作品タイトル不明
205.悪魔の復活
「イシュタル……知ってる?」
「ううん、聞いた事が無い」
表情で答えの予想はついてるけど、それでも聞いてみた。
案の定、イシュタルから返ってきた答えは予想通りのものだった。
爺さんは若い女の人――メリンダという名前の女の人の事を妻といった。
爺さんはかなり高位の公爵だ。
公爵ともなれば妻を娶るとき皇帝に報告をするのが当然で、メリンダはまだ若く爺さんと結婚した時はイシュタルはもう皇帝に即位している。
だから本当ならイシュタルは知っているはずだが、知らないと言った。
「うむ? なんじゃ、誰かと思ったらこわっぱか。普段と違う格好じゃからわからんかったぞ」
「むっ……」
イシュタルはまたまた、困った顔を俺に向けた。
皇帝陛下を小童呼ばわりして、何も忖度をしない爺さん。
それは昔からそうで、爺さんらしい接し方だった。
「あのね、おじい様」
「うん? なんじゃ、マテオ」
「僕の事……どう思ってる?」
「なんじゃ藪から棒に。マテオはマテオじゃ、わしの大切な孫――はっ!」
言いかけた爺さん、ハッとして目を見開いた。
「マテオや、もしや誰かに何か言われたのか?」
「え?」
「何を言われても気にすることはないのじゃ。たしかにマテオはわしが橋の下で拾ってきた子じゃ。しかしそれがなんだというのじゃ、マテオはマテオ、最っ高に愛らしくて賢くて強くて愛らしいわしの孫じゃ」
爺さんは一気にまくし立てた。
同じ言葉を二回繰り返した爺さんの勢い、ノリ、そして熱。
何から何まで爺さんだった。
「う、うん。ごめんなさいおじい様、ちょっと待っててくれる?」
「うむ? わかったのじゃ?」
勢いをすこし削がれて、状況をよく理解できないままでも、俺のいう事を聞いてくれた爺さん。
そんな爺さんと、その横にいるメリンダを待たせるような形で、俺はイシュタルと一緒にちょっと距離をとって、顔をつきあわせてひそひそ話をした。
「どう思う? イシュタル」
「おそらく……ロックウェル卿本人で間違いない」
「イシュタルもそう思う?」
「ああ、あの熱情は真似ようと思っても中々出来るものではない。マテオの事を真に愛しているから出てくる熱だ」
「うん……僕も、おじい様だと思う」
そこで一旦結論つけてから、俺とイシュタルはどちらからともなく、しかし示し合わせたかのようにちらりとメリンダの方に視線を向けた。
爺さんは爺さんだった、そうなれば――。
「これでもいい、のかな」
「そうだな」
「たぶん、ちょっとだけ歴史が変わったんだと思う。悪魔が世界をどうこうはしなかったけど、ノワールが待っている完成された悪魔が二人いる未来になったから、ちょっとだけ」
「そういうことか……」
「ねえオノドリム、オノドリムは何か気づいた事はない? 大地の事で、何かかわった事とか」
「うーん、ちょっとだけ。あるような無いような、位かなあ」
「そっか」
オノドリムがそういうのなら、世界への影響は最小限で済んだってことなんだろう。
なにより――俺はもう一度爺さんをみた。
爺さんは「???」って感じで、首をかしげて視線を返してくれた。
もともとが爺さんを元に戻すためだ。
その爺さんが戻ってきたんなら――。
「これでいいよね」
「マテオがそういうのなら」
メリンダのことは深く考えずに、爺さんの後妻、として受け入れることにした。
俺は改めて爺さんのところに向かって、一緒にたっているメリンダに頭をさげた。
「ごめんなさい、変な事をいって。えっと……おばあさま」
「お婆――」
ちゃんと頭を下げて謝ったのだが、メリンダは何故かガーン、って感じになってしまうのだった。
☆
爺さんイシュタルと別れて、オノドリムと二人っきり。
オノドリムに連れてこられた地中深くの洞窟。
ひんやりとした空気が充満している、時の流れさえも止まったようなその場所。
そこに一人、横たわっている者がいた。
ノワールだった。
ノワールの遺体が地下数十メートルの大空洞に安置されていた。
「さすがオノドリム、すぐに見つかるなんて」
「大地の中にあるものだからね」
オノドリムは一瞬胸を張って得意げに威張って見せたが、すぐに不安そうな表情に変わってしまった。
「本当にするの?」
「うん、力を貸して、オノドリム」
「あたしはいいけど……本当に?」
「うん」
俺は迷うことなく首を縦に振った。
躊躇は一切ない。その反応にオノドリムはまたちょっとためらったが――。
「わかった」
「ありがとうオノドリム」
「いいよ、マテオに頼まれたし嫌とは言えないもん」
「本当にありがとう」
もう一度ちゃんとオノドリムにお礼をいった。
そして改めて、とノワールの遺体に向き直った。
「いくよ」
「お願い」
かけ声のあと、オノドリムから力が流れ込んでくる。
白の魔力だ。
それを俺が持っている黒の魔力とあわせて、変換無しでの人間の限界を超えた魔力量を練り上げていく。
そして、魔法を唱える。
「レイズデッド!」
魔法の光がノワールを包み込む。
やがて光が収まって、ノワールがゆっくりと目を開ける。
「……おや」
最初はゆっくりと自分の体の様子を確認したノワールだが、やがて俺の姿を見つけて驚いた。
「なぜ?」
と、シンプルな疑問をむけてきたのだった。