作品タイトル不明
192.マテオと夫婦になりたい
人間に限ったことじゃない。
あらゆる動植物は死んで腐って、大地に変えれば肥やしになる。
村人時代、前の年に収穫したあとにでた葉っぱとか茎とかを発酵させて肥料をつくってたし、村の古老からどこそこで大きな戦があった翌年は作物がめちゃくちゃ育つって聞いた事もある。
マテオに転生してからは、爺さんとイシュタルが集めてくれた本の中に、魚が余るほど取れる海沿いの地域だと、腐りやすくて食用に向かない魚をうまく加工して肥料にするなんて話もあった。
人間に限ったことじゃない。
あらゆる動植物は死んで腐った後は大地の肥やしになるもんだ。
だが、人間だけが大きな違いを一つ持っている。
災害や疫病無しに大量に死人をだす事をやるのは人間だけだ。
そして――。
「ノワールがいってたね、人間の欲望を叶えて、その代わりに欲望を満たした魂をもらうって」
「権力者の欲望であれば屍の山の上にたっていてもおかしくない、か」
特に人間である、俺とイシュタルが搾り出すようにつぶやいて、視線を交換して、お互い微苦笑した。
「じゃあそこで決まりだね」
オノドリムがテンションを上げた。
「絶対じゃないけど、ノワール達を追いかけてきた先でそれなら可能性はかなり高いよね」
「行ってみよう、マテオ」
「うん、でもその前に――」
俺は一行――四人を一度ぐるっと見回した。
俺とイシュタル、そして俺達のオノドリムと過去のオノドリム。
四人を一度ぐるっと見回してから、いった。
「変装はした方がいいよね」
「変装?」
「うん。ノワール達もまさか追いかけてくるとは思ってない、というか、僕たちが追いかけてくるって思う理由が今のノワールにはないはずだから」
「……あ、私達が追いかけてくる『理由』が生まれるのは遙か未来だから」
「そういうこと。だから追いかけてくるとは思っていないと思うんだけど、それでも念の為に、鉢合わせになった時に分からない程度の変装はしたほうがいいかなって」
「そうね、マテオの言う通りね」
「どういう変装するの?」
オノドリムが聞いてきたが、俺は二人のオノドリムをじっと見つめてから答えた。
「オノドリムは大丈夫だと思う」
「なんで?」
「今ならんで見てもオノドリムはそっくりじゃない?」
「うん! だって――」
「同じ存在だから」
二人のオノドリムがそういった。
まだ出会って間もないのだが、二人の間にはもうなにか通ずるものがあるんだろう。
「うん、だから、オノドリムは万が一ノワールと遭遇しても普通にオノドリムだけど、僕とイシュタルはいちゃおかしい存在だから変装した方がいいと思うんだ」
「たしかに!」
「じゃあどう変装するの?」
「そうだね……」
オノドリムに聞かれて、俺は考えた。
今までやってきた事の中からだと海神ボディに乗り換えるのが一番の変装だけど、そもそも今は海神ボディが手元に無い状態だし、仮にあっても海神ボディはノワールも知っている。
だから別の方法を考えないといけないけど、それ以外の事で「変装」に効果的なものはあまりなかった。
「顔をちょっと変えるくらいならできるよー」
過去のオノドリムがいった。
「出来るの?」
「うん。ほら、ドリフィ人の遺跡にのこってるあれ」
「ああ!」
前半は俺に頷き、後半はもう一人のオノドリムに同意を求める。
同意を求められた方のオノドリムはポンと手を叩くほどの勢いで言われたことを理解した。
「どういう物なのオノドリム」
知ってるの? とは聞かずに直でどういう物なのかをきいた。
「もう千年くらい前? にドリフィ人っていう種族がつくった国があってね、その人たちが作った変装用のマスクがまだ遺跡に残ってるはずなんだ」
「それって効果的なものなの?」
「うん! 頭にすっぽり被せば表情もかわるし瞬きも出来る位のしろものだよ」
「それはすごいね」
俺は感心した。そしてホッとした。
それほどのものならかなりの変装になるだろうとホッとした。
「み、見た目以外にもこだわるべきよ」
今度はイシュタルが口を開いた。
視線を向けると、なぜか顔が赤くなってて、言葉がつっかえ気味だった。
「どういうことなの?」
「ふ、夫婦よ」
「ふうふ? って、旦那さんと奥さんの、あの夫婦?」
「そうよ」
言い出した直後に比べて、幾分か落ち着いてきたイシュタルが続けた。
「傍から見たイメージ、関係性。マテオが持つイメージに一番遠いのが誰かと夫婦だだということ」
「えっと……イシュタルと夫婦を演じて、装うってこと?」
「いいかもね。確かにマテオに結婚のイメージってないかも」
オノドリムがイシュタルの提案に同意した。
俺も少し考えて、たしかにって思った。
ノワールが知っている俺は少年の俺。
海神ボディに乗り移るとちょっと見た目の年齢はあがって、青年くらいになる。
その他もあれこれやって、それをノワールは屋敷にいた時見ている。
それらを会わせて俺自身色々と考えた。
確かに俺のことを結婚している、結婚したというイメージがまったくわかない。
頭のなかでシミュレートした。
俺が「マテオを探す」時、聞き込みで帰ってきた答えがかりに「そんな人いないね、若夫婦なら一組いるけど」って言われた場合、それがマテオが扮したものだとはまったく思わない。
そう考える確かにアリだと思った。
「わかった、じゃあ、そうしよう」
「ーーっ、うん!」
自分の意見が採用されたからなのか、イシュタルはものすごく嬉しそうな顔をした。