軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

230.おばあ様

次の日、俺は爺さんの屋敷に呼び出された。

珍しく爺さんが来るんじゃなくて俺が呼び出された。

昼頃に爺さんの使いの者がその連絡をもって来たから、その場で水間ワープをつかって爺さんの屋敷に飛んだ。

爺さんの屋敷の噴水に飛んで、屋敷に入ると爺さんのメイドと出くわした。

「こんにちは、おじい様はどこにいますか?」

「恐れ入ります、マテオ様。大旦那様は応接間にいらっしゃいます」

「応接間? という事はお客さまとお話し中? じゃあ待たせてもらおうかな」

「いえ、マテオ様がお見えになったらそのまま応接間にお通しするようにと言いつかっております」

「そうなんだ?」

これにはちょっと驚いた。

応接間にいる、と聞いて来客中だと当たり前の想像・判断をした。

それには使いの者が来た直後に水間ワープで飛んだから、つまり爺さんの予想より早くついた可能性があるから。

早く着いたから客はまだ帰っていない。

だからそれが終わるまで待つといったが、それはいいからすぐに来いと言われた。

「お客さまはいないの?」

「いいえ、ウォルフ侯爵とお孫さんたちが既にお見えです」

「あっ、そうなんだ」

なるほどと思った。

それは何度も聞いたことのある、片方に至っては実際に会った事のある相手だ。

ルース・ベル・ウォルフ。

侯爵であるウォルフ老人は爺さんの――まあ大の親友だと俺は思ってる。

爺さんはいつも愚痴ってたり対抗心を丸出しにしている、ウォルフ側もにたような感じだが、それも傍からは仲良くみえる二人だ。

そのウォルフ老人が来ているのか。

なんだろうなと思いつつ、メイドについて行く。

屋敷の中に入って、応接間にむかっていく。

「あら」

廊下の曲がり角から現われた貴婦人が俺を見つけて、笑顔でこっちに向かってきた。

メリンダ。

年齢はまだ20代の後半といった感じの落ち着いた女性だが、実は爺さんの妻だという。

ノワールの一件で過去改変の後遺症で、すこしだけ変わった過去の中に現われた女性だ。

向こうはどうやら俺の事を子供の頃から、爺さんが拾って屋敷に連れ帰ってきた頃から知っているらしいが、俺からすればちょっと前に現われた存在。

だからまだ、どう接していいのかいまいち計りかねている所がある。

「こんにちは、おばあ様」

とは言えそこは爺さんの妻、後妻だが正妻でもあるメリンダだ。

俺は立ち止まって、ちゃんと一礼して「おばあ様」と呼んだ。

「こんにちは。マテオはもうご飯は食べたの?」

「うん、食べたよ」

「じゃあ食後のデザートは?」

「えっと、それはまだ」

「なら丁度良かったわ。そこのあなた、今果物はどれだけあるのかしら。新鮮なもので」

「大旦那様の言いつけで常に7種類はすぐにお出しできるようになっております」

「すくないのね、季節が季節だからかしら。いいわ、全部出しなさい。それとこの前ガイランシェフが献上した焼き菓子のレシピもあったよね、それもすぐにつくって、焼きたてを出してあげなさい。そうだわ、まだまだアイスクリームがおいしい天気だからそれもね」

俺もちょっとだけ困った。

立場が人を作るとはこういうことなのか。

まだまだ二十代で若いはずなのに、メリンダが俺への接し方は完全に孫を甘やかす婆さんそのものだ。

なんでこう、爺さん婆さんって孫にとにかく食わせたがるんだろうな。

人によっては孫の「体積」以上の食べ物を出して、それでも「足りなかったら言ってね」とかいったりする。

俺も爺さん婆さんの歳になるとそうなるのかな、と何となく思った。

「わかった?」

「は、はい……」

一方で、メイドは応じつつも、困った顔をした。

明らかに俺とは違う意味で困っている。

その理由が分かる俺は助け船を出してあげることにした。

「おばあ様、僕はおじい様に呼ばれておじい様のところに行くところなんだ」

「あら、そうなの」

「うん、ウォルフ侯爵とお孫さんがお見えなんだって」

「あらあら、丁度良かったわ」

「え?」

「そこのあなた、今言ったものをすべてあの人のところに持って行きなさい」

「は、はい!」

「さっき言いつけたものは全部だしなさい。言ってないものも見繕って出して。テーブルを片時も空けないように、いいわね」

「ちょ、ちょっとちょっと。おばあ様?」

「どうしたのマテオ」

「テーブルを空けないようにってどういうことなの?」

「だって、あの人に恥をかかせるわけにはいかないじゃない」

「え? は、はじ?」

なんでお菓子とか果物とか、そういう話から「恥」の話になるんだ?

「そうよ。下手な出し方をしたのでは、『孫におやつを満足にたべさせることもできないのか』と笑われてしまうわ」

「えええ!? そ、そんな事ないよ」

「いいえ、ウォルフ侯爵ならいうわ」

「それは――」

これには否定の言葉が見つからなかった。

ウォルフ侯爵の話は爺さんからいつも聞かされている。

直接な関わり合いはほとんどないが、話を聞いてるだけで分かる。

ウォルフ侯爵は爺さん――そしてイシュタルの「同類」だ。

爺さんとイシュタルは俺を対象に、いかに俺を溺愛できるかを競っている。

一方で、爺さんとウォルフ侯爵はそれぞれの孫を対象に、いかに自分の孫を溺愛できるのかを競い合っている。

そんなウォルフ侯爵が一緒なら……他人がどう思うかは読めないが、少なくともウォルフは勝ち誇って、爺さんはめちゃくちゃ悔しがる。

それはもう、火を見るより明らかなことだ。

だから俺はメリンダの指示を止められなかった。

「そうだわ、一昨日食べたサクランボもおいしかったから。それもちゃんとだしてあげなさい」

「奥様、さくらんぼは季節のものではないので、新鮮なものはおそらくないと思いますが」

「あら? ブルゾン商会のグレートさんに使いを走らせなさい。あそこなら年中新鮮なものを用意出来るはずよ」

「は、はい!」

メイドはメリンダの命令をうけて、慌てて走って行った。

メリンダ。

修正された歴史の狭間から生まれた存在だが。

爺さんにそっくりなのを見る限り、なんかこの人はずっと昔からいたかも知れない、という錯覚になってしまうのだった。