軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

183.歴史が変わった

「マテオ! こっちを!」

イシュタルの切羽詰まった声がした。

振り向き、更にイシュタルと同じ方角をみた。

理解するまでに時間がかかってしまった。

なぜならそこはとくに何かがあるわけでは無い、一言で言えば「野外」ともいうべき光景だったからだ。

本当にただの野外で、空が紫色なのは同じだが、それは既に見ているもの。

が、気づく。思い出す。

「屋敷が……ない?」

「あ、ああ……庭にいたはずだ……」

イシュタルの驚きの理由がようやく理解できた。

そう、俺達は庭にいたはずだ。

そもそもブランが俺達の前に現われたのは、自分が割り符を埋めた所に飛んで、そこに俺の屋敷があったからだ。

そして俺達はブランに言われたとおり、その割り符を掘り出すために庭にでた。

掘り出した後もオノドリムを呼びつけたから庭にいるままで、見送った場所も庭から動いていない。

そう、俺達はずっと庭にいた。

だから振り向けばそこには屋敷があるはずだ。

それが今はない、ただただ広がっている「野外」だ。

「どういうことなのだ?」

「屋敷に戻ってみるね」

俺はそういい、いつも持ち歩いている水筒から水を出して、水間ワープで屋敷に戻ろうとした。

――が。

「あれ?」

「どうしたマテオ」

「…………」

俺は内心驚くのを抑えつつ、水間ワープを繰り返し試した。

水間ワープは行ったことのあるところ、かつ水のある所に飛べる技だ。

そして俺が言ったことのある重要な所は俺が行きやすくなるために水を常に絶やさないでいてくれてる。

ヘカテーなんかは屋敷の中に噴水まで作ってくれたほどだ。

だから言ったことのある場所はどこにでも飛べる――はずだったが。

「どこにも飛べない……」

「どういうことだ?」

「分からない……そうだ!」

俺はそういい、小走りでその場から離れた。

最初の水間ワープしようとおもった水溜まりから二十メートルくらいはなれたところでまた水溜まりをつくった。

それで水間ワープをする――できた。

水をとおっての水間ワープ、イシュタルとオノドリムがいる場所に戻ってきた。

「うん、水間ワープは使えるね」

「なるほど! それを試したわけだな、さすがマテオ!」

イシュタルはそういって俺を褒めた――のもつかの間。

すぐにまた表情が曇ってしまった。

「だとしたら……なぜ?」

「わからない……オノドリム、どうしたの?」

状況が分からず困っていると、ふと、オノドリムが俺達に勝るとも劣らないほどの困った表情でまわりをキョロキョロしているのが分かった。

俺が問いかけると、彼女は困った顔のままこたえる。

「なんか……変だよ」

「どこが変なの?」

変と言えば何もかもが変だが、大地の精霊である彼女には俺達にはわからない何かを感じていると思った。

果たしてそれは正解だった。

「ここ……あたしの知ってる大地じゃない」

オノドリムから帰ってきたのは、彼女だけが理解できる感覚だった。

「どういう事なの?」

「あのね、あたしって大地の事なら全部わかるのね」

「うん、それは何回もお世話になったから分かる」

「大地のどこに何が埋まってるかとか、そういうのが全部わかるんだ。でも、この大地ってあたしが覚えてるのと全然ちがうんだ」

「なぜそうなるのだ?」

「わかんないよ。あたしだって困ってるよ!」

オノドリムがそういい、ますます困り果ててしまった。

俺は少し考えた。

もしかして――。

「キシャー!! みろよみろよ!」

「ぐきゃきゃきゃきゃきゃ! こんなところに人間がいるぜ」

俺達三人のものではない、甲高い声が背後から聞こえてきた。

三人が一斉に振り向いた。

振り向いた先にモンスターがいた。

頭と体と何より両手両足があって、人間と似たようなフォルムをしているけど、服を着ていなくて全裸の体が毒々しい紫色だ。

更に手足の爪が鋭く、背中にはコウモリのような羽が生えている。

「デーモン!? なぜ帝国の領内に!?」

これに驚いたのはイシュタルだった。

デーモンは数あるモンスターの中でも、とりわけ知性が高く、人間に対する縄張り意識も高い。

人間が「領土」としている所にはほとんど出没しないモンスターだ。

帝国皇帝であるイシュタルからすれば帝国の領内でデーモンを見かけるのは相当の驚きがある。

「くけけけけ、人間牧場から逃げ出したんだろ」

「ってことは野良か、野良なら食ってもいいよな」

「久しぶりのごちそうだぜえええ!」

一方的な事を言い合いながら、デーモンたちは飛びかかってきた。

そのまま一番近くにいるイシュタルに迫った。

俺は水筒から水をだし、手の平にのせた。

合掌して、両手の中に水を含ませて、力を込める。

オーバードライブ・無形水刃

溶けるかのように形を失った水の刃がデーモンの首をはねた。

首を刎ねられて、突進する勢いも失って地面に突っ込むデーモン達。

「その人には大事な人だから触らないで」

「マテオ……」

「大丈夫だった?」

「う、うん。見ての通りだ」

俺はとりあえずホッとした。

ほとんど前兆なく襲いかかられたから、とっさの事だったからイシュタルを守れてホッとした。

「それにしても、なぜデーモンが……」

「ねえオノドリム、ちょっと聞いてもいい?」

「え? うん、なに?」

イシュタルに比べて驚きの少なかったオノドリム。大地の精霊にとってはデーモンは焦るほどの相手ではなかったようだ。

そんなオノドリムに聞いた。

「今でも、大地の中の様子は分かる?」

「うん、それは分かるよ」

「じゃあ……ね、大雑把になんだけど、500年前からずっと埋まったままの金銀財宝ってある?」

「500年前からの?」

「うん」

「えっと……うん、あるよ、いくつも」

「……そう」

オノドリムの答えをうけて、俺は考え込んだ。

もしかしたらそうかもしれない、と思った。

「財宝がほしいの?」

「ううん、そうじゃないんだ。あのね、もうひとつ教えて。オノドリムが変わったって思ったの、もしかして全部ここ2~300年くらいのもの?」

「え? あ……そうかも」

「もっといえば、ノワール……最高の悪魔がうまれたあとのもの?」

「……ああっ! 本当だ!?」

オノドリムはハッとした。

どうやら俺の推測はあっていたようだ。

「どういう事だマテオ」

「多分だけど……、ずっとモヤモヤしてたことなんだけど」

俺はイシュタルの方を向いて、自分でもわかる位深刻な表情でこたえる。

「ノワールを連れて帰ったことで、ノワールが生まれてから先の歴史が変わっちゃったんじゃないかって」

それは、ブランに「過去から来た」とその目的を聞いてからずっとモヤモヤしていた事。

過去が変われば歴史もかわるんじゃ? というもやもやが、実際の光景を目の当たりにして確信にかわったのだった。