作品タイトル不明
220.最後のピース
「君の方から僕を呼び出すなんて珍しいこともあったもんだ」
翌日、屋敷の応接間の中。
ソファーに座っている俺の向かい、テーブルを挟んだ向かいで、レイフが最初に出会った時となにも変わっていない、大きなトカゲの背中にウンコ座りしている姿で向き合っていた。
過去に戻った一件がまだちょっと尾を引いていて、こういう「変わらない」人や物を見ると妙に安心してしまう。
――が。
「とうとう解剖をさせてくれる気になったのかい」
レイフに限っていえば、その話をするといろいろと身の危険を感じてしまうから、何も言わないことにした。
「ううん、ちょっと今日は相談があるんだ」
「なんだい」
「あっさりと……いいの? 前はなんだかいつも面倒臭そうだったのに」
「その辺の有象無象はともかく、君が持ってくる話はなんだかんだで面白いからね」
「そうなんだ……」
褒められているんだかいないんだか……よく分からないけど、いい方だととってその上で深く考えないようにした。
「実はね」
そういって、俺は熱石と燃える氷を取り出して、テーブルの上においた。
鍵となる二つの物質を見えるようにしながら、一連の事を話す。
海底から燃える氷を発見した。
それをルイザン教で「神跡」として使えるのかと持ちかけた。
ルイザン教のヘカテーとメーティスから熱石という物質の存在をした。
その事をざっくりと説明してから。
「これを活用する方法がなにかないかって考えてて、それでおじい様からレイフさんが魔導工学の天才だって聞いた事を思い出したんだ」
「ふーん、で、これで何をしたいっていうの?」
「車……かな、って思ってるんだ」
「ふーん」
「回転って聞くとやっぱりまず車輪を思い出すんだ。火を燃やしている間は車輪が回って進んでくれる……とかだと便利なんじゃないかって」
「大昔に作ったよ、それ」
「ええ!?」
レイフの言葉に驚愕してしまう。
「前に作ったって……本当に!?」
「素人はよく何かにつけて『こうすればいい』とか『こういうのが課題』とかいうけど、そういうのはとっくにこっちがいろいろやった後なのさ」
「そうなんだ……」
俺は内心、こっそりがっくり来てしまった。
大昔に――つまりとっくに作った。しかしいまはそういうのが実用化されてなくて、爺さんとイシュタルが大量に集めてくれた本の中にもそういうものは見かけない。
つまりは失敗したあとだという事だから、俺はちょっと落胆した。
「気が早いね君は」
「え?」
「失敗したから失望してるんだろう? その顔は、どうせ」
「う、うん」
見透かされてちょっとだけ恥ずかしくなった。
「それはそれで間違いではないけどね、まあ、君との付き合いだ、もう少し詳しく説明してあげるよ」
「あ、うん。お願いします」
「熱石を起点にして、炎の力で『車』を動かす発想は前からあったよ。いいかい、『車』だよ、馬はいない。これがどういう事か分かるかい」
「うん」
俺ははっきり頷いた。
そこは俺がレイフに話を持ちかけようとした理由の一つだから答えはもう俺の中によういされてた。
「馬だと生き物だから休み休みじゃないとだめだけど、炎だと最小限の労力で一晩中――ううん、何日でも燃やし続けることが出来る」
「中々に筋がいいね、君は。そういうことさ。だから研究はずっとしてた、そして成功した」
「ええ!?」
素っ頓狂な声を上げて締まった。
ソファーに座っていたのが、思わず腰が浮きかけたほどの驚きだ。
「成功したの!?
「そう」
「でも……熱石って、何かちょっとでもついたらもうまわらないって」
「そうさ、だから魔法をつかった」
「魔法……?」
「炎の魔法で熱せば何もつかずに回し続けることが出来るのが確認された。魔力の残滓なんてのもあるけど、それは物質ではないからね」
「そ、そっか……」
盲点だ、と思った。
が、すぐに考えを改めた。
「……でも、それじゃ馬車、馬よりもっと……」
「察しがいいね、そういうことだ。魔法でずっと熱石を熱する位だったら結局馬に引かせた方がいいって事になった。なんなら魔法で直接車という物体をおせばいい」
「そう……だよね」
「だから、熱石を使った『車』というガワはもうとっくにできてる。後は燃料の問題だったというわけさ。ああ、魔法の炎を使う過程で、歯車とかその変の動力の効率化もあれこれやったよ。結局は魔法だとどうあがいたところで効率が悪いって結論におわったけどね」
「……じゃあ」
俺は期待を込めて、レイフに聞く。
「確認するよ。これは本当になにもださないのかい?」
「えっと……一時間くらいならまわり続けてくれたよ」
「十分だ。試験機を引っ張りだしたそれにあった燃料のいれる場所を改造する。その燃える氷とやらをそれなりの量を用意してくれ」
「うん! わかった!」
レイフの話をきいて、俺の予想よりも現物や過去の蓄積があるぶんちょっと話が先に進んでいて、すぐに結果が見られそうでワクワクした。