軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

200.ノワールの心

「たっだいまー」

しばらくその場でまっていると、オノドリムとイシュタルが戻ってきた。

二人は出かけていった時と同じように、地中から現われた。

「オノドリム! イシュタル! 二人とも大丈夫だった?」

俺はかけよって、二人に聞いた。

イシュタルは穏やかに、そしてオノドリムは得意げな感じでわった。

「もっちろん! これくらいの事余裕だもん」

「そっか、それはよかった」

「マテオ」

俺がホッとしていると、イシュタルは静かな口調で俺の名をよんだ。

彼女の方を向くと、いつになく真剣な眼差しで俺を見つめてきた。

その瞳で9割方察しがついたが、それでも一応聞いてみた。

「どうだったの?」

「いたわ、ノワールが」

「本当に?」

「うん! この目でちゃんと確認してきた。逃げてった悪魔がノワールに報告しに行ったのを」

「そっか……それって領主様本人だったりする?」

「ううん、それはちがうっぽかった」

「確証はないけれど、およそ人間の領主が住むような屋敷ではなかったわね。深い森の中にあってどちらかと言えば世捨て人か訳ありで身を隠している人間が住むようなばしょね」

「領主になっちゃうと不便な所にはすめないもんね」

俺がそういうと、イシュタルははっきりと頷いた。

領内の統治をする領主は、よほどの偏屈者でもないかぎり、命令が届く速さと報告を受ける速さを考慮して交通の便がいいところにすむものだ。

そもそも交通の便はほとんどの場合街の発展度合いと直結している。

統治している領地で一番交通の便のいいところが一番発展している場合がおおいから、その街に住む領地が一番多い。

ノワールが行った先が深い森の奥なら領主に化けてる可能性は小さいと言っていいだろう。

「それでどうだったの?」

「うん、あいつ、部下の悪魔の報告をだまって聞いてただけだった」

「黙って聞いてただけ?」

「そっ。最後まで聞いたあとに『分かりました』ってだけいって部下のヤツを下がらせたんだよ」

「それだけ……?」

「いいえ」

イシュタルがゆっくりと首をふった。

「どういう事なのイシュタル」

「報告を受けている最中に一言『もしや』とつぶやいたわ」

「もしや」

「ええ、もしや」

小さく、しかしはっきりと頷き、俺を見つめるイシュタル。

「確かにそれいってたね……どういう意味なんだろ」

「僕が追いかけてきてるかもしれない、って事かもしれない」

「そうね、私もそう思う」

「えー、うそでしょ!?」

「いいえ、マテオ様のおっしゃる通りですよ」

「「「――っ!?」」」

いきなりの事に、心臓が口から飛び出すかと思う位の衝撃をうけた。

ぱっと声の方をむき、同時にオノドリムとイシュタルを背中にかくす。

ノワールを知っている俺とオノドリム、そしてイシュタルは驚きが大きかったが、過去のオノドリムは反応がワンテンポ遅れた。

そうしてみんなをかばいながら向き合った先には――ノワールがいた。

「ノワール……」

「ご無沙汰しております、マテオ様」

ノワールは別れた時とほとんど変わらない、慇懃な態度のままだった。

見た目は悪魔そのままで、かつ、倒してきた悪魔達とは比べものにならないほどの圧倒的な存在感を放っていたが、今の所敵意も殺意も感じられない。

「君は……僕が知っているノワールでいいの?」

「ええ」

「そうなんだ……」

「驚きました、まさかマテオ様まで時間移動で追いかけてくるなどと……しかも――」

そういって、ノワールはイシュタルに、オノドリム二人の順で全員を見回した。

「今上陛下に――二人いらっしゃるということは大地の精霊様も一緒についてこられたのですね」

「うん。オノドリムの協力で追いかけてきた」

「そうだったのですね。しかしマテオ様、マテオ様はなぜ、この時代に来られたのですか? 私のことを厄介払いが出来たのですからそれで良いのではありませんか?」

「……実は」

「マテオ!」

イシュタルが大声をあげて、俺をとめた。

俺は穏やかに、「ここは任せて」という意味合いを込めてイシュタルに微笑んだ。

そうしてイシュタルを逆に止めてから、ノワールにいった。

「ノワールたちがこの時代に戻った直後に、僕たちの世界が変わってしまったんだ」

「それはどのように」

「一瞬にして世界が魔族に支配されて、人間が家畜同然に支配された世界になった」

「……それはそれは」

「そして僕たちがしっている歴史もなくなった。皇帝陛下の帝国が最初からなかったことになって、そして――」

「そして?」

「おじい様も、最初から存在しない人になった」

「そうでございましたか」

ノワールは顔色一つ変えずにうなずいた。

一時期、俺の執事になっていた。

俺の「心からの望み」を叶えるために、執事として側にいた。

だから俺が爺さんに感謝して、本当の親以上に親だと思っている事も理解しているはずだ。

それを理解していることを、今の反応で俺は理解した。

「私がこの時代でしたことで歴史がかわったから、それを止めに来たというわけですね」

「うん、おじい様を元にもどさなくちゃ」

「わかりました。では協力いたします」

「……え?」

俺は驚いた。

俺だけじゃない、オノドリムもイシュタルも同じようにめちゃくちゃ驚いていた。

それほどの言葉で、俺達は耳を疑った。

「マテオ! 騙されてはいけない。きっと何かの罠だ」

「……」

「いいえ、罠ではありませんよ。マテオ様に協力して差し上げる理由は二つ」

「…………僕の心からの望みを叶えることになるから?」

「さすがマテオ様。おぼえてらっしゃったのですね」

ノワールは俺を称賛した。

慇懃な態度のママだったが、何故か本当に褒められているような気分になる。

「それが一つだとして、もうひとつは?」

聞くと、ノワールは微笑んだ。

ノワールとの付き合いはそこそこ長い。

そのそこそこ長い中でもはじめて見るような穏やかな微笑みだった。

「私は家族がほしかったのですよ」

と。

完成された悪魔は人生のさみしさを切々と語り出した。