軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

219.回る石

ルイザン教の教義の話が一段落して、ヘカテーとメーティスに立ってもらって、本来の燃える氷の話にもどした。

「それでね、フレンに言われたのが、ルイザン教だったらこれを有効活用出来るんじゃ無いかって」

既に「神託」という形で一連の出来事を二人に伝えていて、その中に当然の如く新しい、六人目の使徒であるフレンの事も入っている。

だから俺はフレンの事を知っている前提で話した。

「どうかな」

「フレン様の見立ては間違いではございません」

ヘカテーは真顔で応じた。

「燃える氷はまさしく神の奇跡、神がもたらした恩恵でございます」

「恩恵なのかな、燃えるだけだし、この程度の量じゃみんなの生活何も変わらないから」

「神が最初に我々人間に授けてくださったのは火と、その使い方でございました」

「あ、うん」

その話は聞いたことがある。

たくさんの本にそれっぽい事が書かれてて、そうじゃなくても人間と動物の大きな違いって火を自由自在に道具として、手段として扱えるかどうかなのは知らなくてもいわれれば納得な話だ。

「新しい炎の存在を神が示して下さった、それだけで奇跡でございます」

「そういうことになるんだ」

「神に背くのは論外ですが、神の教えを守り、良き方向に進歩させるのが我々人間の使命です」

「だからとっかかりだけで充分、ってこと?」

「さようございます」

「そっか」

なんとなく理解はできた。

「……」

「メーティス?」

「……」

「どうしたの、メーティス」

「……え、ああっ! す、すすすみません!!」

俺とヘカテーが話している間、ずっとぼうっとしていて上の空だったメーティス。

声をかけると我に返って、慌てて俺に頭を下げてきた。

「ううん、大丈夫。それよりも何か気になる事でもあったの?」

「その……あるものを思い出していました」

「あるものって?」

「熱石です」

数時間、夕日も完全に沈んだ後の、屋敷のリビング。

いったん「取りに行った」ヘカテーとメーティスが戻ってきて、再び三人でむきあった。

リビングの中、三人が間に挟むテーブルの上。

その上で鍋のような鉄の容器があって、その容器の中に丸い金属の玉が置かれている。

「これが熱石っていうものなの?」

「はい、しばしお待ちを」

ヘカテーはそういい、火をつけたロウソクを用意した。

メーティスはミトンをつけて鉄の鍋をもって、ヘカテーが鍋の下からロウソクで炙った。

何が起きるんだろう――と思いながら見ていると。

「あっ、回った」

なんと、鍋の中で鉄の玉が回り始めたのだ。

自然に転がっているから回っているとかではない、はっきりと「回っている」、コマのような回転するまわり方だった。

「えっと……熱すればまわりだす、ってこと?」

「おっしゃる通りです。昔は別の名前で呼ばれていましたが、近年は磁石になぞらえて熱石でよばれています」

「磁石……方位磁石からきてるんだね」

「ご明察でございます」

「そっかー」

なるほど、と納得した。

磁力によってグルグル回る磁石と、熱でこうしてグルグル回るから熱石。

もっと他に名前はあるんじゃないか――って一瞬思ったけど、むかしは別の名前で呼ばれてていまはこれだ、っていうヘカテーの言葉を思い出してこれまたなっとくした。

「熱せば回るなんて面白いね……って、あれ?」

感心している内に熱石の回転がどんどん下がってきた。

ぐるぐると回っていたのが遅くなって、やがて完全に止まってしまう。

最初にコマっぽいと思ったのがここでもそうで、力つきたコマのように動かなくなった。

俺は下からのぞきこんだ。

ロウソクの炎はまだ残ってて、ほとんど変わっていなくて、鍋の底ですすの範囲を広げている。

「あったまればまわらなくなるの?」

「いいえ、熱石をよくご覧になってください。すすを吸い込んでいるのがおわかりになるかと思います」

ヘカテーにいわれて顔を寄せてじっと見つめると、確かに最初はピカピカだった熱石が少しだけ黒ずんでいる。

それは鍋のそこで広がっているススの黒ずみ方と同じだった。

「熱石の特性の一つで、不純物が混ざってしまうと回転する力を失うのです」

「不純物……あっ」

俺はハッとして、ヘカテーはうなずいた。

俺は燃える氷を用意した。

その間、メーティスは布を取り出して、丁寧に熱石を磨いた。

メイド達が銀の食器を磨くのと似ていて、しかしより丁寧に念入りに磨いた。

そうしてまたピカピカになった熱石を鍋の中に置く。

俺はロウソクの代わりに燃える氷で鍋を熱した。

熱石が再び回り始める。

しばらくの間、三人でそれを見守る。

ロウソクの時よりも長くまわり続けた。

「回ってるね」

「ロウソクと違い、神の炎は不純物を出さずに、それ故にまわり続けていられるのだと推測します」

「そっか、メーティスはこれを予想してたんだ」

「は、はい」

メーティスは赤面と同時に、上手くいってよかった、的な安堵の表情を浮かべた。

熱せば回る石。俺は少し考えて。

「……水越しに温めてもだめなの?」

「はい、どうやら水を取り込んでしまいますので、そもそもその状態からでは回り始めることもしません」

「あ、そっか、そうだよね」

俺は苦笑いした。

素人の浅はか考えだったなと微苦笑する。

「――っ!」

「いかがいたしましたか?」

「いい事をおもいついた……その熱石、ちょっとの間貸してくれる?」

「はい……もとより地上の全ては神の持ち物でございますが……」

それはいいけどなんで? って顔をするヘカテーとメーティス。

俺は熱石をもらって、頭にひらめいた事をもっと形にしようと考え込んだ。