軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

204.爺さんの若妻

俺は過去のオノドリムにふりむいた。

「オノドリム、一つお願いをしてもいい?」

「うん? いいよ。何でもいって」

「僕たちが帰った後、ノワールの遺体を隠してほしいんだ。地下とかでもいいから、他の誰も絶対に見つからない、手出し出来ないような所に」

「それはいいんだけど……」

過去のオノドリムは俺とノワールの遺体を一度見比べてから、更に聞いてきた。

「いきさつとか詳しくないんだけど、あいつって敵なんじゃないの?」

「でも、僕の願いに手を貸してくれた。命をなげうってまで」

「復活するんだけどね」

「それでもだよ。だから彼の遺体をちゃんと守ってあげるのが僕の義務だと思う」

「うーん、まあ、あんたがそう言うのならそれでいいけど」

「ありがとう、オノドリム」

オノドリムに感謝の気持ちを伝えた。

遺体というものを、大地の精霊が本気で隠そうと思ったらきっと完璧に、安心安全に隠し通すことが出来るだろう。

俺は一度オノドリムとイシュタルに振り向いた。

「帰ろう」

「ええ」

「オッケー」

二人は頷きかえしてくれた。

俺はノワールの遺体に向き直った。

改めてエクリプスの力を通した。

ノワールの中にある力を慎重にたぐり寄せる。

いまはまだ力が残っているが、既に死んでいる遺体の力だ。

どうなるのか分からないけど、生きてるときとちがって、力はいまある分の使い切りだと思ったほうがいい。

だからちょっとでも無駄には出来ないと、慎重に力を使うことにした。

白の魔力と黒の魔力を混ぜて、一回見て、一回体験した時間移動をまねて力を行使する。

それを高めてから、イシュタルの肩に触れる。

「マテオ?」

「目を閉じて、感じ取って。遠方にある、自分と繋がってる何かを探すようなイメージで」

「自分と繋がっている……」

言われた通りに目を閉じたイシュタル。

目を閉じてしばらくの難しい顔をしたが。

「ああっ!!」

と、声を張り上げた。

たまらず目を開けてしまった、って感じで俺をみた。

「あった! そういうことなのね!」

「うん、きっとそう」

「すごいマテオ! こんなの……そういうことなの!?」

初めての感覚だからだろう。

予想すらしなかった感覚だからで、形容する言葉もなかったのだろう。

皇帝陛下であるイシュタルは元来高い教育も受けていて聡明な人だったが、そのイシュタルをして上手く形容する言葉が見つからないほどの感覚だったようだ。

「じゃあいくよ」

「ええ!」

「オノドリムも、僕に捕まって」

「うん!」

イシュタルとオノドリムと手をつないで、最後に過去のオノドリムに目を向けて別れを告げる。

「ありがとうオノドリム、すごくたすかった」

「うん、ばいばい。またね」

「えっと……そうだね、また」

過去のオノドリムが手をふってくれた。

俺はそのまま力を高めて、イシュタルとアイコンタクトを交わして頷き合って、魔法を発動。

この過去に来た時と同じように時間移動の魔法が発動した。

その時とにているが、ちょっとだけ違う感覚。

どこかにくくりつけたゴムに捕まって、くくった根元に引っ張られていく感覚。

イシュタルの体、男の方の体に引っ張られていく感覚。

引っ張られて行くにつれて、どんどんどんどんと、体が渦に吸い込まれていく、目の前が白くなっていくような感覚に包まれた。

「――」

イシュタルとオノドリムの名前を呼ぼうとしたが、声も出なくなっていた。

かろうじて手をつなげている感覚だけが残っていたから、それがなくならないように必死に手をぎゅっと握り締めた。

そうして完全に光と渦の中に飲まれていき、やがて――。

「あれ?」

あっけなく終わった。

全ての感覚があやふやになっていくような感覚から一変、文字通り地に足ついたついた感覚になった。

手入れの行き届いた芝生の上に立っていて、イシュタルとオノドリムと手をつないだままだ。

「二人とも大丈夫?」

自分の体にすぐに感じる様な異変はなく、二人にも聞いた。

「うんあたしは平気」

「問題――あっ」

「どうしたのイシュタル――あっ」

聞き返した瞬間、すぐに「あっ」の理由が分かった。

イシュタルが男の姿になっていたのだ。

過去に戻っていた頃は海水をかぶっても真水をかぶっても変化がなかったのがまたあの男の姿になっていた。

「これは……戻ったという事で……いいのか?」

体がそうなっているからか、イシュタルは自然と男言葉になった。

「たぶん……あっ」

「今度はどうしたのマテオ」

「あれ」

俺は明後日の方角を指さした。

オノドリムとイシュタルが一斉にそっちに向いて、同じように「あっ」と声を漏らした。

俺が差して二人が向いた先には屋敷があった。

俺が赤ん坊のころにすんでいて、いまも爺さんが住んでいる屋敷だ。

驚きが期待に変わり、そしてすぐに歓喜となる。

感情が一瞬で通り過ぎていったのは、屋敷の中から爺さんが出てきたからだ。

爺さんは若い女の人と一緒に出てきて、俺に近づいてきた。

「どうしたのじゃマテオ、遊びに来るとは聞いてないぞい?」

「おじい様!」

俺は爺さんに飛びつき、抱きついた。

「おおっ! どうしたのじゃマテオ」

「おじい様! おじい様だよね」

「ええ? もちろんじゃ、わしじゃよ?」

「おじい様!」

「これこれ、どうしたのじゃマテオ」

爺さんが戻った。

その喜びが爆発して爺さんに抱きついた。

当然、何が起こったのか分からない爺さんは困惑していた。

「一体どうしたのじゃマテオ」

「まだまだ甘えたい年頃なのですよ、きっと」

「おお、そういうことか。よおしマテオ、屋敷の中に入るのじゃ。丁度あまい果物を大量にもらったからそれを切り分けてやるぞい」

「あなた、アイスもありますからそれもお出ししましょう」

「おお、そうじゃったそうじゃった。それもあったのじゃ。マテオや、アイスは好きか?」

「……」

「マテオ?」

爺さんが復活した。

最初はそれで感情が爆発して、まわりがまったく見えていなかった。

しかしすぐに落ち着いてきて、ある事にきづいた。

爺さんの側にいる若い女の人の姿。

初めてみる若い女の人だ。

俺は爺さんから離れて、女の人をまじまじと見つめる。

「どうしたの、マテオ」

女の人は爺さんと同じような、穏やかで、慈しむような口調で話しかけてきた。

「あなたは……だれ?」

「え?」

女の人は驚いた。

驚いて、きょとんとなって、そのまま固まった。

「何をいっているのじゃ、マテオ」

「おじい様」

「メリンダ、わしの妻じゃよ」

「…………えええっ!?」

驚き過ぎて、素っ頓狂な声をあげてしまった。

後ろから足音がしたので振り向く。

イシュタルもオノドリムも、事態を飲み込めない不思議そうな表情をしていた。