軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

221.最大のスポンサー

数日後、屋敷の庭。

俺はレイフと一緒に、「車」に乗っていた。

普通の馬車から、輓馬に必要な部分をごっそりと取り除いたような、馬車のない「車」にのっていた。

車は見晴らしをよくするのが目的なのか、密閉した空間じゃなくて完全に開け放たれた空間だ。

「なんだか……荷馬車みたいだね」

「試作だからさ。凡人では密閉した状態ではすごさを感じられないからこういう構造なのさ」

「……そうだったの?」

「ああ」

レイフは若干鼻でわらった。

「動いているかどうかも分からない、動いてても本当に外力無しなのかどうかがわからない。そうほざく者が多くてね。やっかいな事に当時の、ちがうな、ほとんどのスポンサーがそうだったのさ」

愚痴のように言い放つレイフ。

その口ぶりだと、貴族か商人に金を出して作らせてもらったけど、そのお金を出したスポンサーにいろいろ難癖をつけられたんだろうな、というのがなんとなく想像できた。

もともとのひな形が既に出来ているって話だが、そのひな形が出来るまでも大変だったんだろうなあ……とちょっとだけ同情した。

「えっと……じゃあお願いします」

「オーケー、まずは――」

レイフはそういって、車の前方についている二本あるレバーのうち、右のレバーをひいた。

かちっ、かちっという音がして、やがて車は徐々に走り出した。

「いまのはどういう事なの?」

「燃料に火をつけたのさ」

「そのレバーを引いたら火がつくの?」

「大した仕掛けじゃないさ」

直接ではないがそうだと認めるレイフ。

車はまっすぐ、ゆっくりと進む。

庭の中を直線に進んで、茂みに入りそうになった所で、レイフはもう一本のレバーを引いた。

さっきとは異なるタイプの音がした。

カッコン! と、何かのからくりが大きく変わったような音だ。

車が止まって、反対方向に逆走しだした。

すぐに元の所まで戻ってきた。

「すごい、これは上手くいったってことでいいんだよね」

「そうだな。いままでだと何を燃料に使おうが、不純物の付着でこの一往復さえも出来なかった。そういう意味では成功と言える」

レイフはそういい、最初のレバーを戻した。

車の下から「プシュ」という気の抜ける音がしたのと同時に、車がとまった。

燃える氷につけた火を消したんだな、と何となくわかった。

「すごいよレイフさん」

「君がもたらしてくれたあの燃料のおかげ。感謝している」

「そんな事ないよ。持ってきたものを活用出来る様にしたレイフさんがすごいんだよ」

「ところで、君は皇帝陛下と親しかったのだったね」

「え? うん……そう、だとおもうけど……」

いきなりなんだ? って訝しんだ。

「だったらもうひとつ見てほしいものがある」

「うん、なに?」

聞き返すと、レイフは車から飛び降りて、少し離れた所にいる屋敷の使用人に向かって手をあげて、何か合図を送った。

しばらくして、使用人に先導されて、知らない顔の男達がやってきた。

男達は大工かなにか、そういう感じっぽい人達で、いろんな「パーツ」的なものを持ってきて、車を降りた俺とレイフの前でそれを組み立てていった。

「何をつくっているの?」

「実際に一度見てもらったほうが説明が早い」

「そっか、わかった」

レイフがそう話す以上まずは見よう、と、俺は静かにみまもった。

レイフが呼んだ人達が組み上げていったのは……なんというか、「溝」だった。

排水溝、もしくは雨どいか?

溝っぽい感じの、何かの「通り道」になるものを組んでいく。

排水溝とか雨どいだと最終的には水を捨てるための一方通行だが、レイフが組ませたのはスタートとゴールが円になって繋がっているものだ。

直径にして10メートル程度の、つながっている溝。

「ご苦労」

レイフがいって、大工達がさがった。

直後にレイフは大工達がおいていった小さな車の模型を手に取って、俺にみせた。

「いまからこれを走らせる」

「うん」

頷き、見守る姿勢をつづけた。

レイフが手に取ったのは手の平サイズくらいのつくりもので、前後左右に車輪が四つついているいかにもな「車」の形をしたものだ。

その裏側から火をつけると、車輪が回り出した。

「燃える氷がはいってるんだね」

「とうぜんだ、今回はその話なんだから」

「たしかに」

レイフは車を溝においた。

車の模型のサイズに逢わせてつくったサイズの溝で、模型は溝の中をゆっくりと進み始めた。

大きな円になっている溝の中、やがてゆっくりとカーブしている所も、車の模型はゆっくりとまがっていった。

数十秒掛けて、車の模型が溝のなかを一周して戻ってくる。

「ここに銀貨を一枚おく」

レイフはそういって、車の模型の中に銀貨を一枚入れた。

また数十秒かけて、車が一周して戻ってくる。

その模型からさっきの銀貨を取り出す。

「このコースは一周だいたい50メートルになってる」

「うん」

「今ので、50メートルさきの所に銀貨を運んでいったということになる。スタートとゴール以外人間の手を借りずに」

「……街と街の間もいける?」

「君はやっぱり察しがいい。そうさ」

レイフは銀貨を掲げながら、得意げな顔で言う。

「街と街の間にせんようのコースをつくって結べば、人や荷物の運搬が楽になる。時間も安定する」

「……そっか、そういうことなんだ」

俺は全てを理解した。

だからレイフは陛下と仲がいいのかと聞いてきたのか。

街と街を結ぶということは、かなりお金がかかること。

最初の投資はかかるけど、一度仕組みが出来た後は楽に、そして安上がりに出来る話だ。

ただし、その最初の投資はきっと半端ない額がいる。

「わかった、陛下に話を持ちかけてみるよ」

「頼んだよ。ぼくじゃなぜかスポンサーどもにウケがわるいらしくてね」

レイフは不愉快そうな顔でいった。

今までもいろいろ有ったのかな、となんとなく察しがつく。

なにはともあれ。

これが上手く行くといろいろ便利になりそう。

イシュタルの国のためにも提案してみよう、と俺は本気でおもった。

明日正式謁見できないかな、と俺は海神の力をつかって、イシュタルに申し出た。

翌日、王宮の謁見の間。

「分かった、金ならだそう」

皇帝の姿をしたイシュタルがあっさりと了承したので、俺も同席した大臣達もみんな目をまるくしてしまった。