軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

209.悪魔の溺愛

光が溢れる。

もう一人の悪魔が、ノワールと同じ存在の封印がとかれるという手応えを感じた。

まさに卵を割って出てくる、そんな感触を覚えて――。

「――っ! イシュタル! オノドリム! 僕に捕まって」

「え? ええ!?」

「どうしたのマテオ」

「いいから! ノワール! がんばって!」

急いで二人の手をつかんだ俺。

光の中、ほとんど見えないがノワールのいる方角にむかってそうとだけいった。

ほとんど時間がない中、言葉も見つからずに、ありきたりな言葉しかでなかった。

その言葉を放ったあと、俺はいつもの水筒からいつものように水をだして、イシュタルとノワールを連れて水間ワープした。

ワープで飛んだ先は光があふれていない、普通の空間だった。

それでも目が慣れるまで数秒の時間が必要だった。

段々目が慣れてきて、住んでいる屋敷の自分の部屋に無事水間ワープで飛んできた事がわかった。

俺はちょっとホッとした。

「いったいどうしたのマテオ?」

オノドリムが真っ先に聞いてきた。

イシュタルの目がまだ完全に元に戻っていないなか、オノドリムが先に聞いてきた。

「ノワールの仲間の封印がとかれて、もうすぐ動き出しそうだったんだ。ううん、もう動けるかもしれないね。ただこっちと同じで向こうもまだ見えてないなのかな」

「それはなんとなく分かるけど、なんで慌ててここに戻ってきたの? なんか逃げ出したみたいな感じになっちゃってさ」

「それは――」

「レッドドラゴン、だな?」

眉間を揉んだまま、イシュタルがいった。

俺は頷いた。

「そっか、レッドドラゴンはもともとイシュタル――皇帝陛下に献上するものだったんだもんね」

「ああ、その時のことはしっかり報告を受けている」

「だからわかるんだね。うん、そう。レッドドラゴン――と、ブルーゴブリンの時もそうだった」

俺はそういい、オノドリムにむきなおった。

まだいまいち状況を飲み込めていないオノドリムに説明しようとした。

「あのね、エヴァとオフィーリアが生まれたときって、はじめて見た僕のことを親だとおもったんだ。ご本とかでもよくあるけど、卵から生まれる生き物って、卵から出てきた直後にはじめて見た相手を親だと思っちゃうことがよくあるんだって」

