軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

184.俺はまだ、親孝行ができていない

夜――月が見えない地中深く。

人間がおいそれとは到達出来ないような地下数十メートルの所にある空洞の中に、俺とオノドリムとイシュタルの三人がいた。

空洞はそれなりに広く、屋敷のリビングよりも一回り広い空間だ。

魔法で明かりを灯していることもあって、「地中です」と言われなければ――いや言われても窮屈さを感じない空間だ。

「こんなところがあるんだ」

「こんなの地下にはいくらでもあるよー」

オノドリムが陽気に答えてくれたが、すぐにまた難しい表情に戻ってしまった。

大地の精霊である彼女の導きで地下にある安全な空間にやってきたのはいいが、言い換えれば地下深くに逃げ込まなきゃ行けないほどの状況でもある。

俺達は半日掛けて、いろんな所を回って現状を確かめた。

半日だけだったが、安全のために地下に潜らないと行けない状況だと分かった。

「まさか……帝国が 存在していない(、、、、、、、) 事になっているなど……しかも魔族などという輩に世界が支配されているなどと……」

「エクリプス――夜の太陽もいたけど呼びかけには応じてくれなかったね」

「ルイザン教も跡形もなく消え去っていた。滅ぼされたのだろうな」

「魔族が文字で記録する習慣がないのが困った物だよね。何が起きたのかまったく調べようがなかったもの」

イシュタルと集めた情報を言い合った。

言えば言うほど現実味のないものばかりで、それで実は夢を見ているんじゃないかって現実逃避したくなってくる。

「どうするマテオ、このままでは……」

「……」

「このまま切り替えて生きてくって手もあるよ」

オノドリムが提案して、イシュタルが驚いた。

「何を言っている」

「なんか変な世界だけど、あたしも力を貸すからここにマテオの国つくっちゃえばいいんだよ。あんたもしがらみがなくなって、マテオのお嫁――」

「うわあ! うわーうわーうわー」

何かを言いかけたオノドリムを、イシュタルが大声出しながら、飛びついて手で口を押さえた。

なにをいわれたのかわからないが、よほどイシュタルには都合の悪い事みたいだ。

「そ、その話はやめてくれ」

「えー、いいじゃん。新しい国の国父と――」

「や・め・て・く・れ」

イシュタルは真顔でオノドリムに迫った。

かなりの迫力で、オノドリムはわかりやすく気圧されてしまった。

「う、うん。わかった。やめる。そっちはやめるけど――」

オノドリムは気を取り直して、改めていった。

「マテオの国を作るのは? たぶん出来るよ」

「それは……うむ」

さっきまでとはうってかわって、イシュタルは真顔で考え込んで、そして頷いた。

「なくはない、な」

「でしょー」

「大地の精霊の助力ならば、わが帝国の建国時と同じことだということでもあるな」

「うん! マテオのためならあの時以上にはりきっちゃう」

「そうか……それなら――」

「それはダメだよ」

放っておくと二人の間でどんどん話がまとまっていきそうにだったが、俺はその話に割って入った。

絶対にダメ、と強い意志を込めた口調で二人のやり取りをピタッと止めた。

「なんで? いいじゃん新しい国の皇帝になっちゃお?」

「皇帝になるかどうかはともかく」

俺はふっ、と笑った。

笑うしかなかった。

自分でもきっと寂しそうにって感じに笑ってるんだろうな、って分かるような笑みだった。

「おじい様がいなくなっちゃうのはだめだよ」

「あっ……」

「むっ」

二人は一斉にハッとした。

「まだおじい様に親孝行できてないんだから、このままおじい様がいなくなった世界で生きてくのは……だめだよ」

「そうか……そうだな。すまなかったマテオ、その事を見落としていた」

「あたしもごめん! 許してマテオ!」

二人は立て続けに俺に謝ってきた。

「ううん、いいよ。それよりも……」

俺はそこで一旦言葉を切って、やりたい事、やるべき事。

それらを一旦頭の中でまとめてから、二人にいった。

「僕たちも過去にいこう」

「過去に?」

イシュタルは眉をひそめた。

「うん。今世界がそうなっているのはノワールが過去にいったからなんだよね」

「そういうことになるな」

「あの時あれがノワールにとってもいい事だとおもって、こうなっちゃったら止めるしかない」

「……過去で奴らが何をしようと、それを止めれば歴史が元通りに戻る、ということだな」

「たぶんね。というか今はその方法しかないと思う」

「……そうだな」

「だから僕たちも過去にもどろう――って、思うんだけど」

「方法のことだな」

俺はイシュタルと見つめ合って、小さく頷いた。

ブランにできたのだから、過去に行く何かしらの方法が存在するのは間違いない。

まずはそれを見つけなきゃとおもった。

「それならわかるよ」

オノドリムがあっけらかんといった。

「知ってるのオノドリム!?」

「しってるというか、実際飛んだのをみてたからやり方は何となくわかるよ」

「本当に!?」

「うん、でも……」

「でも?」

「そのための力がね。マテオの今の力じゃ足りない、あたしでもだめ」

「……海神なら?」

「うん、でも」

「……うん」

俺は重々しく頷いた。

オノドリムの言葉の含みが、その意味がすぐに理解できた。

世界が変化してから「水間ワープ」の行き先がまったくないので海中にとんで海神ボディをすぐに持ってくる事ができなくなっている。

いや、エクリプス改め夜の太陽が俺の呼びかけに応じてくれないように、今の海神ボディがどうなっているのかが分からない。

それでも。

「まずはいこう」

俺は提案し、二人は頷いた。

今の力でも、二人を連れて海中に潜る事は出来る。

まずは海神ボディのあるところにいこうと、三人でうなずきあったのだった。