軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

222.予算の額

「へ、陛下! そのように軽々と応じるのはいかがなものかと」

ある意味俺の驚きを代弁してくれた大臣。

大臣らの中でももっとも玉座のイシュタルに近い位置に立っていて、もっとも位の高そうな大臣が難しい顔でイシュタルにいった。

通常、玉座の両横にならんでいる大臣達は、謁見する俺とレイフみたいな人間も視界に入れないと行けないから、玉座にいる皇帝には半身ないしはやや斜めに向いている事がほとんどだ。

それが今は列からでて、イシュタルに真っ正面を向いている。

いかにもな進言、いや反論をするための体勢にはいった。

そんな大臣に向かって、使徒の力で男の体になっているイシュタルが呆れた眼差しをむけた。

「本気で言っているのか? それは」

「ど、どういう意味ですかな?」

大臣は動揺しつつ、どうにか体裁を保とうとしている。

「そうだな……レブナン卿」

「え? は、はい」

末席にいる別の大臣がびっくりして、慌てて列からでて、イシュタルの呼びかけに応じた。

明らかに自分が呼ばれるとはまったく思っていなかった、という感じの反応だ。

「辺境のアーイングで、国境が侵されていると言ったな?」

「はい、昨日ご報告しましたとおり、長期化する恐れがございますので念の為の兵糧を送ろうとの下知を賜りました」

「うむ、余が昨日その場で指示したものだ。さてレブナン卿、一晩たったのならある程度の試算はできていよう。アーイングのあたりまで食糧を送るとなると、一人一日分の食糧を送るためのコストは?」

「はい、もっともアーイングに近い備蓄から送るとなると、人夫に支払う報酬と道中に消費する食糧を加えた結果、一人一日分運搬するのに13日分の食糧が必要となります」

「うむ。ちなみにこの帝都から送るとしたらどれくらいかかる」

「約……30日に上るかと」

大臣の報告には誰も異議を挟まなかった。

食糧を運ぶのにそれ以上の食糧を消耗する、というのはたまにものを知らない若者が疑問を呈するが、実際に政や兵事に携わる大臣達からすれば当然のコストである、レブナンという大臣の試算は実に妥当なものだった。

だからこそ、誰も皇帝の質問の意図が飲み込めずにいた。

レブナンが答えたあと、イシュタルは無表情で一度頷き、それからレイフの方をむいた。

「それが完成した暁には、一人一日分運搬にはどれくらいの食糧がかかる」

「そんなもの必要ないよ」

レイフがあっさりと言い放った。

イシュタルがレイフに言葉を向けた瞬間に大臣らはイシュタルの質問の意図を理解したが、すぐにそれは驚きに上書きされた。

レイフはゼロだと言ったのだ。

「荷物の積み下ろしは必要だけど、それは別の話でしょ」

「うむ」

「運搬っていう意味じゃ、100人分でも200人分でも、操縦する一人に適当に食べさせる位でいいよ。まっ、力仕事じゃないから別に抜いたっていいし」

「うむ」

イシュタルは二連続で頷いた。

なるほど、と、ここまで黙って聞いた俺は分かった。

イシュタルはここまで理解して話を振ったんだ。

食糧はもちろん、その他のあれこれを遠方に運ぶには大量の食糧がいる。

人間が運ぶのはもちろん、牛馬を使うにしても牛馬が一日食べる「純粋な量」は人間を上回る。

特に水なんかがそう。

同じものを運搬するのに、牛馬の方がより多くの飲用の水が必要となる。

そして水は用意するのも、運ぶのもより大変だ。

だから基本、よほどの事が無ければ現地でどうにかするようにされるし、よほどの事があった場合はコスパ度外視で送られる。

が、だからといって。

コストを下げられるのなら下げるのに越したことはない。

それをイシュタルは――。

「それだけではない。卿らは領地を持つものも多い。安定しかつ安上がりの輸送方法が有った場合何が一番助かる?」

「「「……」」」

いきなりイシュタルに聞かれた大臣らはきょとんと、また意図が飲み込めない感じになったが。。

「税金だろ、どうせ」

レイフが代わりに答えた。

「金貨は重いし、運送が長いと護衛もしんどいらしいね」

「あっ……おじい様がそんな事をいってた気がする」

なるほど、と俺はまたまた納得した。

爺さんがむかしぼやいてた事を思い出した。

領地で集めた税金の一部を帝国に上納するんだけど、その分を全部金貨にしても運送が難しいっていってた。

なるほど、それは確かにかなりの問題だし、解決出来ればいろいろと大きく変わるなと思った。

そしてレイフがいうと、大臣の大半がハッとした顔で、さっきまでとはまったく違う表情でレイフを見るようになった。

税金の話となれば毎年の恒例行事、それが解決・解消できるのなら助かるって人も多いはずだ。

「レイフ・マートンだったか」

「ああ」

「どれくらいで作れる?」

「まだ研究段階だよ」

「それも含めてだ」

「有り体にいって研究費次第だね。いくらだせる?」

「マテオ」

「え? うん」

「マテオはどう思う?」

「……やるべきだと思うよ、陛下。今すぐに思いつかないけど、『安定して輸送できる』ってなったら多くのことがすごく変わると思う」

「うむ、さすがマテオ、その通りだ」

まるで出来レースのようなやり取りだったが、まわりの大臣からは何も反論はなくなっていた。

じつはまだ反対をしている――という表情さえもなかった。

皆が「それができるのなら」という期待の色になった。

「レイフ・マートンよ。どれくらいだせるかと聞いたな」

「ああ」

「余がマテオに寄せる信頼分。という答えでどうだ」

「へえ……いいじゃない、それ」

どういう意味だ? と今度は俺が不思議がったが、レイフは言葉通りに面白そうだ、って顔をしていた。