作品タイトル不明
213.人魚との再会
みんなが落ち着くのを待ってから、今度逆に、みんなからいつものように祈りで知識と記憶を共有してもらった。
人間が人間に対して知っている事は、向きを変えると簡単に違うものに変貌する。
「そんな風に思われているなんて知らなかった」がその最たるものだ。
だから五人にそれぞれ俺に関する事を共有してもらった。念の為に一緒に過去に戻ったイシュタルもやってもらった。
エクリプスも含めて一通りやってもらって、大体の事が把握出来た。
「ありがとうみんな、すごくたすかったよ」
「いかがでしたでしょうか、神」
全員の気持ちを代弁するかのように、ヘカテーが聞いてきた。
他の三人はヘカテーと同じように、ほんのり不安の混じった瞳で見つめてくる。
唯一エクリプスだけが何も考えていないかのように俺の膝の上でゴロゴロしている。
「うん、ほとんど僕が覚えている事と一緒だね。エクリプス以外」
「なにか違ったのですか?」
「僕の記憶、ううん、僕が元いた時代というか、時間だと、エクリプスは一日の半分しか降りて来れない。でもいまのエクリプスは――」
「いつでも神の元に侍ることが可能です」
俺の言葉を引き継ぐようにヘカテーがいい、俺はそれに頷いた。
「そう、僕が何かをしたみたいで、エクリプスがこうしてここにいるときも、空の上には夜の太陽の代理というか分身がいる――んだよね」
「はいれす、ごしゅじんさまがしてくれたれす」
エクリプスはいつもの舌っ足らずな口調で答える。
「何をどうしたんだろうね」
「ごしゅじんさまのいこうなのれす」
「いこう……威光?」
「はいれす」
「そうなんだ……具体的に?」
「うーん、すごかったのれす」
エクリプスは少し考えるような仕草を見せたが、帰ってきたのは要領を得ない返事だった。
もともとこういう子だし、この返事もしょうがない半分納得半分だった。
「この事で何か不都合は――」
「大丈夫、全然ないよ。むしろエクリプスが昼夜関係なく自分の好きに出来るからむしろいいと思う」
「おお、何という大きな愛を……」
ヘカテーとメーティス、ルイザン教の二人が大げさに感動した。
ともかくこれで話がわかった。
「ありがとうみんな」
「恐縮です!」
☆
使徒達から話を聞いた後、俺は水間ワープで海底に飛んだ。
過去とちがって、ピカピカな人魚の宮殿の、その玉座の間で、人魚の女王と王女であるサラの二人と向き合っていた。
使徒達にしたのと同じように、一通り事情を説明する。
使徒達はいざという時は祈りで細部を伝えられたが、人魚達にはそれが出来ないから、俺は念入りに説明をした。
説明をする間、若さ故か、サラは表情をコロコロ変えるほど驚きっぱなしだった。
「というわけなんだ。だから、二人と僕について知ってることとか、記憶とか歴史とかそういうのを確認したいんだ」
「そうなんだ……でもどうしよう、その話って、何が変わったのかも分からないから難しいよね」
「うん、だから出会ってからの思い出話を細かくする、ってことになると思うんだけど――」
俺がそういうと、玉座に鎮座ましていた人魚の女王がその玉座から離れ、俺に近づいてきた。
俺の前に 立つ(、、) と、巨体を小さくして――いや頭を下げてきた。
「その言葉をずっと待っていました、海神様」
「ずっと待っていたって……」
「どういう事なのお母様」
人魚の女王は顔をあげて、俺をまっすぐ見つめてきた。
「海神様が過去に赴いた際に出会った人魚のことを覚えていらっしゃいますでしょうか」
「え? うん、覚えてるよ。サラにすごく似ている――え? そ、それって」
びっくりした。
話の流れでまさか!? とおもった。
それはどうやら正しかったようだ。
「はい、それが私です」
「そうだったの!?」
ますますびっくりした。
この「記憶すりあわせ」の中で、まさか実際に過去に出会った者と会えるとは思っていなかった。
何しろ百年以上昔の事だ。
人間の尺度であれこれ考えていた俺は当事者なんで全員もういないという感覚だった。
が、いてもおかしくない。
悪魔であるノワールやブランなどを見ればあの時からずっと生きてきた者がいてもおかしくはない。
それが女王様というわけだ。
「それならどうしていままで言わなかったの?」
「あの時、海神様と別れた後に声を聞いたのです」
「声を?」
「はい、海神様の声を」
「僕の?」
「その声で海神様が過去にやってきた理由を知り、いずれ海神様が肉体を伴って再臨することを知りました」
「そうなんだ……」
「そして、未来の変動を最小限に留めておくため、海神様が実際に過去に戻り、そして現在に 戻って(、、、) 来るまではその事を話してはならない、と言いつかりました」
「そう、なんだ……」
びっくりした、めちゃくちゃびっくりした。
まさかそんな事があったとは知らなかった。
「ご足労をお願いします」
女王様はそういい、泳ぎだした。
玉座の間をでて、一人ですいすい泳いでいく。
俺とサラが視線を交わした。
どういうことなんだろう、と。
すぐに二人で頷きあって、まずはついて行こうと思った。