軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

186.破壊された城

魔族を一掃した後、俺達は再び海に向かって飛びだした。

オノドリムが教えてくれた海への最短ルートを空中で一直線に飛んでいく。今度は邪魔が入ることなく海にやってきた。

が、しかし。

「海の色も……まるで沼のようだ」

イシュタルが喉の奥から搾り出すような重々しい口調で言った。

そう、それは海。

大地が途切れ、遙か先の水平までなにもないその光景は一見して見慣れた海のものだ。

規模が大きすぎて、緩やかに流れてくる波もまた見慣れた光景。

しかし、色が違った。

青い海に白い波――のはずが、紫色だか灰色だか、見過ぎて目がおかしくなってくるような色に海はなっていた。

「これは本当に海なのだろうか」

「うーん、だと思うけどね。だって、大地の端っこだし……」

オノドリムも困惑している感じだった。

大地の精霊で海そのものには直接つながりを持たないオノドリムにはそういう基準でしか判断出来ないのだから、目の前の光景に困惑するのも無理はない。

が、俺は違う。

俺の中にまだ残っている、授かった海神の力がきちんと答え合わせをしてくれた。

「うん、海だよ。ここ」

「そうか……マテオがそういうのならそうだろうな」

「海なのはいいんだけど、この中に入っても大丈夫なのかな」

「それは……たぶん大丈夫だと思う」

自分の中の海神の力、海由来の力と「相談」してみた。

本当を言えば「確信」はある。

海神の力で三人をまもって海の中に入っても大丈夫という確信を持てている。

が、あまりの見た目の毒々しさに、「確信」だったものが視覚――見たものによって揺らいでしまう。

それほど毒々しく、いや禍々しいと言った方がしっくりくるような見た目だった。

俺は少し考えて、まずは自分ではいることにした。

「オノドリム、イシュタルの事を少しの間お願いできる?」

「え? なんで?」

「僕が先にはいって、大丈夫かどうか確かめてみる。大丈夫だと思うんだけど、念の為にね」

「あ、うん。わかっ――」

「大丈夫だマテオ」

オノドリムが俺の頼みを引き受けた――のとほぼ同時に、イシュタルが話にわってはいってきた。

俺とオノドリムのやり取りを途中で待ったを掛けてきたその口調には迷いは一切ないようにみえる。

「大丈夫って? どういうこと?」

「マテオは問題ないと思っているのだろう?」

「う、うん。ないと――」

ないと思うがやはり最後まで口に出すことはできなくて、途中でちらっと毒々しさマックスの海面をチラ見して、それで言葉がつっかえてしまう。

「ならば問題ない、マテオを信じる」

「いいの?」

「ああ。今はいわば敵地まっただ中、長居は無用だ」

イシュタルは迷いのない口調のまま言い切った。

その理屈はよく分かる。

世界の全てが俺達の敵、ここにいる三人以外の世界の全てが敵のようなこんな状況。

世界そのもの、いわばこの時代そのものを敵地だと言ってしまうのは少しも大げさじゃなかった。

目と目があう、イシュタルの表情と瞳にまったく迷いが見られない。

俺はさらに腹をくくった。

「わかった。僕に任せて」

「ああ、頼りにしている」

「うん」

頷き、目を閉じる。

深呼吸一つして、海の力を引き出す。

三人を包み込むようにイメージして、力をその通りに行使した。

目をあけて、二人に告げる。

「行こう」

「ああ」

「うん!」

イシュタルとオノドリムに迷いは無かった。

そんな二人をつれて、まっすぐゆっくりと海面に向かって降下する。

海面に足がつき、そのまま階段を降りる程度のスピードで海の中に沈んでいく。

ちら、とイシュタルをみた。

海水が膝のあたりまで浸かった所で、もし不安ならまだやめられるところでチラ見したが、イシュタルの表情は迷いのないままで、まっすぐに海面を見つめていた。

こうなってくると自分の迷いの方がむしろ恥ずかしく思えてきてしまう。

そうこうしているうちに三人とも海の中に沈んだ。

海の中は暗かった――が。

「大丈夫だ……」

俺はつぶやいた。

前に比べて、力を纏った状態で海中にはいっても地上にいるときのまま話したり息が出来たりする。

ただ前に比べて薄暗いだけでまったく問題はなかった。

「二人とも大丈夫?」

「うむ、問題ない」

「あたしも!」

イシュタルもオノドリムも普通に海中にいられるようで少しホッとした。

「このまま海神の肉体のある所までいくのだな?」

「ううん、その前にちょっとよっておきたいところがあるんだ」

「よっておきたいところ?」

「うん」

俺ははっきりと頷いた。

そして海の力を行使して、二人を連れて移動をはじめた。

前は明るくて、まったく水中だと感じさせない事もあってか、海中にいるのにもかかわらずまるで「飛んでいる」ような感覚だった。

しかし今は薄暗く、何となく泥水――つまりは水の中にいるような感覚になってしまうから、飛んでいるというよりも泳いでいるという感覚になった。

その感覚に違和感を感じたまま――すぐについた。

「ここは……」

「廃墟?」

目の前の光景にイシュタルとオノドリムは困った顔をして、俺に答えを求める視線を投げかけてきた。

俺は苦い顔をした。

もしかしたら、と一縷の望みを掛けてやってきたここは――。

「人魚達のお城だよ」

だった。

海中だから大丈夫かもしれない、と思ってやってきた人魚達の城は、どう見てももはや誰も住んでいない、朽ち果てた廃墟になってしまっていた。