軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

211.知らない双子

次の日の朝、屋敷の食堂。

朝食の場に俺と爺さん、そして未だにその存在にまだちょっと違和感の残るメリンダの三人がいた。

俺と爺さんが向かい合って座ってて、メリンダは爺さんに寄り添うような形で横に座っている。

テーブルを挟んだ向かいに座る二人、見た目はとんでもないレベルの年の差夫婦だが、醸し出す空気感は長年連れ添った老夫婦のそれだ。

その空気感がまだいまいちなじめなくて、戸惑っている俺。

戸惑って、何を話しかけていいのか分からなかったから、朝食に意識を向け、集中することにした。

朝食はコーヒーと焼きたてのパンをメインに、何種類かのジャムなどの塗り物がある。

さらにはサラダなどもあり、シンプルではあるが村人時代では到底考えられないような豪勢な食事だ。

俺は焼きたてのパンを一つとって、バターナイフからバターをよそってパンに塗った。

そのまま一口ぱくり――とした瞬間。

「あれ」

「うむ? どうしたのじゃ」

「これおいしい」

「ほう、どれじゃ?」

「カロガドですね、あなた」

「おお、それか」

「カロガド?」

聞き慣れない名前に首をかしげた。

「うむ、別名木の上のチーズじゃ」

「へえ。畑のお肉みたいな?」

「うむ。果樹になっている実だから果実なのは間違いないのじゃ、しかしその果肉はチーズのように香り高く濃厚で、口に入れればすっと溶けるのが特徴じゃ」

「本当にチーズみたいなんだね」

俺は半分ほどになったパンと、それに塗ったカロガドをじっと見つめた。

初めて食べるが、これがすごく美味かった。

「チーズならサラダにも合うかな」

「そうじゃな」

俺はサラダを取り皿にとって、またカロガドをとって、小さいサイコロ状に切り分けだ。

切り分けたサイコロ状のカロガドをサラダの上にぱらぱらと乗せて、野菜と一緒にとって口の中に運ぶ。

「おいしい」

「マテオや、それを気に入ったのか?」

「うん、すごくおいしい」

「そうかそうか、ならばもっともっと用意させるのじゃ」

「え?」

「たしかそれは領内の農園で作っていたのじゃな」

「え、南の方で一つだけ、これを作っている農園がありますわ」

「ふむ、南の方の気候があっているのじゃな。ならばその近辺の農園全てをカロガドに植え替えさせるのじゃ」

「えええええ!? ちょ、ちょっとおじい様!? それはいくら何でもだめだよ」

「素晴らしい案ですわあなた」

「ふぇ!?」

直前に素っ頓狂な声を上げて爺さんを止めようとしたが、この段階では俺はまだ落ち着いていた。

爺さんのそれは「また溺愛が始まった」位に思っていたが、思いがけない方向から援護射撃がとんできてびっくりした。

過去から戻ってきたら いることになってた(、、、、、、、、、) メリンダが爺さんに同調していた。

「マテオ、そのカロガドはおいしかったのですね?」

「う、うん。そうだけど……」

「あなた、私の記憶が間違っていなければ、たしかカロガドは接ぎ木で増やせる果樹」

「接ぎ木……そうか!」

「ええ、同じ味の木を増やせるということですわ」

「おお、おおおおお!?」

爺さんは目を輝かせて――本当に光っているように見えるほど、オモチャを買ってもらったばかりの子供のように目を輝かせた。

「何たる僥倖じゃ! うむ、普通の作物ではおいしさに個体差があるじゃろうが、接ぎ木の果樹なら味の違いを最小限に抑えられる」

「マテオがそれを好むのはまさに運命。今すぐに作付け面積を広げさせるべきですわ」

「うむ! すぐに連絡をしよう」

「早馬を用意させますわ」

そう言ってメリンダがまず席を立った。

朝食もそこそこに早速動き始めた。

まるでもう一人、俺を溺愛する爺さんがもう一人増えたかのような勢いで、俺はそれに圧倒されて固まってしまう。

「わしも手紙を――」

「ま、まっておじい様」

メリンダにつづいて公爵としての命令を下しに行こうとする爺さんを呼び止めた。

久しぶりの溺愛で、ホッとしつつも対処にこまって、思わずよびとめてしまった。

「うむ、どうしたのじゃマテオ」

「えっと……その……」

「うむ? ……そうか、わかったのじゃ!」

「え?」

「パンじゃな」

「ぱ、ぱん?」

いきなり何を言い出すんだ、と。

俺はポカーンとなって、自分でもさぞ間抜け面をしているんだろうな、って感じで爺さんを見つめた。

「うむ、分かっているのじゃマテオ。パンも、じゃな」

「……も?」

「このパンが一番カロガドにあっているのじゃな……ならば、今日のパンの小麦粉も同じように大量生産させねば!」

「え? 待って、待って待っておじい様! ちょっと待ってよ!」

俺は爺さんを止めた。

小麦粉も、というところでヤバイと思った。

小麦は主食だ、作付面積はもちろん関わる人間の数も段違いだ。

それまで手を出すと影響が大きすぎる、ってことで慌てて爺さんを止めた。

「うむ? なんじゃ?」

「えっと、その……そう!」

何か大きく話を変えねば、ということで頭をフル回転させた結果、ウォルフ侯爵の事が頭に浮かんだ。

「ウォルフ様の事なんだけど」

「うむ? あやつがどうした」

「その、お孫さんの話は最近どうしてるのかな、って」

「うむ、そういえば最近は何も言ってこんな」

爺さんはそう言って、思案顔になった。

よしこれで完全に思考を逸らせたぞと思った。

思った、が。

次の瞬間、思いがけない言葉が耳に飛び込んできた。

「あの双子のことをこうも長くなにも言ってこないのは確かに珍しいのじゃ」

「……ふたご?」

双子って、双子?

ウォルフ侯爵の孫って双子だったっけ? と俺は困惑してしまうのだった。