俺が爺さんから聞いている侯爵の孫とまったく違う。

そもそも二人じゃないはずだ。

これもやっぱり歴史が変わった結果なのかな……と、声にも表情にもださないようにがんばったが内心ちょっと苦々しく思った。

「ふん、無礼な子じゃ。それに比べてマテオはなんと礼儀正しいことか」

爺さんは悪態をつき、流れるように俺を褒めた。

「ふん、そんな事はどうでもいい。そんな事よりももっとすごいことがある」

「もっとすごいこと?」

「おう! ナナ、カナ。この分からず屋にみせてやりなさい」

豪快な武人のような返事から一変して、ウォルフは猫なで声で二人の孫娘に呼びかけた。

二人は無表情のまま立ち上がった。

まずは部屋の誰もいない方角に向き直って、そして手をつないだ――直後。

魔法が発動して、火の玉がとびだした。

シンプルな火の玉、もっとも初歩的な魔法。

しかしその発動速度が群を抜いていた。

「どうだ! すごいだろ! はやいだろ!」

「ぐぬぬぬぬ……」

侯爵がどやって、爺さんが悔しがった。

それもそのはず、二人の魔法発動速度は常人より遙かにはやくて、常識の三倍くらいはやかった。

「まさか……変換無しで!? あっ、だから黒と白のドレスなんだ!」

俺はハッとして、全てを理解した気分になった――のだが。

「「どういうことじゃ?」」

爺さんはもとより、何故か侯爵も驚いていた。