軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

206.仕えさせてください

「本当そうだよ、なんでこいつ復活させたの?」

疑問に感じたのはノワールだけじゃなくて、オノドリムも同じだった。

だまって俺をここまで連れてきたはいいが、ノワールが口火を切ったことでオノドリムもかかえていた疑問をストレートに俺にぶつけてきた形だ。

「お礼をしなきゃって思ったんだ」

「お礼?」

「おじい様を元に戻してくれた協力のお礼だよ」

「その様子では、公爵様――いえ、世界は元に戻られましたか」

「ちょっとだけ変わったところもあるけど――ありがとう、ノワール」

ノワールと向き合って、真っ直ぐ見つめて、礼をいった。

「恐縮です。しかし」

「しかし?」

「オノドリム様のおっしゃる通りです。マテオ様はわざわざ敵である私を復活させる必要が無かったのではありませんか? 見た所……私の記憶とまったく変わらないお姿ですから、時間転移の直後にここに来られた模様」

「うん、おじい様が戻ったのを確認したらすぐに来たよ」

「それは何故でしょう」

ノワールはまっすぐ見つめて、聞いてきた。

彼にしては純粋に疑問を呈したような口調。いつもの慇懃さはなりをひそめて、シンプルに疑問に思ったような口調だった。

「お礼だよ」

そうとしか言いようがない、と思ったから俺は同じ言葉で返事をした。

「……」

が、それではノワールもいまいち納得しなかったようだ。

「うーん、なんていうのかな」

何か納得させられる理由はないのかと頭をひねって考える。

「もっといえば……理由は二つ、あるのかな?」

「なんでしょうか」

「一つはね、確実にノワールが復活したって確信したかったから」

「確信したかった……」

「うん。ノワールが協力してくれたから、おじい様が元に戻ったよね。それでノワールの復活をあのままノワールの仲間達に任せちゃうと、僕は死ぬまで『ノワールって復活できたのかな』ってモヤモヤがのこっちゃうんだ」

「……たしかに」

「そのモヤモヤをなくすには僕がノワールの復活に手を貸すしかないって思ったんだ」

「……おっしゃる通りですね」

「でもさ」

ノワールが納得したが、横からオノドリムが割り込んできた。

口調を聞くに、彼女はまだ納得していないようすだ。

「それっていまじゃなくていいじゃん。マテオがおじいちゃんになった時にすればいいことだよね。ほら、今人間の間で流行ってる終活としてやればよかったじゃん?」

「もうひとつの理由がね」

「え? ああ、うん」

一瞬きょとんとしてしまったオノドリム。

俺が「理由は二つ」といっていたのを思い出した様子だ。

「ノワールってもう、敵じゃないっておもうんだ」

「えー」

「だって――もう敵対する理由ってないよね」

途中でノワールの方を向いて、確認するような口調で尋ねる。

オノドリムは相変わらず不満げな表情だったが、ノワールは一瞬だけ虚を突かれたような表情をした後、考え込んだ。

「……おっしゃる通り、私がマテオ様と敵対する理由がもはや一つもありませんね」

「でしょ」

「どういうこと?」

「ノワールって家族がほしかったんだ。悪魔が全員いなくなったから、エクリプスの力を使える僕をどうにかして、せめてその力で悪魔達を――って思ってたんだよね」

「おっしゃる通りです」

「でも、過去がちょっと変わった――メリンダって人がその証拠。ちょっと変わった歴史で、ノワール以外の悪魔が残ってるはず。そうなると――」

「はい、私がマテオ様と敵対する理由が完全になくなりました。夜の太陽の力の利用度がゼロです」

「……そっか」

オノドリムはそれでもちょっと疑わしげな様子で、しばらくの間じっとノワールを見つめたが、最終的には納得してくれた。

一度納得すると、そのあとじとっとした感情と無縁なのがオノドリムの魅力だと俺は思っている。

「じゃああんたはもうマテオにつきまとわないってことだね」

「……それはどうでしょうか」

「へ? なんで。もう用はないじゃん」

「たしかに夜の太陽の力にはありませんが、今度は悪魔の矜持に関わる事態です」

「矜持? なんの話」

「悪魔は人の望みを叶えて、その代わりに死後の魂を頂くもの。常にギブアンドテイクを続けるのが我々の矜持なのです」

そういえば前からそんな事を言ってたっけなあ、と思い出す。

「しかしいま、私はマテオ様に復活させていただきました。いわばマテオ様から恩を受けている状況でございます」

「恩ってほどの事じゃないと思うんだけど……」

「悪魔が恩を受けっぱなしではいられません。返さなければなりません」

「えっと……」

「ですので」

ノワールはそこで一旦言葉を切って、改めてって感じで体ごと俺の方をむいて、恭しく頭をさげた。

今までの態度とちょっとだけちがった。

妙な慇懃さからくる嫌な感じは一切合切なくなっていた。

「お返しのため、また仕えさせてください」

ノワールからでたのは、全く予想外の言葉、予想外の申し出だった。