作品タイトル不明
214.過去より未来を
サラと一緒に女王について行った。
人魚のサラはもとより普通に海中をすいすいと泳いでいけて、俺も海神からもらった力を使って「海を飛ぶ」感覚でついて行こうとした――が。
飛び出した直後にがくっとした。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
先に行くサラが止まって、振り向いた。
俺は何でも無いといって、気を取り直してついていった。
海を飛びながら、感覚を掴む。
もしやと思ったが、すぐにそれが確信に変わる。
海神の力が前より目に見えて弱まっている。
もともと、このマテオボディにある海神の力は、海神ボディからの借り物だ。
海に連なる力の一部を行使できるか、力の絶対量は海神に遠く及ばなくて、必要な時は常に海神ボディに乗り換えて、という形でやってきた。
そういうこともあって、海神の力の強さは強いと弱いを行き来しているから、体感でどれくらいあるのかが自然と分かるようになっていた。
いまは……減っている。
過去にいく前にくらべたら体感で7割――いや6割くらいしかない。
最初はノワールの復活、レイズデッドという大魔法をつかったからだと思っていたが、どうやらそういうわけではないようだ。
「……うん」
何となく理由に察しがつく。
確定ではないが、過去にいって歴史が細かく変わった影響だろうと思う。
爺さんにメリンダという奥さんが出来たように、俺も海神から預かった力がちょっと弱まっている。
そう考えれば証拠はないが納得は出来る。
まあ、これくらいなら気を張ってれば普通に海の中を飛べるから、気にしないことにした。
サラと一緒に、女王のあとについて行くこと五分。
それまでとは違う、まったく知らない神殿にやってきた。
神殿の中にするりと入っていく女王を追いかけて、俺とサラも中に入る。
それほど大きくない神殿、すぐに最奥にたどりついた。
先についた女王が体ごと振り向いて、俺達を待ち構えていた。
「お疲れ様です」
「ここは?」
「海神様が残されていったものです」
「うん」
俺は小さく頷く。
いままでのほとんどの場合、女王がいう「海神様」は俺の事を指していたが、今回は違う。
おそらく本来の、あるいは前任のともいうべきか。
その海神様の話だ。
「どうぞ、こちらの紋様の中にお進みください」
そういって女王が指し示した床には、直感的に海、あるいはもっとストレートに海神を意匠した紋様が描かれていた。
俺は指示された通りその上にたった。
すると、女王様の更に向こう、神殿の最奥に二つの光の玉が浮かび上がった。
人間の頭と同じくらいのサイズの、綺麗な球形をした光の玉だ。
どっちも同じくらいの明るさの光を放っているものの、よく見れば片方が金色で、片方が銀色のように見えるものだ。
「これはなに?」
「海神様が残されていった御力です」
「力?」
「海神様――あなた様が『戻りきっていない』ことに不満があることを想定されて、用意された二つの力です」
「戻りきっていない……」
「はい、金の玉は『歴史の違いを正す』もの、銀の玉は『身の回りの違いを正すもの』だそうです」
「……そうなんだ」
「ただし、どちらか片方しか選べません。片方を主として、もう片方を吸収して、選ばれた方を修正する――とのことです」
「二択って事だね」
「そのようにうかがっております」
「そっか……」
なるほどな、と思った。
どうやらこうなることは想定されてたみたいだ。
そりゃ……そうか。
ノワールが過去に戻って歴史が変わったというのなら、ノワールを残して連れて帰らないままだと歴史が結局は何かしら変わっていて当然だ。
海神が残したこれは俺が戻った時代よりもあとの事だから、こうなると分かって当然。
それで用意してくれたってわけだ。
「他になにか言ってた?」
「くれぐれも――両方を選ぶ事だけは避けるように」
「うん」
「両方を選ぶことは何があろうと成功しない、とのことです」
「うん、それは分かる。過去に戻って、いろいろやって今に戻ってきて、それで見たことでわかる。全てが都合良く思うように変えられないのはすごく分かる」
女王を介して海神が刺してきた釘は至極御もっともなものだった。
「どうするのマテオ」
「やめなさいサラ。全ては 海神様(、、、) のご意志で。我々が容喙すべき事柄ではありませんよ」
「う、うん……ごめんなさい……」
事の大きさを改めて指摘されたからか、サラはシュン、となった。
そう、事の大きさ。
ここでもう一度、歴史修正のチャンスをもらえるというわけだ。
俺は考えた。
いままでのことを考えた。
いままでの事の上に、自分が一番重要で、大事だと思うことは何かを考えた。
すぐにわかった。
「僕がもうきめちゃっていいの?」
「はい、御心のままに」
「わかった」
俺は前に進み出た。
目減りした海神の力を両手にこめて、両手をつきだした。
その両手で二つの玉にふれた。
そうは見えないが、感覚はシーソーのようなものだった。
かなりギリギリのバランスで保たれているシーソー。
そのどっちかに力をあつめて発動する、という感じだ。
俺はそれを――ひっくり返した。
「「えっ!?」」
女王もサラも驚いた。
微妙なバランスで保たれていたシーソー、それを崩した瞬間、二つの玉が同時にぱあっと輝きを増して、同時に弾けて消えてなくなった。
二つの光はきらきらした粒子になって、神殿の中、海中に漂っている。
「わ、海神様!?」
「どっちも選ばないことにするよ」
「え?」
「前の海神様ははどっちも選ぶのはダメだって言ってたけど、どっちも選ばないのはだめって言ってないよね」
「そ、それは……そう、ですが」
「だったら、僕はそうする」
俺はにこりと微笑んで、女王とサラにいった。
「どっちをかえても、おじい様が今のまま、ぼくの大事なおじい様のままでいる保証はないじゃない? だから、これ以上過去をかえるよりも、いまのおじい様のままでのをえらぶよ」
「そ、そうですか」
「いいのそれで」
「うん。ごめんね、海神様の遺産を壊してしまって」
「……いいえ、海神様のご意志、ご選択ならば私たちに気後れを感じる事はありません」
「ありがとう。じゃあかえろうか」
「「はい!」」
人魚の親子が頷き俺達が一斉に神殿を出ようとした。
その時だった。
『過去をそのままうけいれるか』
「え? だれ?」
俺は立ち止まって、耳を押さえてきいた。
女王もサラも不思議がって同じように立ち止まったが、その顔は今の声が聞こえていないような感じだった。
『ならば残した力、未来に変えてやろう』
空耳のような声がした直後、俺が離れた紋様の中心が光った。
ひかって、そこに海神ボディが現われた。
一体どういう――と、不思議がる時間すらなく。
弾けた金と銀の光が海神ボディに集まって――。
「ええっ!?」
「わ、海神様の体が!?」
驚く二人、それもそのはず。
海神ボディが二つの力に取り憑かれ、まるで「溶かされる」ように消えていく。
溶かされた分増えた光が、今度は俺に取り憑いた!