作品タイトル不明
185.文字の大切さ
「ねえマテオ、海に直接とべないんだよね」
オノドリムがそういい、確認をとってきた。
俺ははっきりと頷いた。
「うん、水間ワープでとんでいけない。だから普通に行かないとだめ」
「じゃあ……あっ」
「どうしたの?」
「あっちにまっすぐ進んだほうが一番海にちかいよ」
オノドリムはそういい、自分の斜め後ろの方を差した。
「海の事もわかるの?」
俺はちょっと驚いた。
「ううん、大地が自然に途切れてるところが分かるだけ」
「あっ、そっか。そうだよね」
自分はバカかとちょっとおかしくなって笑った。
考えて見れば分かることだ。
海の中の事はわからなくても、土地が途切れた場所、海と繋がっている場所ならわかる。
今までのオノドリムが「分かる事」を思い返せばその感覚は当然のことですぐに納得出来た。
「あっちが一番近いの?」
「うん、直線だとね。三人くらいだったらあたしが飛んでつれてけるからこっちの方が一番はやい」
「海神を探していくという事は海中にもぐるということだが、それは大丈夫なのか?」
イシュタルが当然の疑問を口にした。
「あ、うん。それなら大丈夫。三人くらいなら僕の残ってる力でも海に入れるよ」
「あたしはそもそもいるだけならマテオの力を借りなくても大丈夫!」
「そうか」
イシュタルは納得し、俺もなるほどと納得した。
人間ならともなく、大地の精霊ともあろうものが海に入っただけで死ぬのもおかしな話だからだ。
「よし、じゃあ行こう」
「うん!」
「ああ」
そうときまれば、と。
俺達はまず地上にでた。
オノドリムの力で地下深くの空洞からまず地上にでて、それからオノドリムの力で海への最短距離に向かって、俺達をつれて飛んでもらった。
正直、俺自身飛ぶこともまだ出来るのだが。
「マテオは力を温存して」
「うむ、マテオの力が成否を分けるからな」
「そうそう、露払い露払い」
オノドリムとイシュタルがまるで結託しているかのように俺の申し出を却下した。
なんとなく申し訳なくもおもうけど、二人が言ってることはまさに正論。
「わかった、ありがとう、ふたりとも」
俺は引き下がって、飛ぶのはオノドリムに任せる事にした。
今まで何回も空を飛ぶことがあって、その都度「風をうけて飛ぶのは気持ちいいな」とおもっていた。
しかし今はまったく違う。
毒々しい空の色と相まって、飛行中の風は体に「まとわりつく」ような感じで気持ち悪かった。
海の中だとこんな気持ち悪さを感じずにすむのかな――なんて思っていると。
「あっ」
「わっ」
オノドリムが声を上げたと思えば急にとまった。
空中でいきなり止められた俺達はつんのめって――地上で馬車に乗って急停止された時とは違うつんのめり方をした。
空中でバランスを崩し、四苦八苦してなんとか姿勢を取り戻そうとしていると。
「みろよ、本当に人間だぜ」
「本当にいるとはなあ」
「え?」
下品な感じの声が聞こえて、俺は前をむいた。
するとさっきも戦ったような、人型だけど人間ではない相手が二人目の前にいた。
そいつらはコウモリのような羽を羽ばたかせながら、自力で飛んで俺達の前に 立ち塞がって(、、、、、、) いた。
「魔族……」
「動きを読まれていたのか?」
イシュタルが眉をひそめる。
「でよ、こいつらをどうすりゃいいんだ?」
「えっとなんだっけ……じいさんがそのじいさんからなにかきいてるはずなんだがな」
「なんだよつかえねえな」
「お前こそ何かしらねえのかよ」
「あれだろ? そのうち人間牧場に収まらないような連中がでてくるからなんとかしろってことだろ」
「なんとかってなんだよ」
「なんだっけ……別にいいじゃねえか。ハグレの人間だしぶっころしゃ」
「それもそうか」
魔族の二人はそういって、これまた「げひゃっひゃ」と下品な声で笑い合った。
途中でオノドリムが何か反論しようとしたり、問い詰めようとしたが、俺が引き留めて、目配せで止めた。
そうして魔族に好き勝手に喋らせていると。
「お、またきたぜ」
魔族の一人が自分達の背後に何かをみつけて、そういって、二人で振り向いた。
二人の背後、俺達の視線の先。
空の向こうから集団がむかってきた。
点だった大きさが次第に大きくなって、同じく人型でコウモリの羽をしょった魔族だと分かった。
「どうする?」
「やっとこうぜ、さいきん人間のにくくってねえし」
「ハグレならくってもいい、か。んじゃ早い者勝ちな」
「おう」
二人はまた笑い合って、無造作な構えで襲いかかってきた。
「マテオ!」
「うん、任せて」
俺は水を出して、手の平の中でオーバードライブして、魔族の二人を腰のあたりで一刀両断した。
何をされたのか分からず体が上下に泣き別れした魔族の二人は、目を見開いたまま地面に墜落していく。
それをうけて後からやってきた魔族は速度をあげて迫ってきた。
俺はオーバードライブした水の刃を広げて魔族を迎撃する。
見えない水の刃を魔族は一切合切防ぐことができず、一撃一殺って感じで全員切り捨てた。
わずか一分くらいで、襲ってきた魔族が全員切られて地面に墜落していった。
「マテオすごい! こんなに楽勝なら穴に隠れることもなかったんじゃないかな」
「そんな訳にもいかないよ。ちょっとした戦闘は勝ててもまわりが全員敵なんだから、全部を相手にしてたら消耗しちゃう」
「あー、それもそっか」
オノドリムは納得したが、残念そうな表情もした。
一方で、イシュタルは墜落していった魔族達をじっと見つめて、何やら思案顔をしていた。
「どうしたのイシュタル、何か気になる事でもあった?」
「ああ……ちぐはぐに思えてな」
「ちぐはぐ?」
「連中の口ぶりからして、我らが現われるという事は想定されているようすだった」
「うん、そんな感じだったね」
「にも関わらずそれだけで、細部の話は一切ない。捕まえるのか殺すのかもない。いくら――みた感じ末端の兵士というレベルの連中だが、そうだとしても殺すのかどうかさえないのはおかしい」
「言われてみればそうかも」
オノドリムはイシュタルの意見に納得し、同調した。
「それはきっと、文字がないからだよ」
俺ははっきりと、自分でも間違いなくそうだろう、という位の確信でいった。
「文字?」
「うん。おじい様と 陛下(、、) がたくさんのご本を下さったからわかったんだけど、文字ってすごく大事で、すごい道具なんだ。文字でご本にするだけで、数百年は文面のまま残る」
「……そうか、文字がないから必然と口伝になる。そして口伝は伝達の回数を重ねれば重ねるほど内容が少しずつ変化していく」
「うん。だから何者かが現われるのはなんとなくつたわってるけど、それが何者なのか、どれくらいの重要な相手なのか、どうするのか――が、全部ぼやけてしまってるんだ」
「なるほど……そうか文字か。すごいなマテオ、この一瞬でそこまでわかるとは」
「ううん」
俺はゆっくり首を振って、イシュタルに微笑み返した。
「文字の大事さとすごさを教えてくれたのはおじい様と 陛下(、、) だよ。ありがとう」
俺が改まった様子でお礼をいうと、イシュタルはちょっとだけ顔が赤くなったが、まんざらでもなさそうな顔をしたのだった。