作品タイトル不明
195.おとり
「おばあちゃんは大丈夫だったの?」
状況がある程度理解できたところで、もしかしてこの老婆は惨劇の現場に立ち会っていたのか……とふと思った。
それで遠回しに聞いてみたけど、幸いにもというかなんというか、老婆の表情はほとんど変わらなかった。
「私は昔からこの山奥に一人で暮らしててね、それでたすかったのさ。息子か娘がいたらあいつらにやられてたかもしれないと思うとぞっとするね」
「そうなんだ」
それはよかった、というのもなんだか違うなと思って、のど元まででかかった言葉を飲み込んだ。
「マテオ、まずは領主に接触をしてみよう。領主が直接おかしくなったのか、妻の方がおかしくなったのか。あるいは両方か。それをまず確かめよう」
「そうだね……」
俺は考えた。
どっちも「あり」といえばありかもしれない。
領主か、その妻か、どっちかが異変の大元なんだろうというのは間違いないから、そこにまず接触を図るというイシュタルの言い分はただしい。
その事を考えた。
ちなみに今回のけんとまったく関係ないのか、と思う事はまったくなかった。
なにか直接的な証拠とかがあるわけじゃ無いが、オノドリムがブランの時間移動をみてそれを真似て。それでやってきたのがこの時代。
この場所――時代に呼び寄せられたという気持ちが強い。
だからこの時代のどこかにノワールとブランがいて、それが何かを起こそうとしているという、根拠のない確信があった。
「わるいことはいわない、関わるのはやめた方がいい」
老婆がそういった、すこし心配そうにしてる感じの表情だ。
「領主は傭兵をやとってる。噂じゃかなり有名な傭兵団だ」
「傭兵団?」
「そう、人狩りで当然反発をする村もあったが、その傭兵団が皆殺しにして回ってるって噂だ」
「そんなに危ない人達なの?」
「そう」
「わかった、じゃあ近づかないようにする。ありがとうおばあちゃん」
心優しい老婆にお礼と別れを告げて、俺達は山を下りていった。
老婆の姿が見えなくなってから、オノドリムが聞いてきた。
「本当にやめるの?」
「ううん、おばあちゃんが心配するからそういっただけ」
心優しき老婆が心配してくれるのは嬉しいことではあるが。
「このままじゃおじい様がいなくなったままだから」
そう、それが今回俺が時間移動でこの時代にやってきた一番の理由。
もちろん元の時代で世界がめちゃくちゃになったというも何とかしないといけないとはおもうが、それ以上に爺さんがいなくなった。
存在そのものがなくなっていたことが許せなかった。
問題を解明して、それを解決して。
元の世界で爺さんが戻ってくるようにしたい。
だからやめるわけにはいかない、絶対にだめだ。
「じゃあ領主のところに行くんだね」
「……さっきからその事をずっと考えてたんだけど」
そう前置きして、三人にいう。
「まずは傭兵団というのと接触したほうがいいかな、って思う」
「えー、なんで?」
オノドリムが不思議そうな顔をしたが、イシュタルは少し思案顔をした後に俺の意見に同調してくれた。
「マテオの言うとおりね」
「なんで?」
「あの老婆の話はあくまで噂、私達が見てきた村の惨状もあるから、まったくのでたらめではないけど、細部の情報が不足しすぎている。それに」
「それに?」
「もし本当にそれが領主の虎の子の戦力なら、いざという時の邪魔にならないように先に叩いて置いた方がいい。相手の切り札が残ったまま相対するのは下策ね」
「へえ、そういうものなの?」
オノドリムは分かったような、分からないような顔をしながら、俺に意見を求めた。
俺は頷き、微笑み、今度はこっちからイシュタルの意見に同調した。
「ノワールと戦うことになるかもしれないから、先に無力化しちゃったほうがいいとおもう」
「人間くらいならなにかあってもあたしがちょちょいのちょいしちゃうよ?」
「ありがとうオノドリム、すごく心強い。でも……ノワールはつよかった」
俺はノワールと戦ったときのことを思いだした。
「あんな強い人と戦うことになると、ちょっとしたことで気が散っちゃうだけでも大変だよ」
「うーん、それもそっか。すごいねマテオ、そこまで考えてたんだ」
「問題は傭兵団がどこにいるかだよね……オノドリム――は、分からないよね」
二人のオノドリムにたずねた。
すると二人同時に困った顔をした。
「普通の人間でしょ……?」
「ちょっと難しいかも」
「だよね」
「そんなに難しく考えることはない」
イシュタルが平然とそういった。
「え? なんで?」
「あの老婆がきいた噂が真実なら、女は――生き血は消耗品よ」
「……そっか」
俺は理解した。
同時に眉間に深い皺ができたのが自分でもわかった。
そういう話は歴史の本でたくさんよんだ。
過去から幾度なく、あっちこっちの王族とか貴族がやってきたことだから、本だけでもかなりの知識を得られた、共通点が分かる位の知識が得られた。
「若さを保つために女性の生き血をつかうのなら常に補充しないといけないから――」
「常に人狩りが続けられる。その辺をうろついているだろうし、ここにいる三人なら目に入ったらすぐに襲ってくるはず」
俺とイシュタルがいい、オノドリム達が納得した。
まずはあっちこっちぶらついて、傭兵団とやらをつり上げることにした。