軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

182.急変

「あの……これで信じてくれますか?」

ブランがおそるおそる、顔色をうかがうような仕草で聞いてきた。

「うん、信じるよ。正直まだ信じられないけど――」

俺はそういい、黄金の割り符とオノドリムを交互に見比べた。

「――君のいう事を信じる」

「よいのかマテオ」

それに待ったを掛けてきたのがイシュタルだった。

「時間移動など、どう考えても与太話だと思うのだが」

「僕もまだそう思うけど」

「だったらなぜ?」

「証拠があるしね。それに」

「それに?」

「世の中知らない事の方がおおいんだ。だから、証拠が本物なら受け入れるべきかなって」

「……そうだな。さすがだマテオ。その考え方は見習うべきだと思うよ」

イシュタルはそういい、納得してくれた。

その横で、またしてもおそるおそる、といった感じでブランが話しかけてきた。

「あの」

「え? あ、ごめんなさい。こっちだけで話がもりあがっちゃった」

「いいえ。その、信じてもらえたのなら」

「うん」

「完成された悪魔の事を、居場所などもしご存じでしたら教えてくれませんか? この時代ではあなただけが頼りなのです」

「……」

「ど、どうしたのですか?」

「ううん、ああ、悪魔なんだな、って」

「どういう事ですか?」

「ノワールもそうだったけど、なんだか、悪魔って先に与えてからもらう、っていう性質をもってる感じがする。君も僕に信じてもらうまでノワールの事を教えてってほとんど言わなかったし」

「ふむ、言われてみれば」

イシュタルもあごを摘まむ、興味深い、と言わんばかりの表情をした。

「通常であればもっと勢いよく食いついてもおかしくない」

「うん、ノワールもすごく気の長い事をしてるから、なんだかそういうのって悪魔っぽいなって」

「……」

ブランは苦笑いした。

なんと言っていいのか分からない、という顔をしている。

「分かった、ノワールを呼んでみる」

「呼んで……?」

「ノワール? 僕の声が聞こえる?」

「お呼びでございますか? ご主人様」

「「「わっ!!」」」

呼びかけた直後、ノワールがどこからともなく現われた。

いきなり現われたノワールにイシュタル、オノドリム、果てはブランまでもがびっくりして声を上げてしまう。

「くるの早かったね」

「主に呼ばれればすぐに参上するのが執事の務めでございます」

「そうなんだ。話はきいてた?」

「いいえ、許可も無しに聞き耳を立てることは許されておりません」

「そうなんだ」

俺は苦笑いした。

「でも、いつも呼んでるときはなんか聞いてたみたいなかんじですぐに状況把握出来てたよね」

「即座に状況を把握し主の命令に応えるのも執事のたしなみでございます」

「それは大変だ――じゃあ今の状況は分かる?」

「……過去から悪魔が時空転移をして来た、といった所でしょうか」

「ええ!? わかるの?」

「時空転移に関する知識を持ち合わせており、かつ、その黄金のプレートからの推測でございます」

「そうなんだ……」

「ふむ、同じ悪魔、時間――いや、時空転移? だったか。それの知識を同じように持っていてもおかしくはないか」

イシュタルがそういい、なっとくした表情を浮かべた。

その言葉に俺はなるほどだとおもった。

たしかに同じ悪魔のノワールがその知識を受け継いでいるのは不思議な話じゃなかった。例え世界中で知られてなくても、特定の一族だけがもつ門外不出の知識は確かに存在する。

