軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

207.もう一人の悪魔

「……」

「どうするのマテオ」

「えっと……」

オノドリムの質問に困ってしまった。

これまで散々敵対してきて、警戒してきた相手。

それを急に仕えさせてくれ、というのは困ってしまう。

そう、困る。

前にいつの間にか居着いてしまった時とちがって、本当の意味で仕えさせてくれとノワールはいってる。

もちろん裏があることは否定しきれないが、前の時に比べて大分本気度が高かった。

とはいえノワールへの警戒が全くなくなった訳じゃない。

どうするのかをかんがえた。

「お返し、といったな?」

元の時代に戻ってきて、男の姿になったイシュタルが威厳を含ませた口調でノワールに聞いた。

「その通りです、陛下」

「その必要は無いようにおもえるが? マテオはおまえに頼み事をした、こうして約束をまもって復活させたといっても事実上は『原状復帰』にすぎない。厳しい言い方をするのならむしろマテオの方が借りがおおいと思うが」

「ねえ、あんたマテオの味方じゃなかったの?」

オノドリムが困惑した表情でイシュタルを問い詰めた。

イシュタルはそんなオノドリムを横目で一瞥するだけで答えなかった。

そのままノワールとのやり取りを続ける。

「とてもマテオに『おかえし』をする必要があるように思えないが」

「マテオ様、陛下。――精霊様。少しの間ご足労ねがえますでしょうか」

ノワールは直接答えず、俺とイシュタルとオノドリムを誘った。

俺とイシュタルが視線を交換した。

ノワールのことと、その危険性をよく理解していて、理屈をつけて断ろうとしてくれているイシュタル。

そのイシュタルの瞳が「どうするのマテオ?」と言っているようにみえた。

俺は少し考えて、首を縦にふって、ノワールの方を向く。

「いいよ、どこにいくの?」

ノワールに先導されて、俺達は空を飛んでいた。

俺とイシュタルとオノドリム。

俺がイシュタルを連れて空を飛んで、オノドリムは自力でついてくる形だ。

空に上がってから30分。

その間ひたすら飛んでいるが、誰も何もいわなかった。

俺とイシュタルはもちろん、直前までノワールに詰問していたオノドリムもノワールに警戒しているが口を閉ざしたままでいる。

とはいえそろそろ黙っているのも限界ちかい、日が暮れそうだしその前に――とおもいはじめたその時。

「まもなく目的地でございます」

「うん、わかった」

偶然っぽいが、出鼻をくじかれたような形になった。

それからしばらくして、ノワールの宣言通りに目的地に到着したのか、まずはノワール本人がゆっくりと下降を始めて、俺とオノドリムがそれについてった。

やってきたのは山のなか。

空から直接降りてきたが、まるで火山口のような山の頂点の中だった。

そこに黒い石――輝きからして黒曜石とかだろうか――それで作られた神殿のような建物があった。

「ここは?」

「あっ……」

ここはどこなのかと聞いた俺、直後に何か気づいたオノドリム。

ノワールは穏やかに微笑みながら、まずは俺達に一礼して。

「こちらへどうぞ」

そう言って先に中にはいった。

俺達はその後について同じようになかにはいっていった。

「オノドリム、ここのことしってるの?」

「うん、知ってるって言うか、まあ分かるって言うか」

「わかる? 大地の精霊だから?」

「そ。まあ……中に入れば分かるよ。今の状況だと危ないことにはならないかな」

「わかった」

オノドリムがそう言うのならば――と、俺はイシュタルと一度視線を交換して、頷き合ってから中に入った。

夕暮れ時の神殿内――室内だが、暗さはまったくなかった。

「これは……壁そのものが光っている?」

「そういう石だよ。昼間の光を溜めて夜その光でまわりを照らすの」

イシュタルが神殿の作りに驚き、オノドリムがそれを説明した。

その石の事は書物で読んだことがあって知っているが――。

「夜光石のこと? それがこんなに大量に!?」

イシュタルも俺と同じ気持ちだったようだ。

石の知識はあって、その希少さもよく知っている。

だからこそ、神殿の内部がまるまるそれで作られているようなところに驚いていた。

先導をするノワールは無言のまま進む。

しばらくして、神殿の最深部にやってきた。

ちらっと振り向くともはや外が見えないが、内部は夜光石が放つ光によって、さすがに昼の屋外にはかなわないが夜の普通の屋敷の中よりも大分明るかった。

「マテオ、あれ」

「……うん」

イシュタルが指摘して、俺は頷く。

「明るい」と思った次の瞬間にはもう気づいていた。

明るさは壁とかに使われている夜光石のためだけではなかった。

神殿の最奥に、俺達の目の前に現われた巨大なクリスタルも光を放っていて、それが神殿内を明るくさせていた。

「これは?」

「もう一人の悪魔でございます」

「もう一人の……あ」

「はい、私と同じ存在です」

「でも、悪魔じゃないみたい」

「私の復活が今からおよそ100年後だと想定しておりましたので」

「あっ、そっか、僕の寿命……」

ハッとした俺、頷くノワール。

そういうことか。

もともとノワールの予定は、俺への影響が出ないために俺が寿命を迎えた後に復活するということになっていた。

それが俺が早く「起こして」しまったもんだから、こっちがまだだって言うことになってしまったのだ。

「これはいわば卵のようなものだと思っていただいてけっこうです」

「……そっか」

俺は振り向く、オノドリムをみた。

オノドリムは頷いた。

「卵が孵るのが約100年後くらいだから、危なくないって事なんだね」

「うん、そういうこと」

「そっか……」

「ですので――」

「すぐになんとかならないの?」

俺はいってから、ノワールの言葉を遮ってしまった形になった、と気づいた。

言葉を遮られてしまったノワールはやや驚き、気づけたイシュタルもオノドリムもちょっとだけこまっていた。