作品タイトル不明
203.目印
「ノワールの力を使って元の時代に戻ればいいってことだね」
「その通りです」
「本当にそれでいいのか?」
イシュタルが厳しい顔でノワールに聞いた。
いきさつがいきさつだから、ノワールのいう事を素直に信用出来ないのだろう。
「相手がマテオ様です、そして、マテオ様は人間です」
「……どういう意味だ?」
「なぜ、悪魔が人間の魂を集めていると思いますか?」
「……さあ」
イシュタルは何か答えようと、迷っている間何回か口をぱくぱくさせたが、最終的に「さあ」という一言だけを搾り出した。
「人間というのは実に不思議な種族でして、その魂は愛情を源に限界を超えた力を引き出すことができます。あるいは元々あった力が、愛情のみが引き出す鍵になっているという考え方も出来ます」
「愛情……」
「ただでさえ超越的なマテオ様なのです。そのマテオ様がおじい様への愛情でどれほどの力を引き出せるか想像もつきません。現に ここ(、、) まで追いかけてこられました」
「……」
「そんなマテオ様と争い対立するよりも協力した方が得策です。今回の場合、協力を最後まで拒めば最悪私の消滅もありえます」
「消滅……本気でそう思っているの?」
「通常の勝負なら五分と五分でしょう、しかし人間が、マテオ様がおじい様のために戦う状況では9割9分負けるでしょう」
「自分の不利をそこまで冷静に言い切るのか」
「お忘れですか? 私は悪魔です。人間の欲望と愛情を推し量るのはお手の物です。あなたも――」
「それ以上はいわないで」
「――かしこまりました」
何か言おうとしたノワールだったが、イシュタルの迫力のある、ドスの効いた声で言うのをやめた。
相変わらず飄々としていて、脅しがきいたわけでもないのにノワールが黙ったのがちょっと不思議だった。
イシュタルとのやり取りの間も、俺はノワールをじっと見つめていた。
本心なのかどうかを探るためにずっと見つめた。
「……ノワール」
「はい、何でしょう」
「ありがとう」
俺はそういい、深々と頭を下げた。
本心なのかは分からないが、ノワールがこう でて(、、) 来た以上それに乗っかるしかない。
俺はノワールの提案に乗ることにした。
☆
空を飛んで、徐々に遠ざかっていくノワールの姿を、イシュタルとオノドリムと見送った。
過去のオノドリムはいない。地中に潜ってノワールを追跡していった。
去っていくノワールからぽたりぽたりと血が滴り落ちていて、それが道しるべになっているが、念の為過去のオノドリムに追跡してもらった。
「ねえマテオ」
オノドリムが俺をよんだ。振り向くと、オノドリムが不安そうな顔をしているのがみた。
「仮に本気で協力してくれたとしても、それにのっかっちゃっていいの?」
「うん」
俺は即答した。
「でもあいつ悪魔だよ、悪魔の力を借りちゃうと大変なんじゃないの?」
「おじい様のためだからね。おじい様が元に戻るんならそれくらいは」
「いいのかな」
「それに――」
「それに?」
「――ううん、なんでもない」
首を振った。
オノドリムはなおも何か聞きたげだったがイシュタルが腕を引いてそれをとめた。
☆
余計なトラブルを避けるために、オノドリムの力を借りて、地下十メートルの深さに潜って待機した。
地下とはいっても、オノドリムの力でかなり広い空間にしてもらったから、息苦しさとか一切なかった。
そこで半日待つと――。
「ただいま」
と、聞き慣れた声とともに過去のオノドリムが戻ってきた。
地下でたき火を囲んで待機していた俺達は一斉に立ち上がって、戻ってきた過去のオノドリムにむかっていた。
「お帰りオノドリム、どうだった?」
「本当にしんだよ、あの悪魔」
「そうなんだ……」
「死ぬ間際に遺言をのこした。残った悪魔でもう一人の完成された悪魔を生み出して、それで自分の復活を待ちなさい、って」
「……そっか、元々の歴史には完成された悪魔は一人いるもんね」
とらえようによっては不穏にも感じるノワールの「遺言」だけど、その遺言も俺が爺さんを助けたいという目的に沿ったものだった。
「ノワール……」
「それで、その悪魔の死体は?」
イシュタルが過去のオノドリムに聞いた。
「持ってきたよ、あたしの足元にある。悪魔達が一瞬で遺跡みたいなのをつくってそこに埋葬したけどもってきた」
過去のオノドリムがいうと、地中からノワールの遺体が現われた。
元々顔色というか、肌色の悪い悪魔。
遺体になってもほとんど見た目は変わらず、手を組んでいる事もあってすやすやと寝ているようにさえみえた。
俺はノワールの遺体にエクリプスの力を通した。
ノワールの目が開き、ゆっくりと起き上がる。
「うごいた」
「力はどうなのマテオ」
「うん、力も使えそうだ……すごい力。パワーだけなら海神ボディよりも上かもしれない」
エクリプスの力で動かして、改めてノワールの力のすごさを思い知った。
「これなら時間移動が出来る」
「それはいいんだけど、ピンポイントにもとの所に戻れるかな」
オノドリムが不安そうにいった。
ここに飛んできたときは彼女がやってくれたから、彼女は時間移動の難しさをよく知っている。
そのせいで不安そうにしているようだ。
「それなら大丈夫――うん、大丈夫」
「なんで?」
「ノワールの力越しで探ったけど、予想通りちゃんと見つかった」
「みつかったって、何が?」
「イシュタルの――男の方の体が」
「……――っ!」
不思議そうにしていたイシュタルが、瞬間、ハッとして目を見開いた。
「変身できないのは体が向こうに残ったから!?」
「そうかもしれないっておもったんだ、それが大正解。そして――」
俺はにこりと微笑み、その間もノワールの力で探り続けて、より確信をえていた。
「そのからだが目印になるよ」