時間移動改め時空転移はやや話が大きくなるけど本質の所ではそれは変わらないはずだ。

「はじめまして、私の名前はブランといいます」

「ノワールと申します」

「単刀直入にいいます、私と一緒に来て下さい」

「過去へ、という事でしょうか」

「はい」

「なぜでしょう」

「一人しか出来ない完璧の悪魔を二人にするためです」

「……つがい、ですか?」

「はい」

「そうですか……」

ノワールは静かにうなずいた。

同じく悪魔、そしてその話の核心というか当の本人であるからか、ノワールはほとんど最小限の説明だけで全てを理解した様だった。

それはさすがだと思った。

「お話は理解できました」

「じゃあ――」

「申し訳ございませんが、その話をお受けする訳には参りません」

「――っ!? ど、どうして!?」

まさか断られるとは思っていなかった様子のブラン。

この世の終わりかって位の衝撃を受けた表情でノワールに詰め寄った。

「私は主に仕えている身、勝手なわがままで職務を放り出すことは出来ません」

ノワールの返事には、ブランのみならず俺も驚いた。

いや、言葉の内容自体は至極真っ当なものだ。

執事が主の許可なく職場放棄はできない、という真っ当も真っ当な返事だ。

だがそれがノワールの口から出てくるとはまったく思っていなくて、めちゃくちゃ驚いてしまった。

「あ、主って――」

泣きそうなブラン。ノワールが俺に視線を向けるとブランも俺に泣きついてきた。

「お願いします! 何か言ってあげてください! そうだ! 彼を首にしてください、そのためになら何でもします! 貴族ですよね。名声も金銀財宝も世界中の美女も思いのままにできる様にして、なんでも願いを叶えてあげますから!」

必死な感じで俺に食い下がってくるブラン。

提示されてきたものは全部ノワールと一緒で、これまた悪魔だなあ、と俺は思った。

「ノワール」

「はい」

「行ってあげて。話はさっき、ブランさんからきいた。たぶんそれってノワールにしかしてあげられないことだから。一緒に行ってあげて」

「……かしこまりました。ご主人様がそうおっしゃるのであれば」

ノワールはそう言い、ブランに向き直った。

「ご主人様の許可を得られましたので、ご一緒します」

「――っ! ありがとうございます!」

「お礼はご主人様に」

「ありがとうございます!」

ノワールに指摘をされて、ブランは俺にも頭を下げた。

そして善は急げ、とばかりにブランは魔法陣を描いた。

出来た魔法陣の中にノワールとブランが一緒にはいった。

過去に飛ばされるわけにはいかない俺とイシュタルとオノドリムが一つに固まって、魔法陣からすこし離れた所で見守った。

「では、いきます」

「うん、気をつけてね」

「本当にありがとうございました。では!」

ブランはそう言い、手を天高く突き上げた。

直後、雷鳴が轟きブラン達の直上から巨大な落雷が二人に落ちた。

雷を受けて、魔法陣が煌々と光り出した。

と同時に、めちゃくちゃな力の奔流が俺達を襲った。

「きゃっ!」

「くうぅ!」

「イシュタル! オノドリム!」

光る魔法陣、押し寄せる力。

俺はとっさに水の力、海神の力を行使して障壁をはって、二人をまもった。

それが間一髪、というレベルのタイミングで間に合って、障壁に更なる力が押し寄せてきた。

強大な力は時として物質的ななにかに転換する。

まるで霧のような力が障壁を覆った。

「ま、マテオ!?」

「大丈夫、僕がいるから」

「う、うん!」

イシュタルは俺にぎゅっとしがみついてきた。

オノドリムも口には出さないが、俺の肩に置かれた手に力がこもっている。

大地の精霊である彼女が緊張している……?

もしかしてかなりの事が起きているのか? と思った直後、霧の向こうでよく分からないが、何らかの光が爆発的に膨らみ上がって、そして消えた。

「いったの……?」

何となく、直感的にそう思った。

そして、霧が徐々に晴れていく。

感じ取ったとおり、そこにはもう、二人はいなかった。

どうやら二人は無事旅だったようだ。

「えええええ!?」

それでホッとしたのもつかの間、オノドリムの悲鳴が聞こえてきた。

「どうしたのオノドリム?」

「あ、あれ!」

切羽詰まったオノドリムの声、伸ばされて空を指した指。

その指を追って空を見上げると――俺も驚いた。

「ど、どういう事だ……」

同じようにしたイシュタルも驚愕した。

空が紫色になっていた。

いや、ありとあらゆる光景が変わっていて、あまりにも変わり果ててしまって。

空が紫色になった、以外の事は理解が追いつかず頭に入ってこない。

まるで別の世界に飛ばされてしまったみたいな、そんな衝撃的な景色の中に俺達三人は放り出されていた。