「あー……そういえばそういうのがあるかも」

「ノワールがいう『卵』がどれくらい卵なのかわからないけど、あのまま僕たちがそこにいて、もう一人の悪魔が先に僕たちを見ちゃうのは良くないっておもったんだ」

「だから光が収まる前に飛んできたんだ……でもいいじゃん、別に」

話は理解した、という表情は一瞬だけど、オノドリムは腰に手を当てて鼻をならした。

半ば呆れているような顔で更に続ける。

「マテオを先に見させちゃえばいろいろ面倒が減るじゃんか」

「だめだよ、それは」

俺はきっぱりと否定した。

オノドリムのいう事はわかる、そうした方が――その形になった方がたしかに面倒が減る。

だけどそれはだめだとおもった。

「ノワールにとってもう一人の悪魔は大事な存在。かけがえのないたった一人の家族みたいなものだよ。そんな家族みたいな人をそういう風にしちゃおこられちゃうよ」

「怒られても――」

「もう、それでよいではないか精霊殿」

更に食い下がってくるオノドリムを、イシュタルが穏やかだが迷いのない口調でたしなめた。

「それがマテオなのだ。で、よいではないか」

「……それもそっか」

イシュタルの言葉を受け入れたらしいオノドリム。

直前まで真顔で強く訴えかけようとしていたのに、一気に空気ぬけしたような表情にかわった。

これで一件落着……かな。

「そうだオノドリム、そして――陛下」

俺は二人に呼びかけた。

真剣な表情で呼びかけて、二人は同じように真剣な表情を返してくれた。

「なに、マテオ」

「あのね、おじい様に奥さんが出来ちゃったでしょ。歴史がちょびっとだけかわっちゃって」

「そうだね」

「それでね、他になにか変わったことが無いか確認した方がいいって思うんだ。オノドリムは大地の事、イシュタルは帝国のことを」

「あー……そっか、それは大事な事かも」

「無論そうするつもりだった。何かあれば力を貸してくれマテオ」

「うん、もちろん」

頷くおれ。

オノドリムとイシュタルといくつか確認の取り決めだけをして、二人はそれぞれの場所に、確認をしにかえっていった。

一人になった俺。

次の日、まずはオノドリム。

そして数日後、今度はイシュタルから。

それぞれ「大した変化はない」って連絡がきた。

俺はホッとした。

たぶん「ちょっとの変化」はあったんだろう。

それこそ爺さんがに若い後妻が出来たと同じくらいのことが。

でも爺さんの若い後妻は俺にとっても「大した変化」じゃないのと同じように、オノドリムやイシュタルが確認にして来たものもそういうものなんだろう。

だから俺はホッとした。

女悪魔ブランが時空転移してきて――いや。

そもそものエクリプスの力に惹かれて襲撃してきたノワール、そこから始まった一連のドタバタがどうにか落ち着くのを感じた――が。

その一週間後、ノワール達が訪れてきた。

日差しがピークを過ぎて、丁度いい陽気になった昼下がり。

リビングの中、俺は二人の悪魔と向き合っていた。

一人はノワール、そしてもう一人は――。

「ブラン……さん?」

ノワールと一緒にやってきた悪魔は女で、なんとあの時のブランだった。

……いや、ちょっとだけ違うかもしれない。

見た目はどうみてもブランだが、纏っている空気とか雰囲気が違っている。

「は、はい。ブランです。お久しぶりですマテオ様」

「えっと……どういうことなの?」

「彼女がもう一人の『完成された悪魔』でございますよ」

「そうなの?」

「はい。マテオ様もご存じのように、時空転移を経験した者達は魂や肉体に通常ではない結びつきが生じます」

「イシュタルみたいに?」

「はい」

「なるほど」

「彼女と私にそういった結びつきが生じました。ですので、もう一人の『完成された悪魔』を作るとき、彼女の肉体と精神をベースにしたのです」

「そうなんだ」

実際イシュタルの肉体をたぐってこの時代に戻ってきた俺だ。ノワール達がそういう決定をしたいきさつを聞いてすぐに納得した。

何はともあれ、である。

「よかったねノワール、それにブランさん」

「ありがとうございます、全てマテオ様のおかげです」

「僕は何もしてないよ」

「つきましてはお願いがございます」

「えっと、僕に仕えるとかそういう話?」

「いいえ、私たちで相談して、考えを改めることにしました」

「考えを?」

何をするつもりなんだろうか? と首をかしげた。

「ロックウェル様、皇帝陛下、大地の精霊、人魚の女王、夜の太陽。それぞれが自分が持てるもの、無理なく渡せるものをマテオ様にお渡ししています」

「あー、うん。そうだね」

「私達もそうすることにしました」

「何かを僕にくれるってこと」

「はい」

「えっと……そっか、ありがとう、で、いいのかな」

本当にありがとうでいいのかまだちょっとためらいがあったが、何となく、ノワールから敵意が一切合切、綺麗さっぱりきえていったんじゃないかって感じた。

前に「仕えて」いた時はうっすらと感じていたそれがまったくなくなったのだ。

だったらいいのかな……と思った。

「えっと、それはいいんだけど、具体的には?」

「悪魔でございます」

ノワールはにこりと微笑んだ。

そして、こともなさげに言い放った。

「権力者達の魂を、一人残らずマテオ様に絶対服従するように仕立てあげたいとおもっています」

「…………えええええ!?」