作品タイトル不明
199.爺さんのために
「あっちを追わなくていいの?」
「うーん……」
「そんなに悩むこと?」
過去のオノドリムは不思議にそうに首をかしげてきた。
仕草とか反応とか、そのあたりはやっぱりオノドリムといっしょだ。
語気から感じる親密感の薄さがやっぱり「別人」だという感じがする。
俺はすこし考えて、答えた。
「逃げた悪魔でも、オノドリムとイシュタルでも。あっちを追いかけていったら警戒しちゃう。尾行って相手に油断して、安心してもらわないと目的を達しにくくなっちゃうから」
「君をかくして連れて行けるよ?」
「万が一今遠くから僕の事を監視してる誰かがいたら、僕が隠れたらそれはそれで警戒されちゃう」
「へー……あ、じゃあこれは?」
過去のオノドリムはそういい、地中に潜った。
直後――本当に瞬きをする程度の直後に、なんとイシュタルが地中から現われた。
「イシュタル!?」
「ううん、あ・た・し」
「……オノドリム」
「うん。安全になったしこの子が戻らなきゃ不自然でしょ」
なるほど! と俺は感心した。
相手の――悪魔達が見えていたものを想像してみた。
妙な女連れの子供が絡んできて、女をどうやったから地中にかくして戦いを挑んできた。
オノドリム二人の姿は見えて無くて、俺とイシュタルだけがみえてて、そのイシュタルは途中から地中に隠した。
なら追い払った後イシュタルが戻っていなきゃおかしい。
それをオノドリムが俺より先にきづいて、イシュタルの姿に化けて地中から 戻ってきて(、、、、、) くれた。
俺はにっこりと微笑みながら、オノドリムにお礼をいった。
「ありがとうオノドリム、やっぱり大地の精霊はすごいな」
「……君さ」
「え?」
「ううん、なんでもない」
「そう?」
なんだったんだろうか、と不思議におもった。
お礼をいった直後にオノドリムが意味深な感じで不思議そうな顔をしたけど、それは一瞬で収めた。
大した事じゃなかったのかな? そう思うことにした。
「それでこれからどうするの? ……見られてるかもしれないならどうしたらいいの?」
「とりあえず――」
俺は倒した悪魔たちの持ち物を改めた。
「なにしてんの?」
「尾行してなかったらここから手がかりを探さないといけないから」
「そっか……あたしも手伝う」
「え、いいの?」
俺はちょっと驚いた。
イシュタルの姿に化けてくれただけじゃなく、その事も手伝ってくれるのは驚きだった。
「うん。あたしの顔をみて話す人はものすごく久しぶりだから」
「……?」
俺はますます不思議に思った。
それが極まって、盛大に首をかしげて締まった。
顔をみて話す……それだけで? とおもった。
「たまーに人間の前に姿を見せるんだけど、みんなあたしのことをしったら平伏とかしちゃって目を合わせてくんないのよね」
「それはオノドリムがすごい人――大地の精霊だからだよ」
違う意味で苦笑いした。
大地の精霊という、人間を遙かに超越した存在。
そこまでいくと仰ぎ 見る(、、) ことすら恐れ多くて、目もあわせられないのは分かる。
俺も、オノドリムの最初が消えかかったあんな状態じゃなかったらまともに顔を合わせられていなかったと思う。
「でも君は目を見て話してくれるじゃん」
「それは僕たちと一緒に来たオノドリムで慣れてるから」
「同じことをこの子にもしてるじゃん」
そういい、自分――化けているイシュタルの姿を指さすオノドリム。
「それは……」
「あたしとこの子を同じように扱うし、その時話す相手の方を必ず向いて、まっすぐ目を見るし。いいところにそだってるっぽいのに相手によって態度を変えないのがいいんだよ」
「いい事なんだ……」
それはあまりよく分からない事だけど――こっそり爺さんに感謝した。
爺さんは俺を甘やかしてくれた――めちゃくちゃにあまやかしてくれたけど、そういうことはきっちりと教えてくれた。
村人の時はだれも教えてくれなかったし、まわりも装してなかった。
だけど爺さんは話す相手の目をしっかり見るようにって教えてくれた。
その結果、今、オノドリムに褒められている。
つまり爺さんのやったことが褒められてるってことだ。
「……」
「どうしたの? 変に真剣な顔をしちゃって」
「うん……ますますがんばって、未来とおじい様を戻さないとっておもったんだ」
「ふーん……?」
なんでこの話の流れからそれを? と訝しむオノドリム。
「それにはどうしたらいいの?」
「……やっぱりノワール、だね」
「未来から来た悪魔の事だよね」
「うん」
「そいつって強いの?」
「…………うん」
脳裏にあの夜のことがよみがえった。
エクリプスから力をもらった直後に襲いかかってきたノワール。
全力を出しても精々が「負けない」事しか出来なかった戦い。
全ての悪魔を犠牲にして産み出された「完成された悪魔」「最強の悪魔」と聞いた時はめちゃくちゃ納得した。
強いもんじゃないとも思った。
「そっか、じゃあ協力したげる」
「いいの?」
「ん、ちゃんと目を見て話してくれたお礼」
「……そ」
そんなので? と思って口に出しかけたけど、最初にオノドリムと出会った時のことを思い出した。
彼女はたぶん、今も昔も――。
そこまで思って、体が自然と動く。
過去のオノドリムに抱きついて、顔を埋めた。
「……っ」
「ありがとう、オノドリム」
「……」
オノドリムは無言で、腕を回してそっと俺を包み込むように抱きしめてくれた。